最終話

 いつものように友達部がぐだぐだと話していると――トントンと扉をノックする音が聞こえる。

「あれ? 誰か来たよ」

「もしかして入部希望者じゃないかしら? タマちゃん、よろしく」

「はい、部長。見てきま~す」

 タマミが笑顔で扉へ向かう。

しかし――扉を開けたタマミの笑顔はすぐに消え、おびえた表情に変わってしまう。

なぜなら、扉の前には、タマミをいじめていた黒澤が立っていたからだ――。


 突然のことに言葉を失う部員達……。

 しかし、カズアキは彼の表情を見て何かを感じたようで、すぐに優しく話かけた。

「いらっしゃい! 今日はどうしたの?」

「あ、あの……綾瀬に用があって」

「え? 僕に……?!」

「ああ。ちょっといいかな」

「ここで話しなさい」

 ミラが後ろから厳しい口調で声をかけ、タマミも怖がってカズアキの後ろに隠れる。

 すると、黒澤は大きく息を吸ったかと思うと突然、深く頭を下げた。

「え? 黒澤……くん?」

「いろいろとひどいことして悪かった」

「ど、どうしたの……突然」

「本当にすまなかったよ。一度ちゃんと謝りたかったんだ……。それとスパイクのことも悪かったよ。それじゃあ」

 すぐに立ち去ろうとする黒澤だが、タマミが声をかけ呼び止める。

「あの……黒澤くん」

「なんだ?」

「ここに来た理由はそれだけ?」

「……そうだよ」

「サッカー部は今も続けてるのかな?」

「もう辞めるつもりだ」

「でも、この学校はどこかのクラブに所属しないと駄目だよね。次はどうするの?」

「それは……また考えるよ」


「ちょっと待って」

 帰ろうとする黒澤を突然ミラが呼び止めた。そして全員嫌な予感がする――。


「あなたもしかして今……『ぼっち男』なんじゃないの?」


「はい! また出た! 思ったことすぐ言うクセ! 私もちょっと噂で聞いてたけど!」

「私は確認しただけよ。別に違うなら違うでいいじゃない」

「それはそうだけど! 人には聞かれたくないこともあるし――」

「いいんです先輩。俺は……そうです。いじめられてます」

「え? 黒澤くんが?」

「ああ。お前とのことがあったとき、部の全員が俺単独でやったと言い出したんだ。それで俺だけが停学になってな。それで俺は仲間外れにされて、毎日いろいろされてる」

「そうだったんだ……。黒澤くんだけじゃなかったのに」

「でも、それはいいんだよ。俺が一番ひどいことしてたのは事実なんだし。でも、わかったんだよ。あの集団の中、一人でいることがどれだけ辛いかってことを。それでお前のこと思い出したから」

「だから、今日来てくれたんだ。ありがとう……」

 タマミは、そう言って手をそっと握った。すると黒澤は、恥ずかしそうに顔を背けた――。


「合格!」

 ユメは黒澤を指さしながら当然何かの合格を宣言した。

「私も合格」

 ミラも同じ気持ちのようで、両手で丸をつくっている。

「まあ、私もよろしくてよ」

サヤカも親指を立てて、OKのポーズをした。そして、タカノリも頷いている。

「我が部のスリートップがOK出したなら、いいんじゃない? 男も二人で寂しかったしな」

「僕も男です!」


 黒澤は意味がわからず、部室の入り口できょろきょろしている。

「俺が合格? 何が?」

すると、ユメがイライラしながら前に出てきた。

「友達部の入部審査に合格ってことよ! もうほら、早く中に入りなさい! 部のルールを教えてあげる!」

「え? はい……?」

 ユメは黒澤の手をつかみ、部室の中に無理やり引き入れた。

「相変わらずユメは強引だねぇ」

 タカノリの言葉に、またミラが、きつい一言を言い放つ。

「こんなウジウジした『ぼっち男』には、これくらい強引な方がいいわ」

「はい! また出ました! 私も思ってたけど言ったら駄目!」

「それは、あなたも言ってるのと同じですわよ」

 サヤカの突っ込みに全員が笑い出す。


「それで、あなた名前は? 黒澤なに? まさかアキラじゃないわよね」

「そうです……アキラです」

「ええ?! まじなの……? なんかごめん。じゃあ、あなたのニックネームは――」

「カントクだよな」

「そうね、カントクね」

「ちょ、ちょっとそれはかわいそうだよ」

 ミラとタカノリの悪ふざけをカズアキが止めている。

「仕方ないわね。じゃあ、アキラにしましょう。それでいい?」

「は、はい。わかりました……」

 黒澤は友達部のやり取りに圧倒されながらタマミに確認する。

「おい、綾瀬……。この人達っていつもこんな感じなのか?」

「そうだよ。毎日こんな感じなんだ」

「俺、やっていけるのかな……」

「全然大丈夫だよ。みんな変わってるけど、すばらしい人ばかりだから」

「でもなんかいいよな。こういう仲間がいるのは……」

「そうだね……」


 すると、部室の入り口には、いつの間にかミーヤが立っていた。そしてなぜか号泣している。

「あれ? ミーヤじゃない。どうしたの?」

 すると、ミーヤは大喜びしながらユメに抱きついてきた。

「あなたたち、最高よ~!」

「ちょ、ちょっとミーヤ先生! どうしたの?」

「ちょっと聞いて~。実はね、さっき教頭先生がね――」



 ――それはいつもと変わりない放課後。

野球部がボールを打つ金属音と吹奏楽部の演奏が遠くで鳴っている。

そして、たまに微かに聞こえる友達部の笑い声――。


 私立天河高校、友達部の活動はこれからも続いていく。

 


―― 完 ――


最後までお読みいただきありがとうございました!

はるなん

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僕の愛した女神が本当に女神様だった話 はるなん @harunan_novel

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