第6話 処遇

「先輩が盗撮したのが悪いんじゃないですか!」


 朱美も負けじと応戦する。


「二人とも、それくらいにしないっすか? 盗撮した方も悪いし、それを無断で消した方も悪いんで」


 そう陽人が冷ややかに言うと、駿也と朱美は納得こそしていないものの口をつぐんだ。


「中谷。お前の行動は、次の定例会議で取り上げさせてもらう。処分が決まるまで、新聞部は活動停止だ。いいな?」


 徹が無感情に告げると、


「なっ……!? 何でだよ! 僕は、校内新聞の記事を書くために――!」


 横暴だと、駿也が抗議する。


「その方法がまずかったって言ってんだよ! 聞き分けろ!」


 と、和貴がドスのきいた低い声で言い放つ。


 その迫力に怯んだのか、駿也は視線を外して黙り込んだ。


「篠原さん。君がしたことは、許されないことだ。それはわかるよね?」


 気まずい空気の中、徹が朱美に問いかけた。


 硬い表情でうなずく朱美。彼女自身、悪いことをした自覚はあるようだ。


 そんな彼女を助けようと、華が一歩前に出る。


「あの! 朱美ちゃんだけが悪いわけじゃないです! 私も一緒にいたから――」


「落ち着いてくれ。その件じゃないから」


 と、徹は苦笑しながら、華の言葉をさえぎった。


「許されないこととは言え、君たちは被害者だ。厳重注意でとどめておこう。けど、もし次にこんなことを起こしたら、相応の処分があると思っておいてくれ」


 徹のその言葉に、朱美は神妙な面持ちでうなずいた。


「それで、だ。猫の件はどうするよ?」


 和貴の問いに、徹はわずかに思案して、


「その件は、校長先生に進言してみる。だから、少し待っててくれ」


「結果は、もちろん教えてくれますよね?」


 それまで静観していた陽人が、当然とばかりに徹にたずねた。


 ため息を一つすると、徹はしかたないというような態度でわかったと一言だけ言った。


 とにかく、後日報告をするからと、この日は解散することになった。


 * * *


 数日後、陽人と和貴がいつものようにミステリー研究同好会の部室にいると、珍しく徹が訪ねてきた。先日の猫の件と新聞部の処遇の結果について報告に来たようだ。


「どうなったんすか?」


 身を乗りだす陽人に、落ち着くように言ってから徹は口を開いた。


 結論から言えば、猫は学校で飼育することになり、新聞部は部長の交代と今後の取材は強引に行わないことを条件に廃部を免れた。


「堅物で有名なあの校長が、よく許可したな」


 どんな魔法を使ったんだと、和貴がからかい半分で言う。


「校長先生も、猫のことはうわさには聞いてたみたいでな。気になってたらしいんだ」


 和貴の軽口には取り合わず、徹は事実だけを淡々と告げる。


「松木先輩、ありがとうございます!」


 と、陽人は唐突に礼を言うと、ポケットからスマートフォンを取り出して、華と朱美に結果を連絡する。


 すぐに返信があり、二人とも胸をなでおろしている様子だった。


「そっか、それはよかった。佐久山もよくやったよ。お疲れ」


 ほっとしたような表情で、徹が陽人を労う。


「ほーんと、さすが陽人だぜ」


 和貴も軽口に本音を隠して告げた。


 だが、陽人は微妙な表情を浮かべる。


「……どうしたんすか? 二人とも。いや、和貴先輩はけっこうそういうこと言ってくれるけど、松木先輩はほとんどないじゃないっすか。珍しすぎて引く……」


「ひどいな、人がせっかく労ってるのに……まあいいや。俺と和貴にマックを奢ることで許してやるよ」


 そう言うと、徹は陽人の返事も聞かずに部屋を出て行こうとする。


「ラッキー。ゴチになりまーす」


 と、にやにやしながら、和貴は徹の後に続く。


「ちょっと! 何すか、それ? 俺、まだ奢るって言ってないっすよ!」


抗議しながらも、陽人は自然と笑顔になっていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

スクープ画像消失事件 倉谷みこと @mikoto794

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ