第5話 真相

 まず、犯人は、駿也が昨日デジタルカメラで撮影をしているということを知っている人物である。それが、この部屋のロッカーにあることも。


 そういうわけで、新聞部顧問の三条に部室の鍵を借り、誰にも見つからずにこの部屋に入る。ロッカーからデジタルカメラを取り出そうとしたが、鍵がかかっていて扉が開かない。鍵の捜索を時間の無駄と切り捨てた犯人は、ピッキングでロッカーの鍵を開ける選択をした。おそらく、ヘアピンか何かを道具として使ったのだろう。その痕跡として、鍵穴付近に傷がついたのだと思われる。


 どうにか鍵を開けることに成功すると、デジタルカメラを起動して目当ての画像だけを消去した。


 カメラを戻し、鍵も元通りにかけると、犯人は何食わぬ顔で三条に部室の鍵を返し、自分の教室へと向かった。


「こんなところっすかね。で、これができるのはただ一人。篠原朱美さん、君だけなんだよ」


 と、陽人は朱美を見据えて告げた。


「それって、佐久山の推理でしょ? 証拠はあるの?」


 不機嫌に返す朱美に、残念ながら物的証拠はないとしながらも、陽人は朱美しかいないと断言した。


「証拠がないのに、やったとか言われてもね」


 と、薄ら笑いを見せる朱美。


 それに動じることなく、陽人は言葉を紡いでいく。


「ねえ? 画像に写ってた猫、元気かな?」


「――っ! 佐久山、あんた……っ!」


 たったその一言で、朱美は血相を変えた。


 陽人につかみかかろうとして、すぐに和貴にさえぎられた。


「離して! 離してよ!」


「落ち着けって! 俺ら、猫のことなんざ知らねえよ。事情知ってるなら教えてくれ!」


 暴れる朱美を押さえながら、和貴が説得を試みる。


「佐久山君、本当にあの子のこと知らないの?」


 それまで沈黙を守っていた華が、確認するように陽人にたずねた。


「ああ、うん。何も知らないんだ。中谷先輩から猫がいたって話を聞いただけでさ」


 ごめんねと、だまし討ちをするようなまねをしたことを陽人が謝罪した。


 すると、それまで暴れていた朱美が急におとなしくなった。


「どういうことなのか、説明してくれないか?」


 徹がうながすと、


「実は、怪我した猫を朱美ちゃんと一緒に保護してたんです……」


 と、華が朱美の代わりに口を開く。


 ――すべての始まりは数日前のこと。華と朱美が、学校の敷地内で怪我をした猫を見つけた。応急処置をして、校舎裏で保護することに。教師に伝えなかったのは、単純に怒られると思ったからだ。伝えたら、猫が保健所に連れて行かれると思ったのかもしれない。


 その日から、放課後は猫の世話をすると二人の間で決めた。教師や帰宅する生徒たちに見つからないように、猫の世話をしていた二人。


「……だけど、昨日の放課後、そこにいる新聞部の部長さんに見つかったの。それも盗撮された!」


 華の話を引き継いで、朱美がそう強い口調で言った。


 これには、華も気づいていなかったようで、小さく声をあげる。


「中谷、それは本当なのか?」


 と、徹が静かに駿也に問う。


 すると、駿也がいきなり笑い出した。

「なんだ、バレてたのか。ああ、彼女が言ったことは本当さ。スクープは、常に危険が伴わないとね」


 悪びれることもなく、朱美の言葉を肯定する。


「お前……!」


 いつの間にか朱美を解放していた和貴が、駿也に殴りかかろうとする。


「やめろ、和貴!」


「だめだって先輩、ストップ!」


 とっさに徹と陽人が彼を止める。


 和貴は舌打ちをすると、とりあえずは矛を収めた。


「盗撮は犯罪だぞ! 中谷、わかってるんだろうな?」


 徹が断罪するが、駿也は何をわかりきったことをと言いたそうな表情で徹を見る。


「そんなことより、今は彼女のことだろう?」


 自分のことを棚に上げ、駿也は冷ややかに告げた。


 そう言われてしまっては、反論する余地さえない。和貴はもちろんだが、徹も口をつぐんだまま駿也をにらみつけた。


「そうっすね。とりあえず、彼女の話を聞きましょうか」


 と、陽人が感情を抑えて、朱美をうながした。


 朱美はうなずいて、説明を再開する。


 ――盗撮されたことに気づいた朱美は、華に先に帰っていいと言って、駿也の後をつけることにした。見つからないように尾行し、彼が新聞部の部室に入るところを目撃する。窓からこっそりと中をのぞき、デジタルカメラをしまっている場所を確認して帰宅する。


 翌日――つまり、今日――の朝、いつもより早く登校して職員室に行き、三条から新聞部の部室の鍵を借りる。誰にも見られないように用心しながら部室に入り、ロッカーの鍵をヘアピンを使って開ける。中にしまわれているデジタルカメラのメモリを確認して、自分と華が写っている画像だけを消去した。カメラをもとに戻しロッカーの鍵をかけると、何ごともなかったかのように部室の鍵を返却したというわけである。


「そうか、お前が消したのか。せっかく、スクープ記事が書けると思ったのに、余計なことを!」


 と、駿也が牙をむき出しにして吠える。

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