第4話 推理
「う、うん……」
うなずいたはいいものの、不安なのだろう。華は、申し訳なさそうな表情を浮かべて、陽人を
「おい、陽人……!」
どうするんだと言いたげな和貴の声に、陽人は駿也の言葉を思い出していた。『消えた画像には、二人の女子生徒と猫が写っていた』というものである。
駿也は、女子生徒が誰なのかまでは言っていなかった。だが、朱美が関係していることは明白だろう。
今の彼女の態度に確信めいたものを感じた陽人は、賭けに出ることにした。
「君が……いや、君たちが気にかけてる猫に関することなんだけど?」
それでも帰るのかと問いかけたのだ。
その瞬間、立ち止まる二人の女子生徒。華は勢いよく振り返り、驚いたように陽人を見る。
(ビンゴ!)
陽人は、内心ほくそ笑んだ。朱美が関係しているとするならば、いつも一緒に行動している華も関わっていると予想したのである。
「佐久山、あんた……」
そう言って、ゆっくりと振り向いた朱美の表情は、怒りとも驚きともつかないものだった。
「話、聞かせてくれるよね?」
あくまでも問いかける口調を崩さない陽人だが、その声音は否とは言わせない響きがある。
「……何が聞きたいの?」
警戒しているのか、朱美は低い声でたずねる。
「新聞部にあるデジカメの画像が、一部消えてたらしいんだけど、篠原さん、何か知らないかな?」
あくまでも質問という
陽人を見据える視線はそのままに、朱美は知らないとだけ告げる。
「そっか。じゃあ、何かわかったら教えてよ。俺たち、新聞部の部室にいるからさ」
と、陽人は和貴をうながして
「そうそう。画像のことじゃなくて、猫のことでもいいからね」
思い出したかのようにそう言って、陽人と和貴は教室を後にした。
* * *
「遅い!」
新聞部の部室の扉を開いた瞬間、いらだった徹の声が二人を出迎えた。
「えー? そんな時間経ってなくね?」
と、和貴が口を尖らせながら抗議する。
陽人と和貴がここを出てから、三十分も経っていない。だというのに、徹はいらだちをあらわにしている。
「そんなに怒らないでくださいよ、松木先輩。この事件の真相、今から聞かせてあげますから」
陽人はそう言って、ロッカー前へと歩いていく。
「真相? 誰が犯人なのかわかったのか?」
たずねる徹に、陽人は無言でうなずいた。
「犯人は誰なんだ!」
早く教えろと駿也が急かすが、
「まあまあ、落ち着いてくださいよ」
と、陽人がはぐらかす。
三年生三人は、何か言おうとするものの、結局何も言えないまま黙り込んだ。
数分後、部室の扉が容赦なく開けられた。
四人の視線が扉の方へと向けられる。そこには、仏頂面の朱美と不安そうな華の姿があった。
「いらっしゃい。来ると思ってたよ」
陽人が二人の女子に入るようにうながすと、二人はそろそろと部室内に入る。
その瞬間、駿也がわずかに目を見開いた。それは、ほんの一瞬のことだったが、陽人は見逃さない。だが、それを口に出すことはなかった。
先輩たちに二人のことを軽く紹介した陽人は、
「さてと、ここで何があったのか、おさらいしましょうか」
と、もったいぶったように告げた。
「そうしてもらえると、俺としても助かる」
と、気まずい空気を払拭するように和貴が言った。
その言葉に、陽人は軽くうなずいて、
「今日、この部屋で、デジカメに保存してある画像の一部が消失する事件がありました」
と、淡々と告げた――。
今日の放課後、駿也がいつものように新聞部の部室を訪れた。昨日撮影した画像をもとに、記事を書く予定だった。デジタルカメラを確認すると、昨日撮影した画像だけが消えていた。部室に鍵がかかっていたことは確認済みだったので、校内で事件が起きたと生徒会に報告しに行った。
生徒会長である徹だけに報告するつもりが、偶然その場に居合わせた和貴と陽人にも聞かせることになった。それにより、消えた画像には、二人の女子生徒と猫が写し出されていたことがわかった。
陽人の好奇心により、現場である新聞部の部室に四人で向かい調査をする。その時に、デジタルカメラが鍵つきのロッカーに保管されていること、その鍵はロッカー下の引き出しに収納されていること、鍵の所在を知っているのは新聞部員と顧問の三条だけだったことが判明する。そして、陽人がロッカーの鍵穴付近に小さな傷がついていることを発見した。
ただ、証拠と呼べるものはこれだけだった。そこで、三条に話を聞きに行くと、今日の朝早くにシナモン色の髪の女子が新聞部の部室の鍵を借りに来たと証言する。その証言をもとに、朱美に何か知らないか声をかけた。
「とまあ、現状こんな感じです」
陽人は、一旦ここで言葉を切った。
「それで、誰の犯行なんだ?」
徹が先をうながすと、
「まあまあ、犯人が誰かよりも先に、その犯行について解き明かしましょう」
陽人は、もったいぶるように告げると事件の振り返りを再開した。
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