第3話 三条の証言と女子生徒
だが、その感覚もつかの間のことで。『職員室』と書かれた表示板が、視界の上の方に見えた。目的地に到着である。
陽人は、扉を軽くノックすると、
「失礼します」
と、扉を開けた。
職員室には、数人の教師が残っている。
(えっと、三条先生は……)
陽人が、室内を見回して目当ての人物を探していると、
「あ、いた! あそこ!」
と、和貴に肩を叩かれた。
彼が指し示す方を見やると、栗色の髪の男性が机に向かって作業をしている。彼が、新聞部の顧問をしている教師、
陽人と和貴は、もう一度失礼しますと言って迷わず彼のもとへと進んでいく。
「先生、今ちょっといいですか?」
「何だい?」
陽人の声で顔を上げた三条は、きょとんとしながら二人を見た。眼鏡越しにのぞく優しげなたれ目には、疲労の色が浮かんでいる。
「今日の朝、生徒が新聞部の部室の鍵を借りに来ませんでしたか?」
「朝……ああ、来たよ。たしか、女子生徒だったかな。部長に言われて借りに来たって言ってたっけ」
記憶を辿りながら、三条は陽人の問いに答える。
「マジで!? その子、どんな感じだったか覚えてる?」
身を乗り出して和貴がたずねる。教師にはいつも敬語を使っている和貴だが、三条の言葉に思わずタメ口になってしまった。
「どんなって言われてもなあ……」
と、腕を組んで思案する三条。
陽人と和貴は、そんな彼を期待と不安の混じるまなざしで見つめる。
「――そういえば、髪染めてる子だったな」
しばしの沈黙を破って、三条が思い出したようにそう口にする。
「何色か覚えてます?」
陽人がたずねると、
「たしか……シナモンみたいな色だった気がするよ」
と、今朝のことを思い返しながら三条が答える。
「シナモン色の髪……? そんな女子、この学校にいたっけ?」
そうつぶやいた和貴が、わからないと言いたげな表情で首をひねる。いくら思い返しても、そんな髪色の女子生徒のことなど記憶にないようだった。
だが、陽人は得心がいったような表情で、
「いますよ。一人だけね」
と、断言した。
「その子が、どうかしたのかい?」
小首をかしげて問う三条。なぜ二人が、その女子生徒のことを聞きに来たのかわからないといった風だ。
「いえ、大したことじゃないんで」
そう濁して礼を言うと、陽人と和貴は職員室を後にした。
* * *
「なあ、陽人。さっきのどういうことだよ?」
職員室を出てしばらく廊下を歩いたところで、和貴が陽人にたずねた。
「さっきのって?」
「シナモン色の髪の女子が一人だけいるってことだよ」
とぼけるなと、和貴の口調がきつくなる。
「ああ、あれっすか。俺のクラスにいるんすよ」
他の学年にいるかどうかは知らないと言いながら、陽人は自分が今、思い浮かべている人物が犯人ではないかと考えていた。
その人物の名は、
「もし、その篠原って子がやったとして、画像を消した理由は?」
陽人の説明に一応の納得を示した和貴だが、動機がわからないと首をひねる。
「そうっすね……例えば、撮られたくないものだったか……あるいは、許可なく撮られたものだったとか」
撮影された画像を消す理由を、思案しながら告げる陽人。
「許可なく撮られた?」
「可能性の話っすよ。本当のところは、篠原さんに聞かないとわかんないっすから」
おうむ返しに聞く和貴に、陽人はそう言って肩を竦める。
二人は、特別教室棟から教室棟へと移動し、陽人のクラスを目指す。朱美がどの部活動に所属しているのか、陽人は知らない。クラスにならまだ残っているのではないかと、
教室棟は人の気配がほとんどなく、静寂が辺りを支配していた。そんな中、二人の足音だけが響く。
二階に上がり、陽人のクラスに到着すると、教室の中から話し声が聞こえてきた。
陽人がためらいもなく扉を開けると、教室の中央で話していたらしい二人の女子生徒が勢いよく振り向いた。
「ちょうどいいや。二人とも、ちょっといいかな?」
と、陽人はそう言いながら進んでいく。和貴がその後に続いた。
「何か用?」
シナモン色の髪の女子生徒が、ぶっきらぼうに問う。篠原朱美だ。
彼女に隠れるように、もう一人の女子生徒が身を縮こまらせる。
「ちょっと聞きたいことがあってさ」
女子二人に警戒されているのに気づかないふりをして、陽人はごく自然に話しかけた。
「聞きたいこと?」
と、朱美が訝しげに問う。
「今朝、三条先生に新聞部の部室の鍵、借りに行ったよね?」
「――行ったけど、それが?」
真っ直ぐに見つめる陽人に、朱美はわずかに言葉を詰まらせたが、どこか開き直ったように答える。
「新聞部じゃないのに、どうして借りに行ったのかな?」
「そんなの、何だっていいじゃん。佐久山には関係ないでしょ!」
強気な態度で突っぱね、席を立つ朱美。
「帰ろう、
と、後ろにいる女子生徒――
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