物語は、白菊とユリの匂いに当てられて主人公が頭痛になる場面から始まる。とても印象的な書き出しです。平成2年7月27日という日付が、じめっとした夏の空気をはっきり感じさせます。水瀬ミヤコの「取り憑いちゃった」という一言と、触れられない手のひんやりで「触れたいのに触れられない」というテーマがすぐ伝わります。公園では亡者の不気味なささやきから、来栖の「助走をつけてぶん殴れ」で水瀬が投げ飛ばす一転が効き、動物園の『ライオン』のはしゃぎは、後日の「想って燃やす」儀式へつながる伏線に。黒焦げになったはずのぬいぐるみが幽霊の少女に本当に届く瞬間、この世界の理と登場人物の気持ちが自然に噛み合い、読後感がぐっと深まります。匂いや温度まで伝わる描写、受け身でないヒロイン、まっすぐで時に痛い語りがよくかみ合い、各章が短編の手応えと長編の余韻を同時にくれる一作です。
この物語を読んで『七つ前は神の内』という言葉を思い出しました。昔は子供が亡くなることが多くて、そのような宗教観が出来たのかもしれません。
主人公が霊達と当たり前のようにやり取りをするのですが、何も違和感がない。むしろ生活が充実している。霊的な存在を日常的に感じていたら、人生がより豊かに、心も平和になるかもしれない、と思いました。日本でも大昔は、霊的な存在がもっと身近だったはず。
だからこのお話に惹かれるのだと思います。我々は霊のことを忘れているだけで、実は近くにいることを知っている。そんな風に想わせてくれる小説です。文章が綺麗で読みやすく、淡々と進む感じも良いです。
「お? なんか応援ボタン押してくれてる人がいる。さて、この人はどんな作品を……」
きっかけはそんな感じでしたが、なるほど!
多くの人が評価している理由が分かりました。
冒頭は、ややコミカルな雰囲気で始まります。
しかしその先に待っているのは、主人公の視点で丁寧に描かれる、等身大で繊細な世界。
第1章はセンシティブなテーマを扱っていて、どうしても気持ちが沈んでしまいます。
ですが、それだけではありません。
幽霊のヒロインが重い空気を和らげる役割を果たしてくれていて、作品全体をオールラウンダーなエンタメ作品へと昇華してくれています。
皆さんも是非、読んでみて下さい!
文章表現や、文字の使い方の美しさが有料の電子書籍で販売しているものと遜色ないです。
読んでいたら、「あれ? これお金払って読んでいるやつやんね?」と錯覚するぐらいにレベルが高いです。
とりあえず小さな棘まで行きました。表現がお金を出して読む小説と同レベルなので一気読みというわけにはもったいなくて行きませんが、お互い会わない凸凹コンビがいがみあいながらも、一つの目的に協力していくようになるおもしろさを感じました。
またそこにまで落としこむ伏線も鮮やかです。
これは間違いなく売り物レベルですね。ありがとうございました。また引き続き読ませてもらいます。
ゆつみかける様の『君に手向ける花はない』は、ひとりの少年と、すでにこの世を去った少女の邂逅から始まる、静かで切ない物語です。主人公ハヤトが向き合うのは、突如目の前に現れた霊・ミヤコの「私を殺したのはあなた」という言葉。罪悪感と戸惑いに揺れながらも、彼は少しずつ彼女の未練に歩み寄り、やがて成仏の手助けをしようと決意します。ミヤコの「私を好きになって」という願いは、幼いようでいて、実は深く重たい——
作中で描かれるのは、死者の声に耳を傾けることで、今を生きる者がどのように変化し、何を見つけていくのかという心の旅。霊というファンタジックな題材を通じて、人はなぜ「赦されたい」と願うのか、また「赦す」とはどういうことなのかといった、幾多の問いかけが、静かに、しかし確かに響いてきます。
死後の世界に未練を残す魂がいるのなら、生きている私たちもまた、何かを残して生きてはいないだろうか。
――死んだ者の「願い」と、生きる者の「責任」は、どこで交わるのか。