第7話
「魔族。今日も拷問の時間だ」
俺が目の前の存在……魔族に対して困惑していると、突然後ろからそんな声が聞こえてきた。
俺はこうやって魔族の少女に話しかけてはいたけど、隠密スキルを解いていた訳では無い。
だからこそ、後ろから聞こえてきた声の持ち主……ロップ伯爵にはまだ俺の存在はバレていなかった。
「出ろ」
「……」
魔族の少女は何も答えないが、そのまま黙って立ち上がり、ロップ伯爵が鍵を開けた牢屋の扉から出てきた。
そこにどんな感情があるのか、俺には分からなかった。
……なんで暴れようとしない? 魔族の身体能力は人間なんかより数十倍も優れていると俺は教えられていたのだが、あれは嘘だったのか? ……いや、あの時点の俺に嘘を教える理由なんてないはずだ。
だったら、何か暴れられない理由があるのか?
「……それ以上儂に近づくなよ。近づけば、貴様はその指輪の効果によって死ぬことを努々忘れるなよ。それは貴様が儂を傷つけても発動するし、儂が貴様に死ねと言葉を発した瞬間にも発動するのだからな」
あ、ロップ伯爵が勝手に説明してくれたわ。
……ただ、どうする? 俺は、どうしたらいい?
魔族っていうのは人類の敵。……そう教えられた……が、そもそもの話、それ自体が嘘だったんじゃないのか? と俺は今疑ってしまっている。
少なくとも、今のこの子の様子を見る限り、どうしても俺にはそんな風には見えないからだ。
……ただ、ロップ伯爵はさっき「今日も拷問の時間だ」と言っていた。
つまり、当たり前の話だが、ロップ伯爵はいつもあの少女に拷問をしているということになる。
それにしては少女の体に傷跡が一切見られないどころか、傷一つついているようには見えないけど、魔族は再生能力も高いと聞いたことがあるから、多分それのせいだろうし、今はいい。
それより、問題はこの少女が……魔族が人類に敵意を抱いていない訳じゃなく、敵意を抱いてはいるが、酷い拷問の末、心が折れてしまっているだけなのでは? ということだ。
もしもそうだった場合、絵面はともかくとして、ロップ伯爵がやっていることは正しい……かは分からないけど、少なくとも間違っては無い、んだと思う。
俺はよく知らないけど、元の世界の人間同士の戦争でだってそういう拷問くらいはあっただろうし、そこに何かを言う気は無い。
そんなことを考えているうちにも、ロップ伯爵と魔族の少女は歩いているし、俺はそれに着いていっている。
「自分で位置につけ」
まだ俺がどうするべきなのかの結論は出ていない。
だと言うのに、もうロップ伯爵は目的の部屋に着いてしまったようで、冷たい声でそんなことを言いながら、鞭を用意していた。先端が分かれている鞭だ。……確か、九尾の猫鞭とか言われるやつ、だと思う。
……冗談だろ? それで叩くのか? ……最早それは拷問じゃなくないか?
俺だって詳しく知ってる訳じゃないけど、九尾の猫鞭って殺傷用の鞭だろ。
運が良かったら生き残るかもだけど、普通に死ねる鞭のはずだ。
……あの子は魔族だ。だから、死ぬことは無い、のかもしれないけど、痛みが無いわけがない。
俺が更に内心で色々と考えていると、もう魔族の少女は自分で拘束具を身につけ、鞭が振り下ろされる瞬間を待機しているところだった。
「………………私は、大丈夫」
「何を言っている? 誰が喋ってもいいと許可を出した!」
……あれは、俺に向けた言葉、か?
……演技、かもしれない。
そう言えば、俺が罪悪感を感じて、助けてくれると思ったからこその演技かもしれない。
でも……
「こういう時、偽善者ってのは大変だよなァ!」
俺はロップ伯爵の口を塞ぎつつ、覚悟が薄れないようにそんなことを叫びながら思いっきりロップ伯爵の股間を蹴り上げてやった。
盗賊スキルを持っていたからと家を追い出されたから、夢だった義賊になることにする シャルねる @neru3656
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。盗賊スキルを持っていたからと家を追い出されたから、夢だった義賊になることにするの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます