夕焼けタイムラプス
初音美鈴
夕焼けタイムラプス
夏の終わり、私は祖父の家の屋根裏部屋で古いカメラを見つけた。祖父が若い頃に使っていたらしく、埃を被っているがどこか品のあるカメラだった。レンズを覗き込むと、夕焼けが広がる庭の景色がぼんやりと見えた。
「タイムラプスを撮ってみたらどうだ?」
背後から祖父の声がした。彼の言葉に触発され、私は即座にカメラをセットして、夕焼けの撮影を始めることにした。
カメラを庭の隅に置き、インターバル撮影の設定を終えると、私は近くのベンチに座って空を見上げた。青空から橙、そして紫へと移ろう空の色。風に揺れる木々。すべてが穏やかで、時間が止まったようだった。
しばらくして、カメラのシャッター音が止まった。撮影が終わったのだ。私は部屋に戻り、撮影した映像をパソコンに取り込んだ。タイムラプス映像を再生すると、夕焼けの美しさが何倍にも増幅されていた。雲の流れ、空の色の変化、光の消えゆく瞬間。その全てが生き物のように躍動している。
しかし、奇妙なことに気づいた。時折写る祖父とともに、見知らぬ少女も写りこんでいた。撮影中にはそんな人影は見なかった。
祖父に映像を見せると、彼は驚いた表情を浮かべたが、やがて懐かしそうに微笑んだ。
「あれは…君の祖母だよ。」
祖母は私が生まれる前に亡くなっていた。祖父が話すには、二人が最初に出会ったのはこの庭だったという。
タイムラプスの映像は、夕焼けだけでなく、過ぎ去った時間をも捉えていたのかもしれない。祖父と祖母の姿が映し出されたのは、彼らの思い出がこの場所に残っていたからだろう。
次の日、祖父は庭で黙々と椅子に座り、夕焼けを見つめていた。私はそっと彼の隣に座った。空は昨日と同じように、橙から紫に移ろいでいく。
「また映像を撮るか?」
「うん。でも、今日はただ目で見るよ。」
そう答えると、祖父は満足そうに頷いた。
その夕焼けは、私にとっても祖父にとっても、特別な時間となった。空はただの風景ではなく、過去と未来をつなぐキャンバスであり、そこに描かれる思い出は永遠に消えることがないのだと感じた。
夕焼けタイムラプス 初音美鈴 @y_takanashi
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