Chapter 1-10 座学2、そしてエピローグ…そして始まり

目を覚ましたら、次の日の朝になっていた。


昨日、ベッドに横になったところまでは覚えているが、

その後直ぐに眠りについてしまったようだ。


ベッドから降り立ってみたが、体の痛みはすべて抜けているようだった。


私は着替え、エレベーターから4階に向かった。


4階に着くと狭い面積ではあるが、食堂となっていた。


受付カウンターで朝食を食べに来た事を伝え、トレイを渡された。


左に移動しながら一品ずつ取っていけばいいようだ。


普段よりもお腹が空いているような気がしたので、ちょっと多めに

食べることにした。


取り終わったら窓際に移動し、そそくさと朝食を済ませ、

トレイを返却口に持って行った。


「足りたかい?」


出口から出ようとしたら受付の人が話しかけてきた。


「はい、満足です。それにとってもおいしかったです」


お世辞ではなく、本当においしかったので、そのように伝えたつもりだ。


「そうかいそうかい。普段は人があまり来ないから作る量が少ないけど、

あんた結構食べそうだね」


「いやまぁ、ほどほどにですよ、ははっ」と言ったものの昨日もマダムの軽食を

かなり食べていたのを思い出したが愛想笑いで乗り切ろうとした。


しかし受付の人は

「いいや、あんた結構食べるね。体の筋肉の付き方が食べるって言ってるよ」


「え?そんなの、判るんですか?」


「ああ…冗談だけどね、はっはっはー」


その後もちょっとだけ雑談をしてエレベーターの方へ向かった。


普段人が少ないせいか、料理品目も少なく、かつ質素目に作っているそうだけど、

人が多いと後ろの壁も取っ払ってエリアを広げ、料理品目も多く

ちょっと豪華目に作るそうだ。


それは是非味わってみたいなと思うのであった。


エレベーターで1階に降りると、マコトさんが既に待っていた。


「おはようございます、エリーゼさん」

「おはようございます」

「体の方はどうでしょう?」

「寝たら全快ですね。

むしろ、前よりも元気になった気がします。

朝食もおいしかったですねー」


「そうですか。

マダムの料理は一般人も含めて体の快復に良い物が多く入っています。

魔力持ちのみには体内の魔力――MEマギア・エナジー――の

回復促進になるものが入っていますね」

「そうなんですか。それでいておいしいとは、すごいですね」


「ええ、料理が出来る方には頭が上がらなくなるかもしれませんね」


ここの料理や、マダムの料理、どれ素晴らしいと言える味だったなと

思い出していたが、何かを忘れそうになっていた。


「さて、エリーゼさん」


私はその声で我に返った。


「本日の予定となります。午前は入会後の座学になりますので昨日と

同じ会議室で行います」


「了解です」


マコトさんに引きつられて階段を登り、昨日と同じ部屋に入った。


部屋にはダンデさんが待っていた。


「おはようございます、エリーゼさん。

よく眠れました…って、すっきりしている顔を見ると大丈夫そうね」


「おはようございます。ええ、ばっちりです!」


和気あいあいとダンデさんと少し話していたが、マコトさんの咳払いで

部屋が静かになった。


静まった後、ダンデさんは自分が何をするのかを思い出したように

机の前方の横に置いている子物置から何かを取った。


マコトさんとダンデさんが並び、私は2人の前に立った。


「さて、入会後の座学を始めます。まずはライセンスカードを授与いたします」


マコトさんが言い終わるとダンデさんは長方形の何かを

黒いシルクの布で来るんだ物を手渡してきた。


「ライセンスカードが入っている箱になります。布を外して箱を開けてください」


言われた通り布を外した。

箱の表面にはハンター協会のマークが入っていた。


箱を開けると、左にガラスに文字が彫られた賞状と、右に何も書いていない

白いカードが入っていた。


「左は、入会を証明する賞状になります。

こちらは無くしても問題ありませんが。

ライセンスカードは無くしても再発行はされませんので注意してください」


「そうなんですか。気を付けないとですね」


「ふふっ、そのカード、1枚製造に億単位掛かっているから気を付けてね」


「えっ!」カードに触って取ろうとした手が止まった。


手を止めたまま「ほ、本当にそんなに?」と、マコトさんに目を向けた。


「はい。プライバシー保護観点でセキュリティ面を重点的にしておりますので。

また、カードの素材も大抵の衝撃には負けないようになっております。

もっとも、初回認証時にカードに魔力――MEマギア・エナジー――を込めた人かカード管理者しか個人情報は表示させれません。

そういった対策をしていたらかなりの金額になってしまいましてね」


私はまじまじとカードを見つめ、手に取ろうとした手が震えそうになった。


「まぁ大丈夫よ、エリーゼ。今まで無くした人は居ないわよ。

強盗にあった人も居るけど、返ってきているのよね」


「返って…え?それはどういう」


マコトさんは眼鏡をくいっと持ち上げ元の位置に戻す動作をした後、

「セキュリティが全くと言っていいほど破れないためです。

過去、そういう犯罪者集団がおりましたが、壊滅させております」


「セキュリティが頑丈ってそういうことですか。って、壊滅?!」


「ええ、仕事として犯罪者集団の壊滅が有りまして、盗んだ相手と

同じグループでした」


「そういう偶然もあるんですね」


「……時間が有りませんのでこの話はこの辺で」


そう言い、私に椅子に座るように手で指図をしてきた。


マコトさん、ダンテさんが正面になるように座った。


「まずはカードの初回認証を行います。カードを持って、MEを込めてください」


私は頷き、箱からカードを取り出し、MEを込めた。


MEが込められたカードの表にはハンター協会のロゴとランク(Fと書かれている)、裏返すと個人名等が表示されていた。


「これで初回認証は完了です。MEを込めるのを止めて裏を見てください」


言われた通り、MEを込めるのを止めて裏を見ると無地に戻っていた。


「あれ?裏が消えましたね。表は…そのままですね」


「個人情報ですので常に表示は良くありませんので、MEを込めないときは消えるようになっています」


「なるほど」


「カード情報の更新は後ほどお渡しするハンター協会専用端末と

同期させることによって修正できます。

後は昨日の座学でもお話した内容もございますが…」


その他の特典としては次の物があるとのことだ。



・ランクが上がれば、カードの上に自分の全体像をホログラムで表示することが

できる


・各国の入国審査のパス

遊びなら審査をした方が良いらしいが、仕事ならパスが容易に出来るようだ


・ハンター協会施設の使用

ハンター用の施設が使用できるらしい。ここの建物の場合、


5階:ランクB,C,D 用の少し広い部屋でベッド等も広くなる。

優先権はランクが高い方にあり、開いていない場合は部屋を開けさせる

ことも可能なのだとか(それをした人はあまりいない)。

そして有料。

ランクC,Dの仕事では支払いは厳しいので実質ランクBのためだとか。


6階:トレーニングルーム


11階~15階:ランクA用のラウンジと個室



となっている。世の中のサービスがかなり良くなるとのこと。

ただし、ランクが高くないと通常サービスのままとなる場合もある。


「と、言う訳です。無くさないようにしてください」


同じことを2度言われた、もとい、言ってますよねマコトさん。


「わかりました。

…あれ?そういえば、皮膚には付ける端末とかだと相性が悪いって

言ってましたけど、あれって電子製品と悪いという事だと思うんですが、

カードは大丈夫なんですか?」


「ええ、ライセンスカードは問題ありません。

中にチップ類が入っていますが、カードの表裏に使用している加工素材によって

問題なくなっています」


「そうなんですね」


「我々が使用するすべての製品をそのように出来ればいいのですが、コストがちょっと合いませんので。ハンター協会専用端末も同様に処理がされています」


「分かりました」と頷き、ライセンスカードの話はこれで終わった。


「さて、次にハンター協会専用の端末をお渡しいたします」


マコトさんが端末の説明に入り、私の前に端末が置かれた。

一見、世の中にある端末と変わらないように見えるのだが…。


「背面ボディーのみ付け替え可能となります。

好きなカラーがありましたら各地区のハンター協会で変更するようにしてください」


「ふふ、変更する人はあまりいないのよねぇ。

端末用のカバーを付けちゃうからなのよねー。

せっかく考案したのに…。

ま、カバーも良い感じのを考案してるけどねぇ」


少し不満そうにダンデさんは言った。


「考案、ですか?」


よくぞ聞いてくれましたという顔をしたダンデさんは、上着のポケットから

自分の端末を取り出し見せてくれた。


「こんな感じのカバーよ。これも各地区のハンター協会で交換できるわ。

だから、端末のまま使う人しか端末用カバーは変えないのよ」


私はそういう理由だったのかと納得し、頷いた。


カバーから端末を外し、端末の背面を見せてくれた。

色合いや艶感がすごくよく出ているように見える。


「こっちも色合いに気合入れたんだけどねー。

ま、カバー付けるから仕方ないのよね」


言い終わると自分の端末を仕舞い、マコトさんにどうぞと言い、

マコトさんが続きを話し始めた。


「端末もカバーも、市販品より耐久性・耐衝撃が高いものとなっております。

カバーの内側にハンターライセンスを収納できるところがありますので

カバーをかけていた方が便利ではあります。

後は、通常回線と専用回線2つ搭載していますので、今の端末のデータを

移して頂いても問題ありません。

また、ハンター協会専用のアプリが入っています。

そちらは仕事の受注などに使用します」


「専用回線なんてあるんですね」


「ええ、どこの業界も、と言う訳ではありませんがいくつか存在しています。

アプリに関しては専用回線でないと使用できないので注意してください」


「分かりました」


その後も2、3、話は続き、終わりを迎えた。


「さて、全て終わりとなります。何か質問はありますか?」


「そうですね…質問と言われてぱっとは…」


そう言いかけて、昨日の監獄での事について聞いてみたいことが2点程有った。



1点目は監獄内で戦闘していたけど、結構壁とかにぶつかっていたがどこも壊れていなかったのは何故か?


「あれは、マダム特製品となるものですね。

特殊な素材に自分の魔力を籠めて強度が高くなるようにしているようです。

ラビ君のMEの塊は逆に吸収して強度を広げますね。

貴女が壁にぶつかった分ぐらいの衝撃では傷は付きません。

問題点としては、マダムがあの場所--監獄--から出れないということ

でしょうか」


それを聞いた私の素朴な感想は、「え?どういうこと?」である。

材質に魔力を籠めて強度を出すなど初めて聞いた事なので理解が追い付かないでいた。


「…ちなみに、私も今一構造を理解していないので説明も複製も出来ません。

あれはマダム専用の技ですね。

ちなみに、あれのおかげでマダムはランクAとなっております」


ランクA…世界に何かしら影響を与える事を成し遂げたためになれるんだったっけ、と昨日の座学を思い出していた。


「マダムも、ハンター協会に在籍されていたんですね」


「ええ」と、マコトさんはマダムの事について淡々と話し始めた。


20年前の世界崩壊時に、犯罪者も増えると困るため、離島であったあの島を

マダムが買収し監獄を建設。


初めは現重犯罪者用監獄棟のみだったが、一般人の軽犯罪者も出てきたため、

島全体の壁を建築、個人用の1人で暮らせる家と動物を用意した。


そして、世界各地から犯罪者が収容されるようになった。


「と、言う訳です」


「なるほど、気さくなおば様と思いましたけど、すごい人だったんですね」


マコトさんはその回答に頷いた。


「他にもありますが…昨日、軽・重犯罪者両方見てどうでしたか?」


「え?どうといわれても…」


昨日の様子を少し思いだしながら考えると明確な違いがあった気がする。


「軽犯罪者は1人で動物と戯れてました。

けどちょっと空気感が重いと言いますかそんな感じがしました。

監獄棟の人々は、とても陽気でした」


その回答に、マコトさんは顔を変えずに頷くだけだった。

「あそこの監獄棟ですが、魔力持ちしか居ないのはマダムから聞いていると

思います」


「ええ、そう言ってました」


「魔力持ちだからと言って、ちょっとした犯罪、軽犯罪者でも

あそこに入れられます。

逆に一般人は重犯罪者でも外に居ます」


「え?それって、一般人は魔力持ちにはかなわないからとかそんな所ですか?」


その返事の回答としてマコトさんは話を続けた。


魔力持ちは、身体強化するだけでも一般人に大けがを合わすことができる。


そのため、刑罰が軽かろうが重かろうが監獄棟に入れることになっている。


もっとも、犯罪の度合いが酷い場合は、ハンター協会の仕事として該当地区の

人間が始末するようになっている。


一般人は外でも、看守――昨日は見えないように控えていたそうだ――は

魔力持ちで構成されているため、逃走など図ろうものなら酷い目に合うそうだ。


「…と言う訳ですので、犯罪はしないように気を付けてください」


「はは…しませんよ!!」


流石に最後の言葉には声を荒げた。


――ついでに聞いた話では監獄棟内の魔力持ちでもハンター協会に入会は

出来るらしく、ラビはランクBになっているとのことだ。


2点目はマコトさんとラビの会話についてだ。


マコトさんは

「ああ、あれですか」と話すべきかと口元に手を持って行って考え始め、

直ぐにこちらに向き直り話し始めた。


この話を聞いた私は――魔力持ちであるにもかかわらず――絵本でも読んでいるのかという気持ちになった。


MEマギア・エナジーを使用した属性付与、ですか?」


マコトさんの話より、

20年前の世界崩壊の後から確認されるようになったことがあるそうだ。


それは精霊種の存在。


精霊種は基礎の火風水土と、上位の聖魔。

更にそれらを統べる時と時空が存在しているらしい。


聖魔は光闇ともいうそうなのだが、どっちでもいいみたいである。


「そういう種族も存在していたんですね?」と聞くと

人前には姿を出さずにいるため、今まで目撃事例が無いらしい。


目撃と言っても、魔力持ちしか見る事は出来ないそうだ。


他に、妖精種が居るそうだがこっちは500年は昔から存在を

確認されているとのこと。


現時点では、調査中の部分もあり、また、どの様に協力してくれるか等、

決まっていないそうだ。


「そういうことですか…って私は本当にそれを聞いてもよかったんですか?」


「ええ、いずれわかる事ですし、早めに知っておいても問題ないでしょう」


そういうものなのかと考えようとしたが、無駄に終わりそうなので

「分かりました」とだけ返事をしておいた。


属性値付与は使用方法のみ既に決まっている。

通常、私たちの魔力が無属性となる。

無属性の魔力を媒介に属性を使用できるようになるらしい。


「マコトさんは試したりしたのですか?」


と聞いてもたものの「とりあえず」という回答しか得られなかった。


「ただ、確実にいえる事は、魔力持ちが全員使えるかと言われたら微妙な所です。

エリーゼさんも、ラビ君も含めて。

今のところは、楽しみに待っておいてください」


使えるかどうかもわからないので私としては「分かりました」と答えておこう。


マコトさんは軽く頷いた。


ふと、ダンデさんの顔を見ると、微妙に不機嫌な様子になっている。

ラビという単語を聞いていると特に。相当嫌いな様子なのは判る。


「他に無ければ、座学は以上になります。」


「はい、他にありません。ありがとうございました」


私は立ち上がってお辞儀をした。


これで、ハンター試験も終わり、ライセンスカードも貰ったので、

一旦帰って次をどうするか考えるだけだ。


マコトさんとダンデさんも立ち上がり、部屋を後にした。


私たちは1階の受付前まで移動した。


「入会試験等、ありがとうございました」


と改めてお辞儀をし、踵を返して出て行こうとした所、

マコトさんに呼び止められた。


「ヘセルさん。

申し訳ありませんが、本日から49地区で仕事を開始していただきます」


「はい?」と小首を傾げてどういうことかと問いただした。


「ヘセルさんは、49地区で登録しておりますので、仕事はこの地区で

受けていただく必要があります」


「えっと、一旦帰って、教授にも報告とかしないといけないと思うんですが?」


「それでしたら昨日、こちらで終わらせておきました。

そちらの教授とは昔からの仲になりますので」


と、マコトさんが端末を取り出し、教授から了解を得た文書を見せてきた。


「え…と、今、からですか?」


私は困惑しながら再度聞き返した。


「大丈夫よ、エリーゼ。私も同じように仕事を開始したから。

3ヶ月ぐらい余裕よ。後、この人、私の時も同じ事したからね。

頑張ってねー」


ダンデさんはそう言い、手を振った後受付室に入っていった。


「さ、3ヶ月?」


「はい。教授には3ヶ月休学を申請、受理頂いております」


うそでしょ!と言わんばかりに頭を抱えてその場にへたり込んだ。


へたり込んだままマコトさんを見て「本気ですか?」と聞いたが、

「勿論です」と当たり前のように返って来た。


「3ヶ月あれば、ハンターランクをFからCに上げられます。

また、みっちり組んでおりますので後でアプリから確認してください。

拠点はこの建物にしてもらって結構。

ここなら衣食住は特に困らず、更に仕事後もトレーニング施設で

鍛える事が出来ます」


「え、えぇぇぇえぇ!!」


この人は何を言っているんだろうか、という絶叫しか出てこなかった。

勝手に休学にされ、3ヶ月ハンターの仕事を強制されるとは思いもよらなかったからだ。


「ちなみに」


「ま、まだなにかあるんですか?」


一旦私を立たすために手を伸ばし、私を立たせてから話を進めた。


「ハンターには師弟制度があります。

私が師匠となり、仕事にも同行いたします。

ダンデ君の私の弟子になり、二人は言わば兄弟弟子となります。

…さて、話も長くなりましたし、仕事に支障をきたしますので、早速行きましょう」


私に端末を開かせ、ピックアップしていた仕事の1つを受注し、手を掴まれながらハンター協会から出るのであった。

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Game of REVIVE 真希 仁司 @bk3825

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