後編 お家に帰ろう

 機嫌の悪い小学生の桃子。祭り会場にいたくなくて、一人で家に帰ることにしました。


 ちび桃子の決心は固い。誰にも告げず、来た道を歩きだした――。

 


 ***



 わたしの記憶が確かなら、路地裏の民家の建ち並ぶ細い道をたどって行けば家に帰れるはず。辺りは真っ暗。でも、街灯がある。うん、なんとかなるだろう。


 しばらく歩くと、花屋を見つけた。自転車で母の日用に、カーネーション一本を買いに来たことがあった花屋だ。店はもう閉まっていて、ここを左折すると商店街に出る。街灯だけの、薄暗い商店街をひたすら歩く。


 すると中学校が見えてきました。五つの小学校がこの中学校にすべて集中するので、大きめの校舎です。近くにはテニスコート、サッカーコートもある。


 わたしが小学校を卒業したら通うことになる中学校。真っ暗だけど、学生の自転車置き場を確認しながら学校の校舎を越える。


 歴史ある神社、旅籠建築の古い町並み。長屋続きの駄菓子屋さん、文具店を通り過ぎると、ひときわ派手な一軒家が見えた。うわさでは「89〇の家」


 ※この頃の89〇さんは、一般人には手を出さないというスタンスでした。


 お祭りだったので、不在のようです。もう少し大きくなって、89〇さんの仕事内容を聞いて怖くなりましたが、当時のちび桃子は、よくわからず。


 そんなあやしいギラギラした豪華な家を越えると、線路と踏み切りが見えた。


 (そうだ! この踏み切りを渡れば、次はサーモンピンク工場があるはず)


 踏み切りを急いで渡りきると、紡績工場の塀が見えてきた。この工場を囲っている壁はサーモンピンクだ。桃子の中では『サーモンピンク工場』と呼んでいた。暗くてよく見えないけど、工場のはずだから、広大な工場を囲う壁面はざらざらしている。確認するように手でざらざらを確かめながら歩く。その囲いがなくなると、今度はゴルフ練習場(野外打ちっぱなし)が見えてきました。


 ゴルフ練習場の周りは田んぼに四方囲まれている。ここは夜でも照明が明るいので、稲がよく見えた。その近くの民家の方に視線を向けた。


(大きな『へんな看板のお家』だったよね)


 桃子は歩きながら勝手にネーミングつけることが好きです。でかでかとお手製の看板が立てかけてある民家には『ゴルフ練習場建設反対!』文字が暗闇の中で微かに読めた。


 ちび桃子はここを通るたび思った。


(もうすでにゴルフ練習場は建っているのに、なんで看板下げないのかな?)


 そんなどうでもいいことを考えつつ、うん、道に迷っていない、順調だ。やっぱりわたしの思った通りだ。(計画通り)ににやつく。


 そして――最後の難関。広大な田園ゾーンが見えてきた。その先は小さな集落。田園地帯を突破すれば、ゴールの我が家です。集落の先も田園地帯。隣町まで街灯なしで深夜はとても静かだ。


 どれくらい静かなのかというと、隣町の不良息子が夜中、バイクで爆走する時も、周りが田園&静かすぎて、どの辺の家からエンジンかけて、どの辺を走って家に帰っているか分かる。だから田舎の不良は家がバレバレでした。


 話は戻って、ちび桃子は街灯がないので真っ暗で怖いなー。なんて思う……。


 でも、あと少しでミッションクリア! テンション上がる⤴⤴⤴


 真っ暗な田んぼ道をひたすら


 走る。走る。走る。


 小さな集落に入りました。近所で柴犬を飼っている家に、二匹のダルメシアンを飼う家。大地主の同級生の家は雑種の大型犬を飼っていたな。名古屋コーチンの鶏を飼っている我が家が見えてきた。玄関の灯りに、ようやくホッとする。


 こうして、ちび桃子の冒険は終わった……。


「ただいまー」


 ガラガラっと扉を開けると、酔っぱらった父がテレビを見ながら畳で寝転がっていた。テレビからは野球の歓声、ちゃぶ台の上にビールと煎餅。蚊取り線香の匂い。家の前は田んぼで、網戸なので家の中までカエルの声がうるさい。いつもの風景だ。


「なんだ、桃子か~? 一人で帰ってきたのか?」

「あーまあね」


 へべれけに酔っぱらった父の前で適当にごまかす。


 しばらくテレビを観ていたら、家の電話が鳴る。父が電話をとると、母からだった。


「桃子? うん、家にいるけど……」


 そんなやりとりをしていた。お祭り会場に桃子がいないので、祭りが終わって、探しても見つからないから、ひょっとして一人で家に帰ったのかもと、勘のいい母が電話してきたみたい。


 へへ、バレたか。さすが母だぜ。


 母達がご近所さんの車に乗せてもらって帰ってくると、姉に文句言われ、母にこっぴどく叱られた。しかし桃子はゲームのような達成感でいっぱいで、ほくほく満足顔。親の話を聞いちゃいなかった。




               おしまい




 ※お読みくださり感謝☆感激です(((o(*゚▽゚*)o))) ただ歩くだけの、無謀ちび桃いかがでしたか? 多分一時間くらいかけて、家にたどり着いたと思います。第二弾エッセイあるのですが、フラグのようなお話です。


 本当に、くれぐれもお子ちゃまはマネしないでください(; ・`д・´)圧強め。あのころの桃子、どーかしてた。笑

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

子どもの頃の大冒険(お祭り編) 青木桃子@めまいでヨムヨム少なめ @etsuko15

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画