子どもの頃の大冒険(お祭り編)

青木桃子@めまいでヨムヨム少なめ

前編 お祭りと浴衣

 桃子がまだ青い実のちび桃子、小学生時代の話です。

(最初に言っておきますが、ド田舎なので治安よかった)


 そのころの桃子はボブカットだったので、よく「ちび〇子ちゃんに似ているね」といわれたので、作者の「さく〇ももこ」にちなんで、ペンネームは桃子にしています。(白川紺子さんの名前もちょっと真似しました)


 子どもの頃の大冒険。子どもにとってなので、大した冒険ではありませんので、あたたかく見守ってください。


 小学生の、たしか二年生頃の、ちび桃子。


 夏休みに入り、お盆になると、近所のスーパーの駐車場で、毎年盆踊りが催されます。


 父に車で送ってもらい、母・姉・兄と末っ子のわたしは盆踊り会場に着く。幼い頃は、三人きょうだい仲良く踊っていたけれど、兄は母と姉と桃子を残し、男友達とさっさとどこかに消えてしまった。


 実はちび桃子は盆踊り会場に来る前から機嫌が悪かったのです。


 その理由は、浴衣だ。


 桃子より四才上の長女姉は買ってもらったばかりの流行りの浴衣を着ていた。紺色に夏の花が散りばめられたお洒落な浴衣。帯も今まで子供用の絞りの兵児帯だったのに、大人用の帯で、落ち着いた赤色。同じ柄の巾着も姉に似合っている。


 一方、末っ子のわたしは丈の合っていない、キャラクターの入ったお下がりの浴衣を、母が「まだ着られるじゃなーい」などと言って、無理やり着せようとするので、断固拒否して私服にした。


 母は不機嫌な桃子に気づかず(……というか桃子の気持ちを汲み取るのがめんどくさいと思ったのか)ほったらかしにして母と姉は、話し込んでいる。


 しっかりして大人っぽい長女姉と母は気の合うらしい、楽しそうに話に夢中。ちび桃子はまだ子どもなので、話題についていけず黙る。話しかけても相手にされず、わたしはぼんやり物思いにふけっていた。


 屋台が並ぶ近くは照明が当たり明るいが、光が行き届かない薄暗い場所にいるわたしたちは、駐車場のタイヤ止めに座り、目を凝らしながら焼きそばや、フランクフルトを食べていた。


 食べ終わると三人で歩きはじめる。すると、顔は見たことあるがしゃべったことのない同じ組の同級生にバッタリ会う。その同級生は友達と数人で来ていた。みんな可愛らしく髪にかんざし、新しい浴衣を着ている。わたしはいつもの恰好。


 そのうちの女の子がつぶやく。


「桃子ちゃんは、浴衣じゃないんだ」

「……」


(あ……来るんじゃなかったー)


 悪意ある言い方ではなかったが、自分が恥ずかしくなってうつむいた。その時――。


 ドンドンドンッカッ


 太鼓の音が開始の合図だ。お腹に響く。


 祭やぐらの舞台に赤い提灯が灯る。屋台には万国旗が掲げられ、録音された大音量の音頭が流れる。華やかな浴衣を着て祭り囃子に合わせ踊る村人たち。小さな子供たちもはしゃいで輪の中に入って踊る。


 姉と母は血が騒ぐのか、興奮気味に盆踊りの列に加わり「桃子もいらっしゃい」と手招きする。わたしは太鼓の音がうるさいのと、気後れして首を振り頑なに入ろうとしない。またまた頑固でめんどくさい桃子を誘うのをあっさり諦め、姉と母は輪の中で楽しそうに踊り出すので、結局、どこにいるのか分からなくなった。


(ヤバい。はぐれてしまった……)


 ※この頃のヤバい。は本当に危ない意味。


 しかし、ふと思う。なぜ、わたしはここにいるのか――。


 好きでここに来たわけじゃないのに……。なんか親が「楽しいよ」「行こうよ」と言うからついてきただけ。だいだい、子どもだからってみんなが祭りを楽しいと思うなよ。雰囲気でごまかされてたまるかよ。桃子はだんだん腹が立ってきた。


 そうだ、家に帰ろう。


 突然、突拍子もないことを思い付く。


 実は数年前も似たような事がありました。その時は、夜、郡上ぐじょう踊りに家族で来ていた。途中で家族とはぐれたというのに、桃子は泣くこともなく、大声で助けを呼ぶでもなく単独行動したのです。一人で川の方に行って涼んで、ぷらぷらと散歩した。当時、幼稚園に通っていたくらいのちびちび桃子です。家族は必死で探して桃子を見つけ、ヘトヘト家族。桃子はわりと平気だった。


 そんなことをする桃子ですから、はい、ここはホームグラウンドです。家に帰ることにしました。父に車でスーパーまで送ってもらったが、昼間、自転車でここまで来たことある。


(大丈夫。真っ暗でも帰る自信はある)


 祭り会場のまぶしい照明から逃げるように、暗闇に向かって勇気を出して歩き出す最初の一歩。もうワクワクしかない。

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