E
山科宗司
第1話
この世界は魔王討伐から五百年後の世界、魔物達は一族の長が居なくなり、知恵がない魔物は多くが淘汰され、知恵がある魔物は人間の下に付くこととなった。そんな世界で虐げられる者と虐げる者の間にいる種族、獣人の若者である
「フォネウス」は中途半端な価値観で今日を生きていた
「いや、俺は魔物じゃないって何回言ったら分かるんですか?」
「ごめんね、でもギルドに魔物が村の周辺を彷徨いていて、恐ろしいから処分してくれっていう依頼が届いているんだよ」
「······。」
フォネウスは大昔から続く成人の儀を終え、友人であり、家族になる魔物を探す旅の途中だったのだが、旅の途中にこの小柄な男に長い間質問され続けていたのだった
「君が伴侶として愛せる魔物を探しているという事は十分わかったけど、貴方が恐れていたのは魔物ではなく、魔物を探す獣人でした。なんて、僕も報告できないんだよ」
「なんでですか?」
「だってね?獣人は魔王討伐時に手を貸してくれた唯一の種族だという事は僕も分かってる、村の人達も多分、それぐらいは知っている」
「だけどね、ここは獣人達が住む区画から遠く離れている土地で、獣人という存在は知っていても、獣人をその目で見た事が無い、軽い子供騙しなんじゃないかと思う人が多い土地なんだよ、そんな人達には獣人と魔物の違いなんて分からない、直接会うか何かしないと、分かってくれないんだよ」
「そうですか····」
確かに小さい頃に母に言われていたような気がする「魔王を討伐して喜んだのは大きな街に住む人間達だけで、小さな村で暮らす人間達には魔王なんて関係の無かった事」だったと
「分かりました、それじゃあその村まで案内してください」
「えっ?ほんとに?」
「はい」
「いやー、ありがとう。君が魔物じゃない証拠が無かったら村の人達に叱られていた所だったから」
叱られる····ギルドは市民を守る勇敢な戦士じゃなかったのか?
「ところで、君の名前は?」
「フォネウスです」
「フォネウスくんね、よろしく。僕の名前はヨシフ、鋼鉄の槌で敵を殲滅する期待の新人ギルド団員だよ」
「鋼鉄のヨシフで覚えてね」
「よろしくお願いします、ヨシフさん」
「じゃあ、色々話ながら歩こうか」
俺とヨシフさんは一時間ほど歩きながらお互いの事を話した、考えてみれば初めて話した人間だったし、生まれも種族も違う誰かと話すのはとても大切で、楽しい事だと分かった
「着いたよ、勘違いだったとは言え、ここが君の討伐を依頼していた村、村と言っても名前がついているわけじゃないし、好きに呼んでね」
「分かりました·····」
村の名前が無い、俺の住んでいた村でもヴィチナガヴという英雄の名がついていたのに、何故だ?
「えっーとね、今回の依頼主はミローヌさんだね」
ヨシフは小さな紙を見つめながらそう言った
ミローヌさん····
「ミローヌさんはね、僕達ギルド団員が一番お世話になる施設、宿屋の女主人なんだよ。美しいし、かっこいいし····まぁ、ミローヌさんに会ったら僕の言いたい事が一目で分かるよ」
「そうですか····」
ヨシフさんはミローヌさんの事を自分の事のように意気揚々と話しているが、何故なんだろう?
「あそこだよ、ミローヌさんが営む宿屋ギフトだよ」
ヨシフが指をさしながら宿屋だと言った建物は家の中から塔が突き出ている不思議な建物だった
「見た目が悪くても、宿屋として使えるなら大歓迎!!そういう気持ちでいつも泊まってるんだよ」
「凄いですね、色々と」
俺が知っている建物という存在はあんなに狂ったものでは無い、関心よりも心配が勝つ
「そういえば言い忘れていたけど、この村、だれも歩いてないでしょ?」
「そうですね」
フォネウスがそう答えるとヨシフは立ち止まり、話し始めた
「この村の近くには恐ろしい魔物がいてね、何人かのギルド団員が討伐や調査の為にその魔物がいると思われる場所に向かったけど、まだ誰も帰ってきてない。その魔物には剣も魔法も、僕の自慢である槌さえ効かない、と考えられている」
「それに、その恐ろしい魔物が魔物だと決まっている訳じゃない。ただ、僕達には恐ろしすぎるから魔物として扱ってるだけ、もしかすると人間かもしれない、僕達ギルド団員の誰かかもしれない、この村に住んでいる誰かかもしれない」
ヨシフの声は少し涙声になっていた
「みんな考え過ぎて······」
「······。」
「そんな時に君が現れた、現れたというのは少しおかしいけれど、僕はとにかく嬉しかったよ。僕が探している魔物は僕達を悩ませる恐ろしい魔物なんじゃないかと悩みながら歩いていたら出会ったのはフォネウスくん、獣人の君だった」
「獣人には魔王をも貫くと言われている爪と牙がある、そんな爪を持つ君なら僕達が知ることすら出来なかった恐ろしい魔物を倒せると僕は思う、というより信じたい」
「······。」
ヨシフさんの言いたいこと、この村に何が起きたかはなんとなく分かる。だが、ギルド、戦士である彼らが太刀打ち出来ないような魔物を俺が倒すことが出来るのか?
「それにフォネウスくんは魔物の伴侶を探す旅をしているだろ?つまり·····そういう意味だ」
「お願いだ、戦ってくれ」
「······。」
「もちろん僕も戦う、どれくらい役に立てるか分からないが、僕が君の足を引っ張るようなことはしない」
俺が勝てるか分からない、それに相手が何者か分からない、でも、この旅は愛すべき伴侶を見つけ、戦士となる旅だ。相手が誰であろうと関係ない
「分かりました、その魔物共に討伐しましょう」
「そうか···ありがとう」
「いいえ、別に」
「じゃあ行こうか、魔物退治」
ヨセフの声はいつもの楽しげな声に戻っていた
「そういえば、フォネウスくんはどんな魔物が自分の好みとか、希望とかはあるのか?」
「多足とか多腕とかそういう感じの魔物が好きです」
「へー、なんで?」
「色んな人と握手できるからです」
「·····まぁ、いいんじゃないか?」
ヨセフは苦笑していたが、こう考えていた
「確かに」と
E 山科宗司 @Impure-Legion
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