第33話 言っただろ? 俺は非道だって

 泣きじゃくるシャノンの頭に、俺の制服を被せてやって、俺たち二人は隣り合って座っていた。


「……でも、こんなことをしても、運命は変えられないわ。私ごと学園が爆破して、あなたも一緒に死ぬ。まあ、最後にあなたに会えたのは、私にとってはいいことかもしれないけど──」

「おいおい、なに簡単に諦めてんだよ」


 自分の世界に入っているシャノンに、俺はこう言ってやる。


「そんなの、とっくに解除してんぞ」

「え──」


 シャノンが俺に顔を向ける。


「そんな……」

「信じられないか? だったら、確認してみろよ。学園きっての天才なんだ。それくらいは出来るだろ?」


 促しても、シャノンは半信半疑といった表情で、自分の胸に手を当てた。

 やがて。


「……ほんとだ……! 私の中に仕掛けられた爆弾が……解除されてる! あなた、一体いつの間に?」

「さっきのやり取りの間に決まってるだろうが」


 そもそも俺はシャノンに精神操作をしているとうそぶいたが、そんなこと出来るはずがない。

 ただでさえ、拒否反応が大きい人間相手に精神操作は難しい。

 しかも相手は、学園きっての天才シャノン。

 やりたくても無理だった。


 そこで俺がやったのは、シャノンの内部に仕掛けてられてある爆弾の解除である。


 魔力の流れを確かめて、すぐに分かった。これは厄介だな……と。

 しかし少しずつ彼女の心を解していくと、それに比例して爆弾の解除に近付いた。


「だてに魔力操作が得意って言ってない。まあ……その副作用で、お前自身の魔力も使っちまった。今、お前の魔力はすっかからかんだろ」

「え、ええ。でもそのおかげで──」

「ああ、爆弾は無事に解除された」


 と、俺は顔を綻ばせる。


 正直……ギリギリだった。

 あれ? カッコつけたわりに、これって無理じゃね? と何度も思った。


 だが、無事に解除に至ったのは、爆弾の仕組みが彼女の心と密接に結び合っていたおかげだった。


「精神操作ってのも……全部嘘だったわけね」

「お前の中の爆弾を解除する! っつて拒絶されたら、俺だってさすがに解除は無理だからな。お前の気を逸らせたかったわけだ」

「卑怯な真似をするわね。結果的に、私をまんまと騙したってこと」

「言っただろ? 俺は非道だって」

「ははっ、そうね」


 ここで初めて、シャノンに笑顔が戻った。

 その表情はいつもの悪戯めいたものではなくて、彼女が心から笑っているように思えた。


 しかし一転。


「けど……まだダメ」


 シャノンは表情を暗くする。


「あなたはこれで解決と思ってるかもしれないけど……爆弾は一つじゃない」

「というと?」

「一番大きい爆弾が、私だったってだけよ。そもそも私自身だけなら、特選メンバーを外に出す必要はなかった。学園の他の場所にも、爆弾が仕掛けられてるの。さすがに人間自身を爆弾に見立てるような、複雑なことは出来なかったけどね」

「なっ──」


 そんなことは早く言え!


 ……とでも言うべき場面かもしれないが、今の俺は驚くほど心が平穏であった。


「ま、そんなことだろうと思ってたよ。反魔法協会の連中も、シャノンが心変わりする可能性も考えてると思ったしな。保険の意味合いとして、他にも爆弾が仕掛けられていると読んでいた」

「なら……っ!」

「だが、まあ──安心しろよ」


 そう言って、俺は内ポケットに手を入れる。


 そして俺が取り出したのは、この学園の生徒手帳だった。


「生徒会長様にこんな説明するのも、どうかと思うが……この手帳は通話用の魔導具にもなっている」

「え、ええ、そうね」


 なんで俺がこんなことを言い出したのか分からないのか、シャノンは戸惑っている。


「そもそも俺一人で全て解決出来ると、はなから思っていない。俺はスーパーヒーローの主人公じゃなくて、ただの悪役貴族だからな」

「悪役貴族……?」

「とにかく、ここから流れてくる音声を聞いてみろ。お前は自分一人でなんとかしようとしてるかもしれないが、ここの生徒はなかなか優秀なんだぜ?」


 首を傾げるシャノンの耳に、俺はその魔導具を近付けた。

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悪役貴族、非道魔法で異世界を蹂躙する 〜破滅を回避したいだけなのに、学園ハーレムを形成してしまう〜 鬱沢色素 @utuda

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