詩集

みかん

林檎

赤のコントラストが映える畑の一角で、私は林檎をひと齧り。

広がる甘さに身を任せる。

静寂を飲み込む足音を鳴らし、あなたは表れた。

近くの林檎を乱暴に毟り、平らげる。

そんなに急がなくても、林檎は逃げたりしませんよ。

そう声をかけた。

なにを言っている。急がなくては、あいつらよりも多くの林檎を食べれないではないか。

そう怒号を飛ばすあなたに私は黙って微笑み、背を向けた。

あなたはきっと、激烈な成功を賛美するのでしょう。

けれど私は、穏やかな幸せを賛美する。

あなたはきっと、皆よりも多くの富を成功に求めるでしょう。

けれど私は、皆を包み込む愛を幸せに求める。

あなたは、皆に愛されたい。

私は、皆を愛したい。

芯だけになった林檎が一つ、また一つと地に伏す音が聞こえる。

嗚呼、なんてもったいない。

甘美な旋律を深く感じながら、そう独りごちた。

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詩集 みかん @mikan31

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