忘れ去られた廃校(中編)

「うっ……!」


 まず『忘れ去られた廃校』に入った瞬間思ったことは、ほこり臭い。

 本当に誰もここに来てなかったということが分かった。


「拓也。今日の肝試しは何ができたら成功だ?」

「ん〜、そうだな。ってのはどうだ?」

「分かった。それくらいじゃないと、面白くないからな!」


 怖いものが平気な俺にとっては、全ての教室を回るくらいしないと面白くない。


 しかしこの時はまだ、この選択が間違っているということに気づかなかった。


「「え……。早く帰ろうよぉ……」」

 綾と渚は、怖くて仕方ないようだ。


 けれど、俺と拓也が奥に進むと2人だけになり、もっと怖くなるからか、2人は俺達の後ろにピタッとくっつくように着いてきている。


「そうだ!」


 拓也が、何か面白いことを思いついたかのように、声を上げた。


「どうした?」


 俺が聞くと、拓也は俺達の方へ、クルッと体を向けて言った。


「2人1組になって回れば肝試しにかかる時間が半分になるけれどどうする?」


 恐らく拓也は、綾と渚が長い間怖い思いをしなくていいために言ってくれたのだろう。

 お前、成長したんだな……。

 やばい、涙が……。出ないな。うん、出ない。


「分かったわ…」

 先に声を上げたのは綾だった。


「私は、輝と一緒にここを回るからね?」

「分かった!やっぱり綾なら!てことで、俺は渚と行くからな!」


 ん?拓也……。まさか、渚と2人になりたかっただけだったのか!?

 まぁいいか。俺も綾と2人になれるからな。


「それじゃあ俺達は東側から回るから、拓也達は、西側から回ってくれ!」

「分かった!5分ごとに通話で生存確認するってことを覚えておけよ」

「生存確認って、言い方怖いな!でも、分かったよ!」


 そう言って俺達は2手に別れて回ることにした。


「輝と2人っきりだぁ〜!」

「あれ?怖かったんじゃなかったのか…?」

「え?怖いに決まってるじゃん!でも、輝と2人きりだから少しテンションが上がっただけだよ?」

「そういうことか…!」


 俺達は、そんな会話をしながら順調に教室を回って行った。


 拓也達と別れて約5分が経ったので、俺は拓也のスマホに生存確認の通話をかけた。

 が、拓也が通話に出ることはなかった。


 俺達は、拓也と渚が生きているか心配になり、東側を回るのを急遽取りやめ、拓也達の行った西側の方へ向かった。


 1分ほどで、先程拓也達と別れた所まで来ることが出来た。

 拓也達がどこにいるか分からないので、西側の教室を1つずつ回って行った。


 西側の教室を回り始めて次で4つ目の教室だ。


 かサッ……!


「これって、足音か?拓也達だ!」

 俺はそう言って、足音のした教室に勢いよく入った。

 俺に続いて、綾も教室に入ったが俺達はすぐに足を止めた。


 そこにいたのは、髪が2メートルほどありそうな、女の幽霊?だった。


「おは…よ……う………」


 その声は、ドスの効いた聞いていて不快な気持ちになるような声だった。


 俺達はその声を聞いた瞬間、恐らく反射的にその教室から逃げ出していた。


 ドッドッドッドッ…!


 心臓が握りつぶされそうな感覚。

 なんで、肝試しなんか来てしまったんだよ…!

 というか、あいつはなんなんだ…!?

 確か、「おはよう」って言ってたな……。もしかして、この学校で生まれた地縛霊!?


 綾も、しっかり俺に着いてこれている。どこかで隠れないと、俺達の体力が尽きてしまう…。


「綾……!1度2階に上がってからどこかで隠れて一旦休もう……!」

「わ、わかった……」


 綾は涙声だった。

 ちくしょう!すまない…!こんな肝試しに誘ってしまって……!


 俺達は、2階に上がって2個目の教室に入って、綾と2人で掃除用具用のロッカーに隠れた。


 あの呪縛霊がいなかったら2人で密着しているからすごくドキドキしただろう。けれど、今は恐怖でドキドキしている。


「(どうしようか…。少し休んだら玄関まで走れるか…?)」

「(う、うん…!それにしても、お兄ちゃん達どこに行ったのかな…?)」

「(LINEしてみるよ…!)」

「(ありがとう…!)」


 ザザッ…ザザッ……!


「ドコニ…イッチャッタノ……?」


 やばい!俺達のいる教室に地縛霊が入ってきてしまった。

 頼む、バレないでくれ!


 ザザッ………ザザッ…………ザッ…………


「(よし!どっか行ったぞ…!行けるか…?)」

「(う、うん…!)」

「(3・2・1で行くぞ…!)」

「(分かった…!)」


 俺達は息を整えた。


「(3…、2…、1……、行くぞ!)」


 俺の掛け声に合わせて俺達は、ロッカーを飛び出して、先程上がってきた階段を全力で降りて玄関に向かって全力で走った。

 しかし────


 バタッ!


「輝!まってよぉ……」

 綾がつまづいてしまった。


 俺は、綾の元に駆け寄って言った。

「足、大丈夫か?……走れるか?」


 綾は、無言で首を横に振った。

 どうやら足を痛めてしまったらしい。


「分かった。俺の背中に乗れ…!」

 俺は綾をおんぶして、本気で玄関に向かって走り出した。


 ザザッ…ザザッ!


「ミ…ツケ……タ………」


 くそっ!見つかってしまった!

 けれど、地縛霊は走らずに歩いてきている。

 まさか、ここが廊下だからか…!?


 それはありがたい。けれど、学校を出たら走ってくるかもしれないな。早めに逃げておこう。


「ハァ、ハァ…あそこを右に曲がれば玄関だ…!」

「輝ごめんね。頑張って!」

「あぁ!」


 逃げきれる…!!


 は………?

 俺は、衝撃的な光景を見てしまい、つい足を止めてしまった。


「どうして……?」

 拓也と渚が、血まみれで死んでいたのだ。

 拓也は、渚のことを守るように抱いて死んでいる。

 拓也……。お前ってやつは……!


「輝……。お兄ちゃん達は死んじゃったからもう助けれないけれど、私達ならまだ助かるんじゃないの!?ここで私達も死んだらお兄ちゃんが可哀想だよ…!」


 そういう綾の声は、今までに聞いた事のないような涙声だった。

 実のお兄ちゃんだもんな……。

 くそっ…!


「そ、そうだな!俺達はまだ生きている…。拓也達のためにも絶対に生き残るぞ……!」


 俺は、綾をおんぶしながら走っていたので、体力の消費が激しいが、2人分の命がかかっているので、限界を超える気持ちで走り続けることにした。


「やった!廃校から出られたよ!あと少しだよ輝…!頑張って!」


 綾は家族が殺されて苦しいはずなのに、わざと元気なふりをして、僕を励ましてくれている。綾の思いに答えなければ…!


「任せろ…!」


 あと少しで校門を越えられる…!


 しかし────


 地縛霊も、廃校を出てしまった。

 地縛霊は廃校を出た瞬間、人の域を超えたスピードで追いかけてきた。


 どうして……!

 追いつかれる…。


「輝。大好きだから…!」

「え…?」


 その瞬間、急に背中が軽くなった。

 綾が俺の背中を飛び降りて、地縛霊を止めるように、大きく手を広げたのだ。


「あ、綾…!!」

「輝だけでも生き延びてよね…!」


 俺は怖くて綾を助けに行くことが出来ず、ただ逃げることしか出来なかった。


 後ろから体を切り刻むような音が聞こえてくる。

 綾も…俺のせいで……。


 大事な人を3人も失って、俺だけ逃げ出して、俺は生きていていいのかな……?

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肝試し。〜行くと決めた時には、もう詰んでいた〜 くまたに @kou415

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