肝試し。〜行くと決めた時には、もう詰んでいた〜

くまたに

忘れ去られた廃校(前編)

「はぁ、はぁ…。どうしてこうなっちまったんだよ…。誰か助けてくれ!」



 ☆☆☆


「なぁ、ひかる!なにボーっとしてんだ?」

「え?いや、なんでもない…!」

「そうか!そんなことより、今週末‪”‬いつものメンバー‪”‬で肝試きもだめしに行かないか?」

「季節違わね〜か?もう秋も終盤だぞ?」


 俺を、肝試しに誘ったこいつは、上田うえだ 拓也たくや

 幼稚園からずっと一緒で、いつも遊んでいる俺の親友あいぼうだ。


 あと少しで、11月が終わるというのに、拓也は何を言っているんだ…?


「いいんだよ。いいんだよ!俺は、周りの流れに流されるのは嫌いなタイプだからな」

「た、確かに…!昔からそうだったよな」


 拓也は昔からみんなと違うことをしたがる。そう、拓也はあまのじゃくだ。

 例えば、多数決では、決まって誰も手を挙げないものに手を挙げる。

 それに、ジャンケンをしてもいつも一人勝ち、または、一人負け。(どういう原理かは分からないが……)


 そんな感じで、拓也はいつもみんなと違うことをしたがるのだ。


「分かった行く。いつ、どこに行けばいい?」

「お?いつにも増して乗り気だね〜」

「いや〜。‪”‬いつものメンバー‪”‬って拓也以外は女子だろ?拓也だけだと彼女達が危険だよ…」

「なんだよそれ〜」


 そう言って拓也は、ジト目俺をで見つめてくる。


 ちなみに、‪”‬‪いつものメンバー”‬は、俺と、拓也と、その妹の上田うえだ あや。そして、綾の親友の山野やまの なぎさだ。


 彼女達は、他の女子と比べるとアクティブな方だが、さすがに肝試しとなると心配だ…。


「いつもの公園に5時に集合。みんなで夜ご飯を食べてから肝試しにいこう!」

「わかった。ところで肝試しはどこでするんだ?」

「それは、秘密で〜!」


 大丈夫、か…?


「わ、わかった……」



 ☆☆☆


 今日は、少し前から約束をしていた、‪”いつものメンバー‬‪”‬での肝試し。


 僕は、正直怖いものは平気だけど、今回は嫌な予感がする…。

 なぜなら、拓也が目的地を教えてくれなかったからだ…。

 拓也が目的地を教えてくれない日に限っていつも、厄介なことに巻き込まれる。

 ある日は、目の前でひったくりが発生したり。またある日は、小さい子が迷子になっていて交番に送り届けたり……。


 だから、目的地を教えてくれなかった今回もなにか厄介なことに巻き込まれる気がする。


 しかし、行くと決めたから俺は最後まで付き合うけれど…。


 時計で時間を確認すると、いいぐらいの時間になっていたので、俺は荷物を持って家を出た。

 ちなみに、両親には拓也の家に泊まると以前から言ってあるので、今日は家に帰らなくてもなにも心配されない。



 ☆☆☆


 約束の場所の公園に着くと、既に綾がいた。

「あれ?拓也は?」

「お兄ちゃんは家においてきた。輝のことだから早く来ると思ったけれど、予想通りだね!」

「俺は、綾のことだから早く来ると思って、早く出たんだけどな?」

「ほんと、輝は私の事好きだよね〜」

「おい!声が大きい…!」


 俺と綾は、1年前から付き合っている。

 そのことは、拓也や渚は知らない。


 けれど、拓也と渚はいい感じなので、もう付き合っている。または、あと少しで付き合うという感じだ。 


「まだ2人は来てないよ?」

「いいや…。隠れているかもしれないだろ?」

「私はバレてもいいんだけどな〜?」

「俺は、渚にはバレてもいいけれど、拓也には絶対にバレたくない!」

「どうして?」

「だって、煽られるじゃん……」

「……ブフッ!ごめん、ごめん!面白くてつい笑っちゃったよ!」

「綾?今のは、頑張って耐えるとこだと思うけれど…?」

「そうかな?」


 そう言って、綾はあどけなく首を傾げた。

 うっ……。可愛すぎてこれ以上は言えない…。


「「お〜い!」」

 俺達が他愛のない話をしていると、拓也と渚が、2人手を振りながら歩いてくるのが見えた。


 やっぱり付き合ってるよな…?

 仲が良すぎるだけなのか?どうなんだよォ…!


 俺達4人が合流すると、拓也が今日の目的地を発表した。

「今日俺達が肝試しに行くところは、『忘れ去られた廃校』だァ〜!!」

「「『忘れ去られた廃校』?」」


 俺と綾は首を傾げているのに対し、渚は「それ知ってる!」と、手を挙げて主張した。


 そして、『忘れ去られた廃校』についての説明もしてくれた。


「『忘れ去られた廃校』って言うのはね、30年前まであった高校が、廃校となってできたの。そして、だれも整備をしないので、廃校の周りは、ジャングルのようにツタが生えた。そんな、廃校を人々は『忘れ去られた廃校』と呼んでいるの。過去にこの廃校に行った人は片腕を失ったという言い伝えがあるの…」


 ゴクリ…。

 なんだよそれ。胡散臭うさんくさいな。


「おぉ。渚よく知ってるな。うちの学校でも誰も行ったことがないくらいに恐ろしい場所だそうだ」

「お兄ちゃん…。それ大丈夫なの…?」


 そうか。綾は怖いの苦手だったよな。


「綾。大丈夫だよ!」

 俺は綾が少しでも安心するようにわざと元気な声で言った。


「そ、そうだよね!輝とお兄ちゃんが守ってくれるよね…!」

「え〜、なんで俺が綾のこと守らないといけないんだよ〜」


 拓也は、嫌そうな顔をしているが、やる時はやる男だ。

 だから、みんな困った時は拓也を頼っている。


「拓也…!私も守ってよね?」

 渚も、綾につられたのか、少し声を震わせて言った。


「この、拓也さんに任せとけ!」


 拓也…。分かりやすすぎる。


「あ、ありがと…!」


 うわぁ〜。拓也と渚から暑い空気がやってきたよ。

「(輝は、もちろん私を守ってくれるよね?)」

「(守るに決まってるだろ!)」


 僕達はこっそりそんな会話を交わした。

 もしかしたら僕達もなかなか暑い空気を放っているかもしれないな…。



 ☆☆☆


 僕達は、安くて美味しいラーメン屋さんで夜ご飯を済まし、目的地である『忘れ去られた廃校』に向かって歩いている。


 提案者である拓也もビビっているのか、いつもよりも口数が少ないように思うのは気のせいだろうか…。



 ☆☆☆


 俺達はラーメン屋から15分ほど歩いたところにそれはあった。


「ここ、か…」


『忘れ去られた廃校』は、禍々しいオーラを放っており、背筋が凍るような思いをした。


「本当に周りがジャングルのような見た目だな…」

「そう、ね…」

「本当に行くの…?」

「い、行くに決まってんだろ…!」


 拓也が先陣を切って廃校の敷地内に足を踏み入れた。


「しかたねぇな!」


 俺も、拓也の後を追いかけるように、廃校に足を踏み入れた。


「「ま、まってよぉ…!」」


 そして、追いかけるように、綾と渚が俺達の後に続いた。


 こうして俺達の肝試しは始まった。





────────

次回、金曜日または土曜日更新!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

肝試し。〜行くと決めた時には、もう詰んでいた〜 くまたに @kou415

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画