第2話 カナルディアの聖女 その1
「わー! パンだ! ありがとう聖女さま!」
「聖女さま〜! 私チョコのがいい!」
「はいはい順番順番〜。あと聖女さま呼びやめてね? みんな〜」
「はーい! 聖女さま!」
「わかったよ聖女さま!」
ダメだこりゃ、とリディアは天を仰ぐ。誰が呼び始めたのかわからないが、なぜかリディアは『カナルディアの聖女』と呼ばれまくっていた。……まあ原因はこのおすそ分けなのはなんとなくわかっているが、リディアにとってはこの厄介な体質と勿体無い精神を秤にかけた結果の行動なのでなんとも納得しづらい。
なんだかなあ、と思いつつぐるりと子供たちを見る。顔色はみんな良さそうだ。もぐもぐとパンを頬張る子供たちの顔を見てると、なんかもうどうでもいいやと思わなくはないが、ここはちゃんとしっかり言い聞かせなければ。
「いい? みんな。私のこと聖女さまって呼ばないの! 本物の聖女様に失礼でしょ?」
「そうかなあ」
「仕方ないなあ。ダキョーしてあげてもいいけどぉ」
「でもさ〜リディア姉さん、もう諦めたら〜?」
「なんで私が諦めなきゃいけないの……!?」
やいのやいの言っているが、子供たちはリディアの聖女呼びを諦める気はない、らしい。うーん。困った。まあ少しずつ言い聞かせるしかないか。とリディアは肩を落とす。ちょうどパンも売り切れたし、帰ろう。
じゃーねーと子供たちに手を振って帰路につく。子供たちもパラパラと手を振って帰っていく。秋とはいえまだまだ夏の暑さが残る気温だし、防寒着の差し入れはまだ不要だろう。そうだ、膝掛けを作るための毛糸を買わないと……。そう思いながら家に続く小道に入り……ふと気づいた。あれ。家の前に誰かいる……?
白い外套には王家の紋章が刺繍されている。何よりあのガタイの良さは騎士と言いきってもいいものだろう。え、嘘……?
一旦逃げた方がいい?でもな……なんて思案するリディアに白外套の男性は気づいたようでくるりとリディアの方を向く。
「失礼。カナルディアの聖女、リディア様でいらっしゃいますか?」
終わった……。そう心の中でつぶやいたリディアは「はい、そう呼ばれていますぅ……」と蚊が鳴くような声で言った。
その聖女、腹痛につき @joshua110yd
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