【トウモロコシの精霊】掌編小説
統失2級
1話完結
大粒の雪が静かに降り積もり、街灯に照らされた歩道をクリーム色に染めている。赤村俊哉は歩道の脇で立ち止まり空に向けてゆっくりと息を吐いてみる。白い息は瞬く間に空気に溶け込み透明になって消えて行った。「早く帰ろう」1人呟き、滑らない様に気を付けながら歩みを再開する。それから、5分ほど歩いただろうか、俊哉は自動販売機の前で足を止めた。(今朝は無かった自販機だ。新しく設置されたのだろう)そう思いながら、目新しさもありコーンスープを買う事にした。見知らぬメーカーのコーンスープだったが、味に劣るところは無かった。俊哉はコーンスープの温かさに心身を癒されつつ、十数分後には一人暮らしのマンションに帰宅した。
夕飯の冷凍ハンバーグと白米を食べていると、玄関のチャイムが鳴った。(宅配便だろう)俊哉はそう思い玄関ドアを開ける。するとそこには若くて美しい女性がダンボール箱を抱えて立っていた。「私はトウモロコシの精霊のマユリーと言います。先ほどの自動販売機でコーンスープを買って下さったあなた様に感謝の気持ちを込めてプレゼントをお持ち致しました。あなた様はあの自動販売機でのコーンスープの最初のお客様なのです。ですから、その記念にどうぞこの30本のコーンスープをお受け取り下さい」「は!?」「どうぞ遠慮なく、是非ともこの30本のコーンスープをお受け取り下さい」マユリーと名乗った女は笑顔のままダンボール箱を差し出す。「何言ってんの? トウモロコシの精霊って何だよ、そんな変な事を言ってる人間から物を貰える訳が無いだろ、悪いけど、そのコーンスープを持ってさっさと帰ってくれ」俊哉は吐き捨てる様に言い放つ。マユリーは悲しそうな顔をしていたが、俊哉は不審感と恐怖感から玄関ドアを激しく閉めて鍵を掛けた。食卓に戻った俊哉は考え込む。(あの女は一体何だ? 俺のストーカーか? それとも俺の会社の人間たちがドッキリの為に雇ったバイトか? いやだけど、何であんな短時間でコーンスープのダンボールを用意出来た? 俺があの自販機でコーンスープを買う事なんて誰にも予測出来なかった筈だ。 それとも最初から何らかの理由を付けてコーンスープのダンボールを持って来る事は決まっていて、偶々、俺がコーンスープを買ったという事か?)色々、考えを巡らすが、目ぼしい答えを見出す事は出来なかった。俊哉は得体の知れない不安感を抱えながら、夕飯を完食した後はシャワーを浴びて歯を磨きベッドに入った。
俊哉は不意に湧き上がる快感に包まれ目を覚ました。首は動くがそれ以外の体は動かせない。快感の発信源である下半身の方を見ると薄暗い常夜灯に照らされた全裸の女が股間に股がっている。顔をよく見るとあのトウモロコシの精霊を名乗っていたマユリーという女だった。「どうやって部屋に入ったんだ!!」叫ぼうとするが、声は出せない。(あぁ、そうかこれは夢だな。でも、SEXの夢を見るなんて大学生以来だ。それならこの夢を楽しんだ方が良いな)そう考えた俊哉はすっかり安心して数分後には射精の快感に包まれた。(夢精したか? もしそうなら、洗うのは面倒なのでこのパンツは捨てよう)そんな事を考えていると、マユリーが横にやって来て俊哉の顔を覗き込む。「さっき、あなた様に追い返された時は本当に悲しくて、電車に飛び込む寸前まで追い込まれていました。ですが、あなた様の顔を思い出す程に腹が立って来てあなた様への復讐を決意したのです。あなた様はたった今、私の体内に射精しました。それによってあなた様は体質が変わり、トウモロコシ以外の食べ物全部アレルギーになりました。あなた様がトウモロコシ以外の食べ物を食べると苦しみながら、死ぬ事になります。ですから、これからの人生ではトウモロコシだけを食べて下さい。あぁ、でも水は飲んでも大丈夫ですよ、これからはトウモロコシと水だけで生きて下さい。それでは私は帰ります。さようなら」
翌朝、目覚めると俊哉の着衣に乱れは無く、夢精の形跡も無かった。(あんな不審者とのSEXの夢を見るなんて、俺はどんだけ性欲が強いんだよ)俊哉は苦笑しつつも、朝の日課通りにバタートーストと牛乳を飲食した。すると、完食した直後にフローリングの床に倒れ込み、1時間以上に渡って苦しみながら死んでしまうのだった。それは、26年間の余りにも短く余りにも悲しい人生の幕切れでした。
【トウモロコシの精霊】掌編小説 統失2級 @toto4929
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