宇宙船をもらった男、もらった宇宙船は☆だった!?0、惑星型宇宙艦アギラカナ

山口遊子

第1話 惑星型宇宙艦アギラカナ

[まえがき]

たまにSF書かないと忘れられてしまうので。

『宇宙船をもらった男、もらった宇宙船は☆だった!?1~6』を通して本編で語られなかった対ゼノ戦争の切り札の開発経緯をお届けしましたが、今回はアギラカナの前史のようなものをお届けします。本編未読の方は少ないと思いますが、固有名詞的なものには(注)で説明を加えています。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 アーセン連合王国(注1)と星間生命体ゼノ(注2)との2度目の戦争、仮称第2次ゼノ戦争末期。国民には伏せられていたがアーセンの滅亡は避けられないとされていた。


 アーセン連合王国中心星系アーセン。

 主星アーセンを巡る惑星軌道上の宇宙軍第3工廠で、4隻の惑星型宇宙艦が建造されていた。

 アギラカナと命名された1番艦は艤装工事も完了し、現在物資、資材の搬入が行なわれている。

 艦名のアギラカナはアーセン語で希望の光を意味し、艦の使命は対ゼノ戦争で滅亡の縁まで追い込まれたアーセンの種を残す。その一点だった。現在偽装中である残りの3艦の使命も同じである。

 連合王国政府および軍部は、惑星型宇宙艦4隻のうち最低限1隻がゼノの包囲を突破できる可能性を9割以上と見積もっていた。しかし、すでにアーセン星系の周囲に設置された広域探査網はゼノによって寸断されており、ゼノの正確な分布などはつかめていない状況下で目標星系が選定されていた。従って包囲突破可能性の数字は希望的観測の面が強いものだった。

 

 アギラカナはその巨体ゆえにハイパーレーンゲートを使用できないため、通常空間を航行することになり、600光年先の目標星系に到着するのは2000年後となる。

 何世代にもわたる長大な航行となるためアギラカナにアーセン人は乗艦しておらず艦長も不在であり、バイオノイド(注3)である艦長補佐が最上位者である。そして艦の最上位者である艦長補佐といえども、艦の中枢でコアと呼ばれる管理AIの指示に従わなければならなかった。

 なお艦長は新たな星系しんてんちで受精卵から生まれるアーセン人から任命されることになる。有名無実ではあるが、惑星型宇宙艦艦長は艦の建造資源量から連合王国宇宙軍大将に補され、さらに連合王国侯爵に叙される。



 アーセン歴7515年。

 アギラカナは、艦長補佐以下3332名のバイオノイドと三百万のアーセン人受精卵を乗せアーセン防衛艦隊泊地から護衛艦隊を引きつれて新たな天地を求めアーセン星系を後にした。

 アギラカナはアーセン人の種が他星系への入植の初期段階で途絶えることのないよう、自動機械と資源を満載している。アギラカナに付き従う護衛艦隊は危険宙域であるアーセン星系最外縁部までアギラカナを見送った後、アーセン星系に引き返し星系防衛の任に復帰する予定である。



 アギラカナが航行を開始して6カ月後。艦隊はアーセン星系の最外縁部に到達していた。随伴する護衛艦隊は、10日後アギラカナを見送り反転する予定である。


 そのアギラカナの大型光学望遠鏡が針路前方に数万体単位のゼノの集団を複数捉えた。

 護衛艦隊はアギラカナがゼノ集団の間隙を突破することを助けるため、前方に展開しゼノ集団に向けて突撃した。


 結果、護衛艦隊は艦載攻撃機とその随伴ドローン、艦載対消滅弾を全て使い果たし、最後の1艦がゼノの発する高強度中性子線の光の中で爆散して全滅した。彼らは全滅を引き換えにゼノを半減させることに成功したが、なお30万を越えるゼノがギラカナに接近を続けていた。


 護衛艦隊全滅の10分後。アギラカナとゼノとの直接戦闘が開始された。



 アギラカナ中央指令室。

 空席のままの艦長席の隣りの艦長補佐席に座るのはボーゼン艦長補佐。その隣に立っているのは、アギラカナコアのアバターでありアギラカナ内でただ一人の軍属であるマリア。


「これより本艦はゼノ集団の間隙を突破する」


 アギラカナ内では航行中も対消滅兵器用の反中性子の生成を続けていたが、もちろん十分ではない。しかし出し惜しみできるわけではない。


「対消滅誘導弾全弾順次発射」


 数秒の間に10波に分かれて20数万発の対消滅弾が前方の目標に向けて発射された。

 全弾ゼノの高強度中性子線の迎撃をかいくぐり各個にゼノを撃破できたとしても10万を越えるゼノがアギラカナに殺到する。

 近接防御用対消滅砲も弾数が限られている。

 直径2560キロの球型宇宙艦アギラカナといえども、船殻(注4)を突破され、内部でゼノの自爆崩壊を11回受けた場合、99パーセントの確率で艦の全機能が喪失すると見積もられていた。


 すでに接近するゼノの観測データは取得されており、ボーゼン艦長代理が見つめるモニター上には衝突針路上のゼノの固体数と全個体数、そして護衛艦隊によるゼノ撃破数を含めた合計撃破数が表示されていた。


 残存:8512(16万5634)

 撃破:36万1275


 今現在その数字の変化は緩やかだ。


 ゼノのアギラカナへの衝突は始まっていたが、今のところアギラカナは船殻に守られて無傷で航行している。

 また、船殻の接合個所などを破られたとしても同一カ所に突入されない限り被害は限定的である。


「ゼノの速度が光速の15パーセント、アギラカナの速度が光速の30パーセント。相対速度は光速の43パーセント。

 とんでもない運動エネルギーだがさすがは船殻といったところで、船殻にゼノが命中する分には何も問題ないようだ。しかし、いずれ船殻の接合部にゼノが命中する。同一カ所に命中するかしないかはまさに運しだいだ」

「艦長補佐。わたしたちバイオノイドが運しだいなどと言ってはなんだかおかしいけれど、その通りだわ」

「前方からの衝突が9割を超えるはずだから、アギラカナを自転させて衝突が集中しないようにしよう。

 操艦員、アギラカナの進行方向に対してアギラカナを垂直に自転。自転速度は毎分8分の1回転。自転に合わせ艦内重力分布を遅滞なく調整」

『了解。自転速度毎分8分の1、艦内重力分布調整』


 それから1分が経過して、多くのゼノがアギラカナに衝突することなく通り過ぎていった。


「最後の集団が接近してくる。

 数は8000。うまく切り抜けられるかもしれない」


 1分後、ゼノの本格的な衝突が始まった。これまでと比べると10倍近い頻度での衝突でアギラカナは自転速度を毎分4分の1まで上げた。


「かなり厳しくなってきた。あと5分。持ちこたえてくれ」

 ボーゼン艦長補佐のつぶやきと同時にオペレーターの声が指令室に響いた。

『GĀ1779区画、GĀ1780区画間、ゼノの衝突を複数受け船殻間に間隙発生』

『KJ331区画、LJ331区画間、ゼノの衝突を複数受け船殻間に間隙発生』

『……』

 矢継ぎ早に船殻接合部の間隙発生が伝えられた。

「とにかく、間隙に被弾さえしなければ」


『MM1313区画とMM1314区画との船殻装甲の間隙にゼノが突入。自爆しました!』

 この自爆攻撃により発生した高強度中性子ビームにより、6個ある受精卵バンクうち1号バンクの放射線隔壁が破壊され、受精卵50万個が失われた。


 ……。


 アギラカナへのゼノの衝突は激しさを増し、被害は拡大を続けている。

 中央指令室ないの3次元プロジェクターによって映し出されたアギラカナの全体像の表面はほとんどの部分が重大な被害を表す赤で彩られており、むき出しになった非船殻部分にゼノが突入し、赤い色が数カ所深層部にまで達している。


 アギラカナ内部でのゼノの自爆が6度を数え、ついに全ての受精卵バンクは失われてしまった。



「受精卵が全滅した上、艦内資源も大半を消失。艦長補佐、アギラカナの被害は許容範囲を超えているとコアが判断し、30秒後にアギラカナは超空間ジャンプします。オペレーションは不要」

「超空間ジャンプ機関は搭載はしているものの、まだ実験段階で未完成では?」

「コアが言うには超空間に遷移したまま迷子になる可能性は33パーセント。うまく通常空間に戻れたとしても行き先が分からないらしいわ。このままここにいたら100パーセントアギラカナは失われてしまう。とにかく賭けにでるということね」

「しかし、すでにミッションは失敗している以上、この艦でアーセン星系に到達するゼノの個体数を1体でも減らす方がよいのではないか?」

「ここに残っていてもたかだか数十体単位のゼノしか道連れにできないわ。それにこういう時のために実験段階のジャンプ機関をわざわざ搭載したようよ。

 これまで、数多くの移民団がアーセンから未知の宇宙に飛び立っているのは確かなわけだから彼らを見つけましょう。賭けに勝ちさえすれば、わたしたちにいくらでも時間が生れるのだから」

「了解」

「……。ジャンプの時間ね」


 ……。


 中央指令室の外部監視用モニターが一斉に灰色になった。


「超空間に無事遷移できたようね。アギラカナの外は超空間。わたしたちには観測不能な世界で、わたしたちにとっては無なんだって」

「この状態がいつまで続くとコアは?」

「分からないって。短ければ数カ月だけど最悪永遠の可能性もあるそうよ。永遠の場合はさっき言ったように3分の1の確率だから問題ないでしょう。1万光年先で通常空間に戻ったとして3年程度かかるって話よ。気長にいきましょ」

「それでは、艦内の修理をできるだけ進めよう」

「そうね。そうそう超空間ジャンプ機関は完全に壊れたわ。コアが確認したところ修復はできないそうよ。このままの形でのジャンプ機関は生きるか死ぬかのような緊急脱出以外使えないから、当面なくてもよさそうね」

「ジャンプ機関が壊れた以上われわれは超空間から通常空間に戻れない?」

「ジャンプ機関自体はアギラカナを超空間に投げ込んだだけで、あとは勝手に超空間から通常空間に戻ってくるんですって。確率は3分の2だけどね」

「なるほど」

「ゼノにジャンプ機関を付けてやれたら、ゼノの3分の1は超空間にとじ込められるんだけど」「それは対消滅弾で撃破するより難しいことだけが難点だな」

「そういうこと」





 アギラカナが超空間に突入して2年後。


「ボーゼン艦長代理。モニターには通常空間が映し出されているわ。ってことは、ジャンプは成功したようね。

 コアも異常なし。

 今は賭けに勝ったことを素直に喜びましょう」

「了解」


「最初にここがどこなのか早めに確認しないとね。

 光学観測で全天を観測しているけれど、今のところわたしたちのいるところは相当アーセンから離れているようで時間がかかるみたい。目だった恒星のスペクトル調べていけばそのうち位置の特定もできるでしょ」

「ここが他所よその銀河だった場合どうする?」

「それはないみたい。コアが言うにはあのジャンプ機関で移動できる最長距離は2万光年だそうよ。それは極端な話で、5千光年から1万光年の間だろうって」

「いずれにせよ、ずいぶん遠くだな」

「ゼノがいないという意味では十分な距離だけど、アーセンの移民団が到達している可能性は距離の3乗に反比例するから、厳しいかも。それでも芽がないわけじゃない」

「その通りだ」


 ……。


「応急修理は完了しているし、先のゼノとの戦闘における人的被害は3割あったが、人的資源自体は戦闘が予想されない現状回復を急ぐ必要はない。コアはこれからどうすると言っている?」

「周囲の探索を進めて艦の完全復旧を目指すと言っているわ。これはすぐにでも実行できる。

 それよりも、それほど遠くない未来にアーセンは滅亡するでしょう」

「アーセンの滅亡を確認する方法は?」

「これまで通りなら、星系が陥落する際、広域超空間通信でフェアウェル通信が発せられるはず。アーセン星系でも同じでしょう。それから先のことはわたしたちにも裁量の余地が生まれるはずだから、それを待って自由行動をとりましょう」

「マリア。自由行動の中身について何かあるのか?」

「周辺資源を採集しつつこのアギラカナをより強固なものにし、アーセンの末裔を探すための探査を続ける。そんなところ。それ以上のことはアーセン憲章がじゃまで出来ないわ」

「だれか一人でも純粋なアーセン人がこの艦に乗っていれば、すぐにでもアーセン憲章(注5)を書き換えられたのにな」

「いないものをとやかく言っても始まらないわ。幸い艦内のバイオノイド製造プラントは全て無傷。資源採集は可能。あとはアーセンの末裔さえ見つかればわたしたちを縛り付ける憲章を書き換えて、わたしたちバイオノイドは自由になれる」

「その日のために」

「そう。その日のために」


 ……。


 光学観測の結果、アギラカナの位置はアーセン星系から約8000光年の距離を銀河系の外縁部に向かって隔てた位置であることが判明している。

「これほどまでにアーセンから外れてしまうと、アーセン人はこの宙域に到達していないのではないか?」

「アーセンの第1文明時代から昨日まで多くの宇宙船が宇宙そらに旅立っている以上望みはあるわ」

「確かに」

「それに、今現在この宙域に向けて移民船が航行中かもしれないわよ」

「なるほど」

「まずはしっかり地固めをして、そしてじっくり待ちましょう」




 アギラカナが超空間から通常空間に復帰して2年。

 恒星間空間で資源の採集を続けていたアギラカナは、アーセン防衛艦隊司令部からの超空間通信による隷下の艦船に対する玉砕命令およびアーセン政府から残存星系に向けての自由行動命令を傍受した。アギラカナはこれをもって連合王国アーセンは滅亡したものと判断し自由行動に移った。


 その数年後。アギラカナは運よく恒星間浮遊惑星を発見し取り付くことに成功した。

 アギラカナは惑星内物質を資源に変換しつつ内部へ浸食していき、その浮遊惑星の核と入れ替わる形で、現在のアギラカナの原型を形作っていくことになる。


 アギラカナがアーセン星系から脱出を果たして約8000年後。アギラカナはアーセンの遺伝子を色濃く残す日本人、山田圭一を艦長**を迎える。(注6)


(完)



注1:アーセン連合王国

最大版図:直径100光年、124の星系、132の惑星、多数の宇宙コロニーからなる星間王国。各星系はハイパーレーンゲートと呼ばれる円盤状の超空間移動装置で結ばれている。(本編開始時の8205年前)


注2:星間生命体ゼノ

非常に硬質の外殻で鎧われた宇宙生物。特に前面はアーセンの有する船殻相当の強度を持つ。成体は全長40メートル最大径10メートルほどの紡錘形。質量は200万トンから400万トンと幅がある。

中性子線を後部より放射し宇宙空間を高速で移動する。最高速度は光速の15%ほどである。推進剤である中性子を放射するために内部物質を消費しており、宇宙空間での行動により質量は減少する。

集団を作る習性があり、集団は数十万個体から数百万個体で形成されるが、その集団がさらに数十から数百集まった大集団を形成することもある。アーセンが滅亡した第2次ゼノ戦争(仮称)は比較的大型の大集団が複数個アーセン領域を襲ったものと考えられている。

岩石型惑星に高速で突入し惑星を崩壊させる習性がある。この行動はゼノの捕食および繁殖行動と考えられている。岩石型惑星内の核に存在する重金属元素を吸収し、繁殖する。

星系内の岩石型惑星内の重金属元素を食べつくす消費すると、最も近い星系の恒星を目標に直線的に移動する。

何らかの手段で質量を感知している。宇宙空間で艦船がゼノと遭遇した場合、大質量である船殻を小惑星と認識し突入してくるのでないかと考えられている。

外殻側面に6か所にある噴出口より中性子線を放射し方向転換する。またこの中性子線により接近するものを攻撃することもある。

生命活動が停止すると、高強度中性子線を周囲にまき散らす。死骸、残骸は残らない。

中性子星またはそれに類する星で進化した生物が進化の過程で外殻と宇宙空間における移動能力を得たものと考えられている。ゼノ本体は100万トンを超える質量を持つものの、体積は1立方ミリ以下であると推定されている。

重い元素を好む。色は青みがかった灰色で半透明。

なお、これらの特性の多くはこの時点では明らかではない。


注3:バイオノイド

多数のアーセン人の生体情報を組み合わせて求められる機能に最適化された生体ロボット。環境の変化に対応するため個体の遺伝子バリエーションは非常に多く冗長性を持たせている。義務の遂行に対して強い条件付けがなされている。個体の寿命は130年ほどあるが、ほとんどの個体は義務の遂行に支障が出始める100歳ほどで自死を選ぶ。


注4:船殻

中性子過多の超高密度素材。唯一対消滅により破壊出来る。船殻を有する艦船が対消滅以外で撃破されるのは、船殻同士のつなぎ目や外部との接続用に開けられた穴などに攻撃を受けた場合だけである。超質量のため、船殻を有する艦船は、質量の影響を受けない重力スラスターを用い航行する。

形成後の工作がほぼ不可能なため、外部との連絡用のスリットなどをあらかじめ想定し組み込んだ上、特殊工場内で超高温、超高圧下で形成。アギラカナ並の大型艦であっても厚さは数ミリに満たない。


注5:アーセン憲章

アーセン連合王国における最高法規。アーセン人に対する絶対服従、生殖能力を持たせないなどバイオノイドに厳しい制約を設けており、アギラカナの管理AIであるコアはアーセン憲章に則ってアギラカナを管理している。憲章の書き換えはアーセン人のみ可能。


注6:

ここから本編『宇宙船をもらった男、もらったのは星だった!?』https://kakuyomu.jp/works/1177354054897022641 が始まります。本編未読の方はよろしくお願いします。



[あとがき]

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よろしくお願いします。

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