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目を開くと、周囲は明るかった。聞き馴染みのある看護師の足音が実感を伴って私の耳に届く。酷く疲れが残ったままだが、私は眠っていたらしい。隣のベッドに横たわる老人は、相変わらず目と口をぴっちり閉じて横たわったままだった。看護師や医者に話して、それを鼻で笑われてから、私は今まで誰にも話してこなかった。だからこれを病院外の人間に話すのはお前が初めてなのだ。妻や友人、そしてお前らにこれまで一度も話してこなかったのは、私の生きる大切な日常が、奴らに模倣、侵蝕されたくなかったからだ。あの頃のような体力はもはや私に残っていない。次にあれに出会ったとき、私は狂気に飲まれながら息絶えるだろう。それに私の体には未だにそれが居座っている。あの日から夜が静かな黒に見えることは無く、常にあれの跳ねる音が遠くで響いている。これはお前への嘆願であり、同時に警告だ。あれはまだ、あの病院で患者に紛れている。躯のやどかりが、まだ生きているのだ。
やどかり 手帳溶解 @tatarimizu
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