第2話 初自宅訪問と看病
「ゴホッゴホッ⋯⋯」
夜景高校の天使こと甘咲汐夏となんやかんやあった翌日、俺こと新園藍人は昨日の熱がぶり返してしまっていた。
ちなみに、俺は訳あって一人暮らしをしていて、今俺が住んでいる家と実家はかなり離れているので、家族が見舞いに来てくれる可能性は低い。
「あー、クソっ頭痛が痛い⋯⋯ついでに喉も痛いし吐き気する⋯⋯」
男が一人暮らしをしている家に薬なんてものがある訳もなく、しかし買いに行く気力もないのでどうしようもなくベッドに横になっていた。
ついでに朝ごはんと昼ごはんを食べていないのでめちゃくちゃ腹が減っている。
『大丈夫か?お見舞い行こうか?』
凪葉からそんな連絡が来たが、申し訳なくて断ってしまった。
(薬、買ってきて貰えばよかったな⋯⋯)
ピンポーン
そう、藍人が少し後悔していた時、突然家のインターホンがなった。
(なんだ?宅配か?⋯⋯めんどいし居留守使うか)
そう考え、目を閉じたが⋯⋯
ピンポーン
またインターホンがなった。
どうやら宅配ではないようだ。
(誰だ?⋯⋯凪葉が来てくれたのかな)
断りはしたが、もしかしたら凪葉が心配して来てくれたのかもしれないと思い、なんとか玄関まで行き、ドアを開けた。
しかし、予想に反してそこにいたのは、
「新園くん、大丈夫ですか?」
夜景高校の天使こと甘咲汐夏だった。
「⋯⋯は?な、なんで甘咲がここに?」
「偶然新園くんが風邪でお休みになったということを知って、もしかしたら私のせいであんまり休めなかったからじゃないかなぁと思いまして⋯⋯屋敷田先生に家を聞いて看病しに来ました!」
「あ、大丈夫です」
「ではお邪魔しまえぇ!?」
男の凪葉ならともかく、女子⋯⋯しかも人間離れした可愛さを持つ甘咲に看病してもらうのは、いろいろと問題があり全力で遠慮したい。
「な、なんでですか!?」
「なんでもなにも、お前自分の性別と俺の性別分かって言ってるのか?」
「私は女の子で新園くんは男の子ですよね?」
「そうだ。 だったらもう、分かるよな?」
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯?」
「あ、これもしかして分かってないやつ!?」
「す、すみません」
甘咲は長いこと考えていたが、結局分からなかったようで?マークを顔に浮かべて首を傾げた。
「まじか〜、分からないか〜⋯⋯というかなんで屋敷田先生俺の個人情報普通に渡しちゃってんの?」
「なんかニヤニヤしていましたが⋯⋯快く教えてくださいましたよ?」
「それ絶対誤解されてるやつじゃねぇか!⋯⋯っと」
「だ、大丈夫ですか!?」
「ああ、大丈夫大丈夫、少しよろけただけだ、ありがとな」
屋敷田先生になにか誤解されていそうで、なんて言おうか考えていたところ、驚きでしばらく忘れていたが、急に頭痛と倦怠感が襲ってきてよろけてしまって、倒れそうになったところで甘咲に腕を引っ張られてギリギリで元の体勢に戻った。
「やっぱり今の状態の新園くんを1人にする訳にはいきません、看病させてください」
「いや、ほんと大丈夫だから⋯⋯」
「ダメです、このまま何もせず帰るのは私が私を許せません」
「いやほんと⋯⋯いや、もういいや、じゃあお願いしようかな」
「はい、お任せ下さい!」
断る気力も無くなってしまったので、結局甘咲に看病をしてもらうことになってしまった。
甘咲は看病をしていいと言ったところ、ものすごくいい笑顔で返事をしてくれた。
「⋯⋯では、私はご飯を作ってきますので、出来るまで寝ていてくださいね」
甘咲は、家から薬と氷枕、スポーツドリンクを持ってきてくれたようで、俺が薬を飲み、氷枕を枕にしてベッドに横になったのを確認してから、ご飯を作るべくキッチンに向かった。
「学校の連中には絶対バレないようにしないとな⋯⋯絶対面倒なことになる」
甘咲に看病してもらうなど、夜景高校の生徒の誰かに知られてしまったら大変なことになってしまうだろう。
俺はなるべく平穏な学校生活を送りたいのだ。
こんなこと、絶対にバレる訳にはいかない。
「まぁ、後で考えればいいか⋯⋯」
なんだか考えるのが面倒になったので、後は未来の自分に任せて目を閉じた。
◆◆◆
「⋯⋯あ、おはようございます新園くん。 体調はどうですか?」
目を開けると、甘咲がベッドの横にイスを持ってきてそれに座って俺の顔を見つめていた。
「おはよう、さっきよりはマシになったけどまだ少し頭が痛いかな⋯⋯というか今何時だ?」
「6時30分ですね」
甘咲が家に来たのは3時半だったので、3時間ほど寝ていたようだ。
「まじか、途中で起こしてくれてよかったのに⋯⋯というかもう看病とかいいから早く帰ってくれ、もう暗くなり始める時間だし、なんなら送るぞ」
日が落ちるのが遅くなってくる時期とはいえ、もうだいぶ暗くなってしまっているので、女性である甘咲はもう帰したほうがいいだろう。
「新園くんは病人なんだから寝ていてください
よ⋯⋯弟が迎えに来てくれるそうなので、弟から連絡が来るまでここにいてもいいですか?」
「そういうことなら、もちろんいてくれて大丈夫だ」
「ありがとうございます、それより食欲はありますか?」
「ああ、食欲はあるぞ、というか今めっちゃ腹減ってるから早く食べたい」
「分かりました、では温めてから直ぐに持ってきますね」
「ありがとう」
それから、甘咲は10分ほどで温め直したのであろう、湯気の立っている器を持ってきた。
「卵がゆにしたのですが⋯⋯大丈夫ですか?」
「全然大丈夫だ、ありがとう」
甘咲が持ってきた卵がゆは、上に梅干しが乗っており、とても美味しそうだ。
「では、口開けてください。 はいあーん」
「いや、やらせねぇよ?」
凄いナチュラルにあーんをしようとさせてくる甘咲を手で抑えて止める。
「なんで止めるのですか!」
「逆になんで止めないと思った!?」
「ほら、新園くんはおとなしく私にあーんされてください」
「無視しないでいただいていいですかね!?」
「いやです」
「いやです!?」
「はい、あーん」
「えぇー⋯⋯あ、あーん」
まったく折れる気のない甘咲を見て俺が折れ、結局受け入れてしまった。
というか前から思っていたが甘咲めちゃくちゃ強引だな⋯⋯
「どうですか?」
「すごく美味しいよ」
「良かったです」
甘咲は、俺が感想を言う前は少し不安そうな顔をしていたが、素直に美味しかったと伝えると、安心したように柔らかい笑みを浮かべた。
「それでは、まだまだあるのでどんどん食べてください」
「⋯⋯全部このまま食べるのか?」
「そうですが?」
「何を当たり前のことを言っているんだみたいな顔しないでもらっていいですかね?」
「ほら、早く次食べてください」
「都合悪くなったら無視するのやめてください!?」
結局、あーんは最後までやめてくれなかった。
「それでは、ご飯も食べ終わったことでし寝てください、良くなりませんよ?⋯⋯そうだ、頭をよしよししてあげましょうか?」
「いや大丈夫です」
「よしよし」
「マッジで話聞かねぇなおい!」
眠たくなかったため甘咲と話していると、15分ほどで甘咲の弟が着いたという連絡が来たようだ。
ちなみに、甘咲があまりにニコニコしていたため、頭を撫でられるのは継続されていた。
「この度は、うちの姉さんを預かって頂きありがとうございます。 僕は
甘咲の弟⋯⋯夢良は、甘咲に似て男とは思えないほど可愛いよりの顔をしており、甘咲から弟と言われなければ女の子だと勘違いしてそうだ。
「いや、甘咲⋯⋯汐夏には看病してもらったし、お礼を言われるようなことは⋯⋯」
「大丈夫って言ったのに話を聞かず無理やり看病した、の間違いでは?」
「うっ⋯⋯」
夢良の鋭い言葉に甘咲はバツが悪そうな顔をして顔をそらした。
「あはは⋯⋯」
「まったく、ほら姉さん、帰りますよ」
「うん、迎えに来てくれてありがと夢良」
「急な呼び出しには慣れていますので、男の人の家にいると言われたのは驚きましたが」
「うぅ⋯⋯」
かなり辛口だが、急に呼んだのにわざわざ来てくれるあたり、姉弟仲は良好なのだろう。
というか先ほど甘咲から夢良のことを聞いていたが、かなりのシスコンのようだ(甘咲も同じくらいブラコンっぽかったが)。
おそらく今は、俺が断っていたのを察した(または甘咲から聞いた)からか辛口だが。
「それでは失礼します、新園さん、ありがとうございました」
「気にするな」
「新園くん、また明日⋯⋯明日は休日か、また月曜日ね!」
「あぁ」
そう言って、甘咲と夢良は帰って行った。
帰っていくのを少し見ていたが、甘咲が余計なことを言ったらしく、夢良に怒られているのが見えた。
病弱天使は甘えたい 冬水葵 @aoi0208
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