幸せを編む僕ら

 お察しの通り、僕はソックヤーンが大好きだ。ザバザバ洗える丈夫な糸が好きなのだ。


 靴下だの腹巻だのネックウォーマーだの作っていると、「ちょこっと残りソックヤーン」がいっぱい出来る。それを玉巻き機でクルクルと巻いて小さな毛糸玉にして、沢山持っている。

 これは猫ベッドには使わない。細すぎるし、何より僕の宝物だからだ。猫ベッドは消耗品の位置づけなので、ソックヤーンは適さない。


 色とりどりのちょこっと残りソックヤーン。

 何に使おうかと考える。

 ハンドウォーマーやコースターなど、ちょこっとの糸で作れる作品も結構あるのだが、腕は二本しかないし、家族は私含めて二人しか居ない。友達だってそんなにいっぺんには来ない。


 単に作りたいだけで、「友達が来たら好きなの持って帰って貰う用」に編むこともあるが、アクリルたわしと違って好みが別れるし、押し付けるのも申し訳無い。悩むところだ。

 まあでもちっちゃくて可愛い毛糸玉がいっぱいあると気持ちは嬉しいから、いっぱい溜めている。


 自分用に作ってあんまり使わなかった作品なんかも解いて、ラーメンとなったそれにスチームをかけてからクルクル巻いてしまう。

 また小さな毛糸玉が増える。楽しい。


 ソックヤーンはカラフルなものが多い。編むだけで可愛い模様が出る様になってるので、色んな色が入っているのだ。

 パキッと色が変わるもの、グラデーションになっているもの、白っぽい糸に所々黒い染を入れることによってシマウマや牛みたいな模様が出るもの、色々ある。もちろん単色のもある。

 見ているだけでも楽しい。

 何より、ちょこっと残りソックヤーンには、それぞれに「作品を編んだ思い出」がある。


 この糸で初めて腹巻を編んだけど、あまりにお粗末な出来だったから直ぐに解いたなとか。

 この毛糸で夫とお揃いの靴下を編んだとか。

 この糸とこの糸で、友達にスヌードを編んだらとても喜んでくれたな、とか。


 今年はこのちょこっと残りソックヤーンを使って、幸せを編む事にした。


 ドミノ編み。

 正方形のモチーフを、延々と繋ぎながら編んでいく方法だ。

 今回、これを縦横十枚、百枚作ってブランケットを作る事にした。

 一枚の大きさは八センチ四方。仕上がりサイズは八十センチの正方形。の、予定は未定。

 使い切るのが目的ではないので、色々な糸を満遍なく散りばめる。色柄で遊ぶ。

 段染め毛糸の色が変わりそうだったら、同じ糸で続けて二枚編んでみたり。そういう感じで自由に作る。


 やってみると、これが楽しくてたまらない。

 オレンジの横にはカーキを置いてみようとか。青の横には黄色を、グレーの横にはピンクを置いてみようとか。


 一枚のモチーフの中で色が変わったり、模様が出たりもする。編んでみないとわからない。

 そろそろピンクが出てくるだろう! と思っても、予想が外れて、水色と紫のシマシマになったり。

 思い通りにいかないのも良いのだ。私が考えている様で、実の所デザインは糸が決めてくれる。


 百枚の思い出を編み繋ぎ、色とりどりの一枚の作品を作る。

 折角なので、ちょっとした願掛けをする事にした。百枚編んだら願いが叶う、かも知れない。ささやかな楽しみで丁度良い。


 今の所、三十枚くらいのモチーフを編んだ。

 残り七十枚くらい。

 気長に気長に、靴下やスヌード、他にもスカートなんかを編みながら、合間合間に息抜きのつもりで、ゆっくりと編み進めるのだ。


 僕は思い出を詰め込んで、長い月日をかけて、幸福を編んでいる。


 これからもずっと、楽しくワクワクと、真面目に。気長に。


 編み物は僕にとって生活の一部であり、かけがえのない癒しと喜びであり、そして何より、ふわふわで柔らかな幸せなのだ。



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編み道楽 靴下を何日もかけて編む僕らの幸せ 縦縞ヨリ @sayoritatejima

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