嘗て、吾輩は猫であった?

憑弥山イタク

嘗て、吾輩は猫であった?

 1杯の茶碗に、炊きたての白飯をつぐ。それだけでも十分に美味いが、私は白飯に鰹節をかぶせ、少しばかり醤油を垂らして食べるのが、子供の頃からこの上なく好きなのだ。私の好きな食べ方が、俗にねこまんまと呼ばれていると知ったのは、小学生の頃だった。

 ねこまんまが好きな私は、よく鰹節をねだって、食卓に白飯が置かれる日には毎度のようにねこまんまを作った。


「あんた、猫みたいなね」


 私は他人ひとから気分屋だと言われる。寝る時は、体を伸ばさず、ダンゴムシのように丸くなる。寒いのが苦手で、冬場は炬燵に籠る。そして、ねこまんまが好き。

 そんな私を見て、母が言った。

 どうやら私は、猫に似ているらしい。私自身はあまり自覚が無かったが、母の言うことは大抵が正しかった為、きっと私は本当に猫に似ているのだろう。

 とは言え私は、猫とは違って体が硬いし、運動神経もあまり良くはない。それに、鰹節こそ好きだが、魚は好きではない。魚の生臭さが、昔からどうにも苦手なのだ。


「昔、うちで飼いよった猫も、魚は食べんかったんよ。他の猫に比べたら運動神経も無かったし、ジャンプなんかも失敗しよった」


 嘗て、母は猫を飼っていた。私が生まれるよりも前の話になる。どうやら母に育てられた者同士、舌も運動神経も似てくるらしい。話を聞いただけだが、私は件の猫に妙な親近感を抱いた。


「もしかしたら、あの子の生まれ変わりやったりして」


 笑い話として流しながらも、私は少し疑った。嘗て母に飼われていた猫が、死後、母の真の子供となりたく転生を果たした。その姿こそ私なのではないのか。無論、前世の記憶など私には無いし、輪廻転生という言葉を信じるつもりはない。

 ただ今回ばかりは、この時ばかりは、母の戯言にも聞き耳を立てた。

 とは言え転生の話など信じるはずもなく、私は少し多めに、ねこまんまを1口含んだ。

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