ファスナーおろして
オカン🐷
ちょっと刺激が強かったかしら
「お母さん、マーくんに昨日、何を言ったの?」
「昨日? 何か言ったかしら」
「夜泣きして大変だったんだから」
大変だったって、あなたの子どもでしょ。
夜中にトイレに起こされることもなくて、久々にゆっくりと眠れたわ。
娘の由莉耶が結婚してしばらくは賃貸マンションで暮らしていたのだけど、由莉耶の祖母が亡くなり空いた離れに目をつけた。
こういうときの由莉耶の行動は素早かった。
真理子が承諾した覚えもないのにバタバタと荷物が運び込まれた。
最初のうちは雅裕のお弁当も早起きして作っていたのに、一度寝坊して、「お母さん、お願い。何でもいいからお弁当を詰めて」と頼まれた。
一度やると、二度、三度と、やがてやるのが当たり前のようになっていった。
幼稚園の送り迎えも。
幼稚園の年長さんになって少し生意気になった雅裕。
縦割り保育の幼稚園で、年長さんが年中、年少さんの面倒をみる。
あれだけ、ばあば、ばあばと真理子にまとわりついていたのに。
「もう、ばあばとはいっしょにねんねしない」
「あら、よかった。トイレも一人で行けるのね」
「ぼく、ひとりでトイレいけるもん」
帰りの遅い両親を待たずに夕飯を食べ終えた雅裕。
「ばあば、なにやっているの?」
「何って、お風呂に入るからお洋服脱いでいるの。ちょっとマーくん、後ろのファスナーおろしてくれない」
「えっ、ばあば、かわをぬいじゃうの?」
「そうよ。まーくんは皮を脱がないの?」
「ぬがない、ぬがない」
最初は手を振りながら笑って言っていた雅裕だったが、正面を向いてファスナーを下ろした途端、驚愕の表情に変わった。
真理子は頸椎の手術をして首の後ろに手術痕の縫い目がある。
それは一定間隔の縫い目で、まるでファスナーのようだ。
壊れた洗濯ネットの摘まみ部分を外して、その傷跡の縫い目の先端に両面テープで張り付けた。
摘まみの絵をタトゥーで入れている人もいるけど、MRIが撮れなくなるのはごめんだわ。
それこそ洗濯ネットのファスナーを背中の後ろに隠してファスナーを開ける音をたてただけなのだが、子どもの想像力は豊かで恐ろしい。
真理子は地球外生命体の宇宙人にされてしまった。
【了】
ファスナーおろして オカン🐷 @magarikado
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