第10話 理想の女性。
21XX年、百年前より人口は減少したが、犯罪の件数は減少して無い。
日銀は紙幣の発行を止めて、個人の財産はポイントスマホで管理するジャパンポイント制に移行した。
ポイント制の利点は取引の全てが日銀に管理されて、政治家の汚職問題、裏金問題や隠し財産が出来なくなった。
ポイントがチャージされてないポイホでは防犯のコンビニやスーパーい入店出来ず、もし誰かの後に付いて入店してもロボット店員には強盗も出来ず、お弁当やお菓子の万引き位の軽犯罪で終るが、全てを防犯カメラで記録され顔認証と行動追跡機能から一時間以内に身柄確保逮捕された。
検察や弁護士も暇ではなく、今から半世紀前に、過去の判例を全てインプットされたAI判事の裁判が開始された。
膨大な資料をコンマ一秒で照らし合わせて開廷から十分で判決を下す超合理主義。
勿論弁護士のAIも反論するが、法務省の裁判官AIは国が開発したスーパーAIで弁護士のAIPCでは演算処理能力では太刀打ち出来ない敗訴が繰り返した。その結果裁判所では検事、弁護士、判事が同スーパーAIの別セクターで処理された判決に納得した。
◇
◇
始業前の九時より少し前、仮事務所に戻った僕を中間管理職の男性職員が迎えてくれた。
「ご無事で何よりでした」
その言葉はいったい何を危惧していたのか、彼の不安を想像出来ないが。
「御心配を掛けました、今日から三日間の予定で職務完了したら一度本省に戻ります」
勤務地異動の辞令で有ったが、僕には明かせない特別の事情が有るみたいで『今回の任務終了で本省へ帰還せよ』と
指示された今回の任務会場、羽後の国旅館に到着して建物の立派さに驚いた。
今までの施設は廃業したビジネスホテルを改装したちょっとお洒落なシティホテル風のスイート・ルームだったが、今回の宿は立派な門構えから広い玄関の和風老舗旅館に思わず公務の僕でも恐縮する。
「厚労省から参りました担当の者です」
あえて此処では名乗らず用意された客室のカードキーを受け取り、『一人で大丈夫です』と客室へ向かうのも最低限の会話と人払いの意思を示した。
歴史的文化財と感じさせる太い柱と天井の梁、そんな木造建築の廊下を歩き、今回はいつもの展望最上階でない特別室の扉を開いた。
畳の和室と絨毯を敷いた洋間は二百年以上前の十九世紀前半の物だろう。
古いガラス窓は向こう側が歪んで見える明治か大正時代の板ガラスに違いない。
畳の和室で正座して両手の三つ指を付いて頭を下げる和装の女性を見て、宿の若女将と想像する僕へ顔を上げて、
「ようこそ、遠い所から態々有難う御座います」
それはまるで古風な日本の所作で、若女将のお持て成しの心と思い込んだ僕は、
「こちらこそ、お世話に成ります」
と改めて女性の容姿に注視した。
「今回の支援を依頼した松子です」
え、若女将と想像した和風美人が子作り希望とは、二度見すれば凄い美人でこの世の者と思えない程に白くて肌理が細かい肌は玉子の様な輪郭、大きな瞳と細い鼻筋に小さな口元、後髪を上げたウナジから首筋は白くて細長い、そして甘い香りが僕の思考を停止させる。それは男性を魅了する天女の様に気高く美しい。
男性の好みは人其々に違う十人十色と言われても、僕の前に居る松子さんは日本人男性の『理想の女性像』を否定出来ない。
以前より聞いていた『雪国は美人が多い』その噂は嘘ではなかった。
「貴方の御名前を頂けますか?」
先に名乗らせた依頼者の美しさに気後れした訳じゃないが、
「自分はチェリーと申します、宜しくお願いします」
本来の目的とお互いの立場を忘れた僕の返事に、
「宜しくお願いしたいのは私の方ですよ」
松子さんは上品な笑みを浮かべた。
「そ、そうですね、では順に説明を始めます」
いつもの様に同意と排卵を確認して、セルフか男女の直接性交を希望を尋ねる僕へ、
「手順は熟読しております、全てをお任せしますが、着替えたいので少しだけお待ち下さい」
着替えるって、洋服や和服でも脱ぐだけでしょう、と不思議に思う僕を残して、ふすまの奥へ消えた松子さんは数分後に、上げた後髪を解いて和装から白い浴衣に着替えた。
「その姿はいったい?」
僕の問いに、
「殿方と夜伽の白装束です」
人生経験の未熟な僕には夜伽も白装束も理解できなく、
「知識不足で申訳ありません、意味を教えてください」
中学生の頃に、国語の教師から『聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥』を教えられてからは知らない事はその場で訊くを肝に命じてきた。
「夜伽は男女の交わり、妻の白装束は旦那様の色に染まります決意です」
それは新婚初夜の儀式みたいな気構えなのか、僕は種を撒くだけで出産や育児に参加出来ない流浪人的な存在に、言葉に出来ない緊張と松子さんの天女みたいな美しさに気後れする。
「もしもチェリーさんが私の事をお気に召さないなら正直に言ってください」
気に召さないどころか冷静な行為が出来る自信すらない僕は、
「そんな事は無いです、職務に忠実に松子さんへ極力嫌悪を与えないように頑張ります」
後から思えば可笑しな日本語を話していても、その場では気付かなかった。
「もう一つだけお願いが有ります、私は男性経験が無くて、貴方を不快な気分にさせないかと不安でした」
「僕に任せてください、心配なく大丈夫です」
「それって、始めての女性を満足させた経験ですか?」
個人的な情報は何も言えないが、息を飲むような雪国美人が未経験とは人の縁は不思議なものと思う。
白装束の腰紐を解き、肩から滑り落とすと其処には新米を思わせる白い肌に当てた手が吸い付く様な餅肌の女性だった。
強く力を入れたら折れそうな細い首とくびれた腰、丁寧に解して松子さんと僕は一つに成った。
眉間に皺を寄せて痛みに耐える健気な表情に僕の高まりも最大限から数十秒で爆発した。
命の源が注ぎ込まれた松子さんの胎内に、
「お腹の中が温かいです、これが女性の喜びですね、あ、未だ離れないで下さい」
それは余韻を楽しむのか、確実な着床を求めるのか、僕には分からないが、松子さんは僕の背中に回した両手を離さない。
「大丈夫でしたか?」
「はい、想像したよりも痛くなかったです、このまま二回目は駄目ですか?」
それは僕の状態を感じ取った松子さんの誘いで、男として断る訳には行かない。
「はい、松子さんのご希望なら頑張ります」
二度目から三度目には破瓜の痛みに慣れてきたのか、松子さんの緊張は和らぎ喘ぎ声も大きく、身体の反応も良くなってきた。
「済みません、先に私だけ何度も逝って恥かしいです」
夜伽で恥らう北国美人は更に僕の男心を擽る。
今だけは職務を忘れて男女の営みに集中したい・・・
規定の二時間を超過しても気付かず、客室の内線から『延長しますか?』と訊かれ、横で頷く松子さんを見て『お願いします』と答えた。
行為後の説明もそこそこに、和風寝室の先に見えるテーブルとソファの洋間、その先には部屋つきの露天風呂は脈々と温泉が湯舟から溢れる。
「もう一つだけ、私にチェリーさんの背中を流させてください」
「それは・・・」
松子さんの申し出に躊躇う僕へ、
「私、幼い頃に父を無くして母の手で育ちました、男性の大きな背中と手が今でも好きで、きっとファザコンなんですね」
其処まで言われたら男として引くに引けない。
「松子さんのお気持ちは分かりました、いっその事、桧の湯船で混浴しますか?」
これは依頼女性へお持て成しと心からのサービスだ。
日本の未来、人口増加計画 鮎川 晴 @hotetu99370662
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