第9話 東北に滞在任務。

 今より百年近く前の二十一世紀中頃、祖父母と同居しない核家族化が進み、その子供が独立した後の夫婦は新婚時代のような二人きりの暮らしに戻る。

 独立した子供達に孫が産まれて祖父母に成る頃は人生百年の折り返しに入り、老後と呼ばれるのも遠くないと同時に夫婦は終活を意識し始める。

 共に健康な頃は旅行や趣味に没頭できるが、どちらかが体調を崩し介護生活に入ると老老介護の現実に直面し、精神的経済的な負担もあって、介護に疲れた高齢の妻が病の夫を殺害する、その逆も同じく、老老介護殺人と言われる悲劇が繰り返された。

 高齢化社会の日本に置いて、それは他人事でなく、国と自治体も対応に迫られた。

『人生頑張ってきたから老後こそ心豊かに過ごしたい』そんな思いから夫婦二人で暮らせる公的施設が開設された。

 過去には全国の郊外に乱立したショッピングモールが人口減少が理由で閉鎖された施設の再利用で、介護用品を含む暮らしに必要な商店と娯楽の映画を併設されて、マンションタイプの集合住宅に医師看護師も常駐する医療機関も備わった施設を終の棲家『楽園』と名付けられた。

 同世代の入居者とコミュニケーションを取りながら、多くの仲間と介護の悩みを共通する事で悲劇と呼ばれた介護殺人は起こらなくなった。それでも介護される高齢者より介護する職員ヘルパーが少なく、施設運営の労働者問題の対策にロボットヘルパーが導入された。

 自動で館内の清掃から、発注した商業施設から住居へ商品の配送、介護対象者へ食事の準備と配膳、人が出来る単純作業はロボットと呼ばれる人型機械が代行した。


 元々は雨風、天候の心配が無いショッピングモール、食事や娯楽施設も有り遠く離れて暮す子供や孫も遊びに来て、老いた両親の無事な顔に安心して帰宅できた。

 日本各地に残された空き施設の耐震性が百年で使用可能も、直ぐに運用できるはずも無く、その昔に保育所に入れない待機児童問題があった様に、終の棲家『楽園』に入居できない待機老人問題を解決できなかった。

 ◇

 ◇

 日本三大祭のねぶたを体験できるミュージアムで、その大きさと鮮やかさに感動して、次の任務場所のアップル・ホテルで翌日を備えた。


 元より飲酒喫煙もしない僕は早く寝て早く起きて、体調維持の為に朝食前のウォーキングなど摂生に努める。


 その日の午前中に二人目の依頼者の希望を伺いそれを叶えて次の任務へ、花笠祭りと芋煮が有名な地区で二日間の任務を終えた後に故郷の母へ駄々茶豆とサクランボ饅頭を送った。小説の舞台に成ったイーハトーブと庄内平野の任務後は、前沢牛と椀子蕎麦に満足した二日間もあっと言う間に過ぎた。

 忘れない内に母へカリントウ饅頭を送るのは、公務上の守秘義務で職種を明かせない僕の自己満足でしかないのは分かっている。


 今更に思うが東北は美しい女性が多くその人柄も優しい、若しも将来移住するならこの土地を候補に入れたいと思う。


 さぁ、最後の任務はナマハゲとキリタンポの街、仮事務所が有る県庁を出発して六日後、職場に戻る日が来た。

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