勧善犯罪
さくらつつじ
誘拐
誰かの正義が誰かにとっての悪となるなら
誰かの悪意が誰かにとっての善にだってなりえるのかもしれない
そうであってほしい
じゃないとこの世界は全て悪に染まってしまう
「なんの言い訳ですか?」
可愛くないガキだ
「まぁでも根っからの悪人ではなさそうで安心しました…」
ちょっと嬉しかった
『状況理解できてる?』
「はいできてますよ、アナタが私を誘拐してアナタの部屋で私を監禁してる」
「そして今、目的が私を傷付ける事ではない事がなんとなく解りました」
賢い子で良かった
「理由?…動機?聞いてもいいですか?」
『あぁ、良いよ』
再就職が上手くいかない事
貯金が底を尽きた事
偶然人気の無い家の近くで身なりの良さそうな女の子を見かけた事
身代金10万円くらいなら親も大事にしないですんなり払ってくれそうと思った事
一通りを目の前の子どもに話してみた
「はぁ…」
『…ナンダヨ』
なんか腹立つガキだな
「悪人ではなさそうですけど、頭は悪いみたいですね…」
デコピンくらいなら傷付ける内に入らないよな?
「そんな感じはしてましたが今時、金銭目的で子どもを誘拐なんて…」
マジで1発デコピンしよう
「また金額も10万て…情けない…」
よし2発や
「どうやってそのお金受け取ろうと思ってたんです?」
『…振り込み?』
「犯人特定に自ら協力するなんてアナタやっぱり良い人ですよ」
マジで可愛くねぇガキだな!
そりゃ咄嗟の蛮行だったから先の事なんてあんま考えてねぇしお先真っ暗だよ!
でも言い方とかあんだろ!
「まぁでも本当安心しました…怖かったのは本当です…」
…なにやってんだろうな本当
後先考えずこんなガキンチョ捕まえて
傷付けるつもりはないと思ってたのに、しっかり心を傷付けてしまってる
最低だ
「てっきり辱めを受けるものかと思ってたので…」
『しねぇよそんなこと』
「…しないんですか?」
『しねぇよ』
…なんだこいつ
「いやいや!しないならそれはそれで良いんですよ!いやでもそんなハッキリと言われると女として…ね?」
『女?』
『ガキだろ』
「はぁぁぁぁ!?!?!」
女(笑)が吠えた
「ちょっと失礼じゃないですか!?勝手に人を攫っといて、ガキなんて!!」
『いや失礼も何もお前幾つだよ?まだ小学生くらいじゃねぇか』
『世の中にはそういう変態もいるだろうが、そんな趣味はねぇよ、金銭目的だし』
「…10万円(笑)」
『うるせぇ!』
なんだこのクソガキは
達観したガキだとは思ったら、とんだマセガキじゃねぇか
「いいですか?主導権はこちらにあるんですよ。」
『なんのだよ』
「口を塞がれてないこの状況で私がとあるワードで叫ぼうものなら、アナタは身代金目的の誘拐犯から、マニア寄りの性犯罪者にジョブチェンジすることになるんですからね!」
『マジでやめろ!』
「でしたら誠心誠意悔い改めなさい!」
『マジで後悔してる…こんなバカガキ攫ってしまったこと…』
「そこじゃない!」
「あなたが加害者で私が被害者である限り、アナタの目的なんて誰にも聞き入れてもらえないんですからね!」
それはそう
このクソガキが言うように
自分はもう犯罪者でしかない
間違いは既に犯してしまってる
このアホガキが許してくれても、こいつの親が、世間が、法律が自分を許さない
「さっきからクソだのアホだの酷くないですか?」『心を読むな!』
もうこのガキをどうこうして何かをしようという気はない
さっさと解放して楽になろう
今となっては何故こんな愚行を犯したのかも自分でもわからない
少し前までは犯罪者の心理なんか微塵も理解できなかったけど
犯罪者側となった今、少し理解できたかもしれない
何かに追われ、咄嗟に足掻いた行動が悪い方向に転んだ
いや、言い訳だな。
「あのぉ…これからどうするんですか?」
アホ面がこちらを見ながら問う
『ん?あー…どうしようか…』
「お金が目的なんですよね?」
まぁ確かにそうだったが
今はもうどうでもいい
「誘拐されてる身でこういうこと言うのも何ですが、あまり期待できないと思いますよ?」
『…?別にもうその気は無いんだけど、お金に苦労してるような身なりじゃないだろ』
「いえお金はあります」
ちょいちょい腹立つなこいつ
「私の親が少し変わってるので…」
『反抗期か?』
「違えよ!」
子に関心が少ない親の話は聞いたことはあるが
こんな身なりの良いガキがネグレクトを受けてるとは到底思えない
まぁ多感な年頃のガキだ、反抗期くらい誰にでもある
それにもう金もどうでもいい
『そうか…大変だな、もう帰っていいぞ』
「はい?」
これ以上拘束しとく理由も無いしな
「いや聞かないんですか?私の親が何故変だとか?」
『まぁそういう時期は誰にでもあるから心配するな』
「だから反抗期じゃなくて!」
もう帰れよ
縛っていた縄を解いてやった
「…アナタはこれからどうするんですか?」
『なんでもいいだろ』
「まぁ確かに」
『悪かったよ…色々と』
「本当ですよ」
『…』
「でもまぁ…最初にアナタが言ってた、悪意が善だの善が悪意だの、なんか分かった気がします」
「アナタが私にしたことは絶対に許される事ではないですけど、結果的に私の悩みを一つ解決してくれましたからね」
何言ってんだこのガキは
「つまりアナタの悪行が私を救ってく
『やめろ』
聞くに耐えなかった
『お前はガキだけど賢い、だから自分が去った後にこの部屋で起こる事が予想できたんだろう』
「…なんの話ですかね」
惨めだ
『もういい、これ以上優しい言葉をかけようとするな、ガキの情けは大人にはキツい』
「ほんとに残念な頭ですね」
言い返す気力ももう無い
「別に犯罪者のアナタを助けようなんかしてませんよ、実際最初は怖かったですし」
『…』
「ただ私は私なりに悩みがあって、この一連の騒動でその悩みは本当にどうでもよくなりました」
「それはアナタのおかげでもあります」
「あまり自惚れないでください、アナタは所詮犯罪者です、私はアナタを助けようなんて思ってません」
「一生罪悪感に抱かれて生きてください」
「言い返す気力が無いようにしてますけど、言い返す言葉が無いだけでしょう」
ほんと
このガキの言葉は頭に響く
「わかりました?一生罪悪感に抱かれて生きてくださいね」
「また来ます、お金に困ってるようなので10万円は無いですけど…5万円置いていきますね」
「残りの5万円は次回ですね、これからしばらくは私の役に立ってもらいます」
「逃げるなよ」
少女は立ち去り
1人残った部屋で涙を流した
情報量が多い…(泣)
犯した罪は善行として処理された
勧善犯罪 さくらつつじ @na050409
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