修羅場転生★鶴亀合戦
深川我無
鶴亀合戦
その昔、この國には長寿を司る霊獣、鶴と亀がいた。
怪しい童歌や童話の中で、彼らは様々な活躍を見せている。
そんな彼らには、ある一つの共通がある。
これはそんな海と空を繋ぐ、縁の物語……
「絶対に開けてはなりませぬ……」
意味深な顔で白い衣の美女が言った。
負けじと緑の衣を纏った美女も言う。
「決して開いてはなりませぬ……」
白い衣の美女は襖の奥にスルリと隠れ、緑の衣の美女は漆塗りの黒い重箱を差し出し、はにかむように目を伏せた。
間に挟まれた俺は、静かに微笑み頭を下げる。
余裕の笑みの裏では、脇汗が留まることを知らない。
ヤバイヨヤバイヨ……‼
これ絶対開けちゃいけないツートップだよ……⁉
何を隠そうこの俺、浦島鶴太郎は、ここ掘れワンワンと鳴く犬と、舌を切られた雀、そしてうなぎを咥えた狐が桃太郎電鉄デコトラに轢かれそうになっているのを助けようとしてあえなく死んだ……と思ったら、こんな修羅場に放り込まれた転生者である。
天照大神は素戔嗚尊に馬糞を投げつけられて大発狂している最中で、邪魔くさそうに実に雑な転生を施された俺。なんでこんな目に……
とにかくここは前世の知識をフル活用してなんとか修羅場をくぐり抜けるしかない。
「さて……それでは某、ちと山に薪を取りに行ってこようかな〜」
適当な侍言葉で誤魔化しながら外に向かおうとすると、緑の衣の美女(十中八九亀だろ⁉)がすすす……と行く手を遮った。
「その必要はございません。薪なら一生分ご用意が済んでおりますゆえ……ほらあそこに見える小高い山。あれみーんな薪でございます。ふふふ」
やめろ! 余計なことすんな! 何だあの規格外の万亀山、じゃなかった、薪の山は……⁉
「そんなことより、鶴太郎……ちっ……浦島様には大事なようがおありじゃなくて?」
あからさまに鶴太郎名に舌打ちしやがったな……
さり気なく玉手箱こっちに寄せてんじゃねえよ⁉
なんで俺をジジイにしたいんだこの亀⁉ 乙姫何考えてんだ⁉
その時背後の襖の奥から何やら不気味な声が聞こえてきた。
「ああ……‼ ああん……‼ んっふぅうううう……‼」
いやいやいや……
逆に萎えるわ……
奥ゆかしさのかけらもねえ……
そんな俺のことなどお構いなしに、鶴女は変な声を出し続ける。
「もっとぉおおお! 押し開けてぇえええ! わらわの襖を乱暴にひらいてぇええん……!」
下品過ぎて泣ける……
なぜかそんな鶴女に脅威を感じたらしく、亀女は玉手箱を懐にいれて、谷間に挟んでみせた。
「鶴太……ちっ……! 浦島様だけは開けてもいいのよ?」
……もう嫌……誰か助けて(泣)
やがて訳のわからないお色気下品合戦も体力切れで幕を閉じ、ゼェゼェと息を切らし髪も着衣も乱れて、なんなら嘴が生えかけの怪鳥が襖の奥から姿を現し、やたらと扁平でうすっら緑になったカッパモドキが水をがぶ飲みする中、俺は三人分の夕食を用意している。
こんな生活がかれこれ三年続いている。
鶴亀石の上に三年なんて洒落にもならないが、二人ももしかすると、さっさと任務を終えて帰りたいだけなのかもしれない。
にらみ合いながら夕飯にがっつく二人の真意はわからんけど……
だれかこの珍獣を引き取ってください……
あるいは俺を月に連れ去ってください……
完
修羅場転生★鶴亀合戦 深川我無 @mumusha
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