第7話 大団円
被害者が死体で見つかったことで、実行犯は、その時点で終わりだったということになったのだ。
それこそ、真犯人の一つの作戦であった。
もっといえば、真犯人とすれば、
「財産が手に入ればそれに越したことはないが、それ以上に、捕まることが一番まずいことだ」
と思っていた。
だから、途中で、
「少しでも計画がずれると、自分が捕まることがないように、いかに逃れられるか?」
ということにシフトすると考えていた。
犯人にとっては、犯罪というものを、どこかゲームのように思っているところがあるといってもいいだろう。
実際に、事件は解決したのだが、警察が犯人に事情聴取をしていて、
「何だ、こいつは」
と思わせることがほとんどだった。
というのも、
「犯人の供述に、一貫性がない」
ということで、最初は、
「のらりくらりと警察をごまかすようにしている」
と考えて、
「なんて頭のいいやつなんだ」
と思ったのだ。
それだけ、計画された犯罪で、実行犯からは、
「この犯罪が、交換殺人で、完全犯罪だと説得されて、自分はこの道に入ってしまったのだ」
と答えていた。
それを聞いていたので、
「犯人は、相当に頭のいいやつだ」
という先入観が警察側にはあり、主犯を見る目が皆そういう目で見たのだった。
それなのに、実際にはつかみどころがなく、どう見ても、頭のいい犯人が計画したものではないということであった。
この事件で、犯人が捕まった。
犯罪計画通りに進んでいたのだが、それが簡単に露呈したのは、
「相手に、最初に犯行を犯させる」
ということが必須だということに終始しすぎて、どうやら、肝心なことを忘れてしまっていたことのようだ。
それは、
「犯罪計画が、徹頭徹尾でなければいけない」
ということだった。
当然、
「交換殺人」
というのは、
「完全犯罪を目指してやるものであり、その完全性というものが、徹頭徹尾で一貫性があることに終始する」
ということが当たり前とする考え方があったからこそ、島村が考えたことではなかったか?
しかし、果たしてこの計画が、
「島村が描いていた青写真と同じだったのかどうか」
あるいは、
「その計画がどこで狂ってしまった」
といえるのかどうかということが問題であった。
そういう意味で、
「共犯者が、どうである」
ということは、結果論からいえば、それほど問題ではなかった。
犯罪計画の最初のネックというものが、
「共犯にどのような人物を選ぶか?」
ということが大きな問題であったのだが、
「それに限らない」
というところが、主犯にとっては、大きな問題だった。
そもそも、島村はこの計画を、どこまで真剣に考えていたというのだろう。
切羽詰まっての犯行でなかったはずなのだから、逆にいえば、切羽詰まってしまうと余裕もなくなり、
「一度歯車が狂ってしまうと、最後まで狂ったままになる」
ということくらいは、分かり切っていることであろう。
だから、島村は、正直この計画の実行には、自信は持っていたが、最後まで躊躇していたのであった。
「完璧な計画を立てて、完璧に進めなければ、この計画はすべてが瓦解する」
ということは分かり切っていることであり、
「たしかに、途中まではうまくいっていたのにな」
と、主犯は、頭をもたげてしまった。
警察の取り調べで、口を開こうとしない主犯であったが、その事情が一気に変わったのが、
「河原で、一人の男性の殺害遺体が遺棄されていた」
ということからだった。
その死体は、すぐに身元が割れた。
犯人とすれば、その身元を隠そうとはしていなかったようで、ただ、
「すぐに見つかっては困るが、ある程度のところで見つからないと困る」
とは思っていたようで。そのタイミングとしては計画通りに見つかったのだ。
刑事は、取り調べ室でそのことを容疑者に告げる。容疑者は顔色一つ変えなかったが、そのかわり、その目はそれまでのうつろな目とは違い、覚悟の目が座っていたのであった。
「あの被害者は、島村というんだが、お前とは大学時代に同じサークルだったよな」
ということであった。
どこでどのように、実行犯が変わったのか分からない。島村と、友達である主犯は、その意見が最初とまるでたすきが掛かったように、意見が対角線となった。そう、それこそ、事件が、
「交換殺人である」
ということが分かったかのようにである。
それを引き継いだ形になった友達は、島村を殺害した。
それは、本人の意思によるものだったのかどうか、本人にしか分からないが、そのせいで、島村が考えていたことを、本当に実行しなければいけなくなった。そこで、きっと、考えに襷が掛かってしまったのだろう。
しかし、二人の考えが、
「限りなくゼロに近い」
ということで、
「無限である」
と考えた時、
「瓦解するに違いない」
と思ったが、もうやめるわけにはいかなくなったのだった。
それが本当の島村の意志だったのかどうか、結果が失敗となり、そのせいで、島村の本来の気持ちが永遠に封印されてしまったということから、
「やはり、完全犯罪などというのは、世の中から無限というものがなくならない以上、ありえないことだ」
と、島村はそう考えながら、死んでいったことであり、主犯も、今そのことに気づいてしまったということなのであろう。
( 完 )
無限であるがゆえの可能性 森本 晃次 @kakku
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