第6話 犯行実践

 まさか、大学を卒業して、自分が交換殺人を実践しようと思うとは思わなかった。

 サークル時代に考えたこととして、

「問題は、共犯者というか、自分と一緒に犯行に及ぶ片割れの選定が一番大切で、難しいことだ」

 ということであった。

 自分がいくらしっかりしていても、その相手が精神的に脆かったり、

「いくら途中までうまくいっていたとしても、急に我に返り、おじけづいてしまうというような気弱な人間」

 ということであれば、その時点で、

「犯行は瓦解している」

 といってもいいだろう。

 そこで考えたのが、

「その人にとって、殺したい相手がどういう人なのか?」

 ということである。

 というのは、動機という意味で、

「復讐」

 などという、自分の精神的に相手を殺さないと我慢できないということになるのか、あるいは、

「借金などで首が回らない」

 ということで、精神的に参ってしまうのは、実際に、自分がにっちもさっちもいかないという、

「どうしようもない立場に追い込まれている」

 ということで、

「絶対にその災難を除かなければ、自分が生きていくということが不可能だ」

 という、切羽詰まった事情の場合かによって、かなり変わってくるというものだ。

「どちらが、辛いのかというと、もちろん、感じ方は人それぞれ、その人でなければ分かるはずがない」

 ということで、何とも言えない状況ではないだろうか。

 それを考えると、彼が考えた結論としては、

「復讐などというものが犯行の動機」

 という人を選べばいいと思ったのだ。

 少なくとも、

「相手を殺さないと、自分が生きていくうえでどうしようもない」

 というような、

「切羽詰まった状況ではない」

 といえるのではないかと考えたからであった。

 特に、

「復讐」

 というものは、

「負の連鎖」

 というものを招くことになり、本来であれば、

「復讐もやむなし」

 と精神的に考えれば、

「それもありだ」

 と考えるが、これは、裏を返して冷静に、そして客観的に考えれば、

「必ずどこかで終わらせないといけない」

 ということになるのだ。

 これは、前述の、

「復讐の連鎖」

 というもので、

「復讐したい」

 と思っている相手にも。家族があったり、その人を、

「大切な人」

 と思っている人がいるだろう。

 もし、その人を殺してしまうと、今度は、その大切に思っている相手から恨まれないとも限らない。

 なぜなら、

「自分だって、同じようにい復讐しているではないか?」

 ということになるのだ。

 それは分かり切っていることのはずなのに、

「どうしても、殺さなければならないという精神状態に陥るというのは、どういう心境なのだろうか?」

 ということになる。

 もっとも、

「これが人間の心理」

 ということで、他の動物のように、

「生きるために、相手を殺す」

 という、

「食物連鎖」

 というものが、普通に自然界の中にあり、それが、

「自然界の摂理」

 ということになるのだから、それを、本能だということになれば、

「人間と動物の違い」

 というのは、

「人間は、生きるため以外でも、人を殺す」

 ということになるのだろう。

 それを考えれば、

 だから、彼は、入念に、

「復讐を企てている人を探した」

 これは、その人が、

「絶対に隠しておきたい」

 と思うことであり、普通であれば、なかなか見つかるという相手ではない。

 それでも、彼には、そんなに苦労なく見つけられた。

 それは、

「自分が、復讐を企てている人を重点的に探した」

 ということで、相手を見る時、最初に、

「この人は復讐を企てている人間だ」

 と最初から思い込んでいたからであった。

「この人は、復讐などする人ではない」

 ということを感じることはない。普通であれば、

「復讐自体がありえない」

 といったような、まわりを見る目が、

「平和ボケ」

 というか、そんなことを考えるだけ無駄だという考えは、ちょうど受験をした時に感じた。

「必要以上のことを考えて、神経をすり減らすことをしない」

 というのが、その人の生き方だと思うようになると、自然と、

「損得勘定」

 というものを抱くようになるのであった。

 それを思うと、

「負の連鎖に繋がるようなことは、なるべく考えない」

 と思うようになるのが人間というものだ。

 だから、最初から、

「負の連鎖を相手に課した形で見れば、減算法として、途中でゼロになる前にたどり着けば、そこがゴールだ」

 ということになるであろう。

 実際に、思っていた以上に、簡単に見つかった。

 しかも、相手も、

「交換殺人というものを持ち掛けると、簡単に乗ってくる」

 というではないか。

「復讐をしたい」

 という思いも強く、人を殺すというところまでは頭にはあったが、実際に行動するということは、躊躇があるというか、あり得ないと思っていたのだ。

 しかし、実際にその考えがあるわけなので、

「少しゆすってみれば、相手はコロッとこっちの術中にはまってしまう」

 というもので、話を持ち掛けると簡単に乗ってくるのであった。

「あまり簡単に乗ってくるのは、いざ犯行を行うとなると、右に行くのか左にいくのか分からずに、果たして、自分の思惑通りにいくのか?」

 ということになる。

 しかし、交換殺人というのは、他の犯罪と違い、共犯の男を最初から欺くという気持ちを持っていて、こっちの計画通りに進めば、これこそ完全犯罪だということになるのである。

 それは、

「相手に最初に実行犯にならしめる」

 ということであった。

「どんな理由があるにしても、犯罪が行われれば、実行犯である以上、逃れることはできない」

 ということである。

 だから、話を持ち掛ける時、

「完全犯罪」

 という言葉を何度も口にして。

「二人で行うのだから、これが完全犯罪だ」

 と思わせておいて、理屈として、

「どちらが最初に犯行を犯したとしても、結果は同じことだ。それよりも、お互いが、いかに関係のない存在であるかということが問題なだけで、お互いに、そのことに全神経を集中させれば、完全犯罪が成り立つ」

 ということを、

「洗脳してしまえば、勝ちなんだ」

 ということであった。

 これこそ、手品師が、

「右を見ろといえば、左に細工がある」

 というような、一種の、

「ブービートラップ」

 といってもいいだろう。

 それを、彼は行った。

「自分の殺したい相手は、財産を持っている。そして、共犯の最初の実行犯は、誰かに復讐をもくろんでいるという人間だった」

 ということである。

 共犯の人は、すぐに警察に捕まった。

 というのは、彼が実行犯として狙った相手は、

「自分が狙われる」

 ということを分かっていたのだ。

 というよりも、

「狙われることには狙われるだろうが、狙ってくる相手が誰なのか、少なからずの想像はついていたが、それがまったく想像もつかない相手だったということで、簡単に殺されてしまった」

 ということである。

 被害者は、主犯の男性について数人の当てがあり、実際に身の危険を感じていた。その中に主犯は確かにいたのだが、主犯は、その動きを掴んでいなかった。

 そう、死んでいった金持ちは、

「まさか自分がこんな形で殺されるとは思ってもみなかった」

 ということである。

 何しろ、財産目当てという人間が何人かいたからだ。

 その中には、島村を中心に、数人がいた。

 これは、犯人がもくろんだことであり、最初から、交換殺人を行う前に、

「数人が犯人であるかも知れない」

 ということを、被害者に植え付けていた。

 それは、犯人が、

「自分が助かりたい」

 という思いを抱いているということからきているわけではないということであった。

 そのあたりが、

「この事件は、単純な交換殺人ではない」

 ということだったのである。


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