終章(後編)「異常」
人間であるのにも関わらず、私は自分を人間だとは感じない。感情や思考など、全てにおいて人間離れしているように思え、それらを理解した上で日々を過ごしている。
過去も相まってだとは思うが、私が今年の冬から自分の中に人格が二人存在しており、二人の影響かは不明だが、昔よりも更に自分という存在が遠のいているように思える。今ではその出来事が嘘のように、殆ど人格は統一されて来ているものの、偶に、今の発言や考えは自分自身のものなのかわからなくなってしまう事が多々ある。解離性同一症(多重人格)の影響なのか、それとも違う疾患の影響なのかはわからないのだが、訳あって、全ての持病を放置している現在、今の状態を寛解と呼ぶべきなのか、それとも、私が気がついていないだけで、実は悪化していたりするのだろうか。どの疾患も、一般論で述べるものよりも比較的穏やかに進行しており、きっと、医学的に証明されていない部類に私は入るのでは無いかと思う。
多重人格の人は、頭の中で話し合うことが出来るとされているが、私の場合は誰一人とも会話が出来ず、一部の情報は共有出来たとしても、殆ど遮断されているので、交代しなくてもいい状況にはならないのが不便である。当事者誰もがやれる事は、眠ってその人格を呼び出せば交代出来るという不思議な仕組みを持っていて、しかし、眠るとは言っても、場合によれば失神や気絶に近いものであり、てんかんのような感覚に近い。そして、必ず頭痛を伴い、その人格によって体調面などが違うので、それらの負担を背負わなければならない。
さて、私の中の人格はどこに消えてしまったのか。
一人は早々に冬眠したとも言えるが、もう一人の若造はどこへ消えてしまったのだろう。二人して男であり、二人して少々厄介な性格をしている。もし、皆がこの二人と相手する際は、心身共に疲弊するに違いない。差が激しいと言うのか、この二人よりも、やはり私自身と相手した方が気軽だろう。この二人に名付けた親は、私の元恋人であり、二人は受け入れているのかわからないが、元となってしまった以上、私自身が名付け直すのもおかしいし、いつ確実に統一するかがわからないので、名前は一生変えられない。というか、確かに名付けないと区別がつかないのだが、こんな、言ってしまえば疾患の一つに過ぎない二人に名付けてしまって良かったのだろうか。取り敢えず、一番先に出てきた彼の前科は、私の中でより深く反省してくれと願うばかりである。真逆、彼が私自身の体を乗っ取る能力を持っていたとは知らず。それを先に知っておけば、今年の四月にOD(オーバードーズ)して入院する事にはならなかったのに。
〈異常-全話完結〉
異常 灯刳さん。 @lume_re2024
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