終章(前編)「異常」
私には、まともと呼べる親しい友人が居なかった。今思えば、当時は殆どの人が異常者だったのでは無いかと、過去を何度か振り返ればあの人もその人もおかしなところばかりだったと思ってしまう。中学生のうちは、まだ知識を身につけている最中だから、自分自身も気づかなかった事が大人になって知る事が多い筈だろう。
精神疾患という言葉を知ったのは、自分が当事者だった事に気づいてから存在を知った訳で、ダウン症なども違う分類だとしても、その一つに過ぎないのだとわかった。
当時の元親友は、知識を身につけた上で話すと統合失調症(旧名:精神分裂病)なのでは無いかと強く思う。その母親も様子がおかしかったので、親子して気が狂っていたに違いない。詳細を話すと、身震いが止まらないのと、所謂「人怖」に属してしまうのでここでは記さない事にする。あれは、解決したとは言い切れない。和解したとも言えない。ただ、私は美術部に所属していたのだが、その先生が私の耳元で放った一言が忘れられない。
「あの子、ちょっとおかしいよね。」
たったのこの一言で、私は、一生彼女を許すつもりは無いと決意した。
何故なら、彼女にとって私にした行動全て「無自覚」で「無意識」だから許せないのである。あの日、先生に間に入ってもらって話をしていたのだが、私は彼女の顔を見た瞬間からイライラが止まらず、私にした行為に対して「悪気はありません。」と言った言葉も、全部、自分がした事から逃げようとするあの感じに無性に腹が立っている。
正直、彼女を気絶するまで殴ってやりたかった。
その暴力を許して欲しかった。
この復讐が、大人になった今出来ないのは非常に残念な事であり、お陰で何度もその夢を見ては、夢の中で暴走が止まらない。
こんな考えをしたくは無かったが、以下、私の推測と被害妄想を語らせて欲しい。
彼女は「幽霊が見える」と言って、私に近寄って来た。そもそも、彼女は違う部活に所属しているのと、最初は違うクラスの子として接していたのだが、私と同じクラスで、その子も元親友と同じ部活だった時は、当然ながら話が合って、その部活でよく話をしていたのは知っている。だが、急に彼女は私のところで部活をしたいと言い出し、そこから更に私と仲が深まっていった。あの時は、彼女の意思が変わったのと同時に、私は当然の意思だと思って受け入れてはいたが、同時期に、私はずっと苦しむ事になる集団からのいじめに耐えていたところだった。途中で、部活内でも私に対するいじめが発覚し、先生が十分に理解してくれた上で幽霊部員となった。それまでは、毎日楽しく部活をしていたので、自分に対するいじめが発覚した時からショックを受けていた。確か、その時から私は特別支援学級にいたから、そのせいで更にいじめの対象になったのだと思う。しかし、特別支援学級でもいじめの対象になっていた。だから、私には居場所がほとんど無かった。家に帰っても、夜になれば両親の喧嘩が待っているだろうし、学校にいても、私がそこにいるだけで笑われる。けれど、そんな中でも彼女は味方だったから、あの裏切り方は本当に許せないのである。彼女の場合、それは幻覚に過ぎないのである。オカルトで言うならば、霊感が強い人に分類されるのかも知れないが、ただ霊感があるだけでは事足りず、あの日、私の存在が見えていない素振りをして来たのが、本当にあれは異常だったと思う。前日まで、学校の最寄り駅前に集合して、一緒に通学していた仲だったのにも関わらず、彼女は携帯で「遅くなる。先行ってて。」とか「ごめん、今日は一緒に行かれない。」と、予め連絡してもいいのに、時間になっても来ず、私は仕方が無いので一人で学校に行った。正直、駅からでも少し距離があって、遅刻しそうになっていた。なのに、彼女は私が見えていないのか、挨拶すらも無く、もう一人の親友が異常に気がついたのが事の発端である。更に気がついたのは、彼女は途中から、私とでは無く違う女子と仲良くなっていた事。私に一言も伝えず、彼女の気分はすぐに変わっていたことに、もっと衝撃を受けてしまった。きっと、その日からだろう。私の感覚が麻痺するようになったのは。毎日のように怒りが込み上げてきて、学校に対する拒絶反応も起きていて、家でも虚無感に襲われていて。どこに発散していいかわからないこの感情を、自分の胸にしまっておく事しか出来なかった。そして、後に、支援学級の方の担任から呼び出されて、彼女が行った事に関して事実かどうかを訊いてきた。彼女は、私の下駄箱に手紙を置いていたそうだ。しかし、この学校の規則では、下駄箱に何も置いてはいけない決まりがあり、先生がすぐに回収したそうだ。その内容を聞いた時、私の頭の中は困惑で埋め尽くされていた。まず、書かれている内容が全て偽りだったのである。私は訊かれた質問に対し、全てに「いいえ」と答えて、全てに置いて本当の事を話した。更に酷かったのは、一時期、カウンセリングの先生に相談を受けてもらっていたのだが、その先生が悪いと決めつけたような内容もあったらしく、私は、更に暴力を振るいたくなる衝動に駆られていた。そう、これらの彼女の言い分をまとめてしまえば、現実と妄想の区別がかなりついておらず、彼女の精神は更に異常を来していると判明したのである。その時に、彼女に病院に行くよう、私からも学校側も伝えれば良かったものの、生憎、この町には、否、当時は精神科という存在を皆知らなかった事に、今でも悔やんでいる。
それ以来、私は人間という存在を拒み、地雷となり、自分自身も異常者の一人になった。
だが、これらは全て現実で受けてきた痛みであり、ネットでの被害を含めれば、それは、裁判を起こしても過言では無いような内容ばかりで、人間の本性とその胸糞さを表した一つのエピソードに過ぎない。
「類は友を呼ぶ」という言葉を定義した人が、この現代に存在していたら死刑を言い渡す。
私に卑劣な行為をしてきた奴等に対しても、私という人格や認知を歪ませた奴等にも、彼らがした事をそのままそっくり返せたらいいものを。
死刑制度と無期懲役だけでは、この世の中は成り立たないだろう。復讐は何も生まないのでは無い。真実はいつも一つとは限らない。綺麗事を言っている人達と、今、私の人生を滅茶苦茶にして来た奴等が幸せを築いているのだと思うと、正直、戦争が一生無くならない理由がわかってしまう。犯罪を無くそうとするのは無理な話であって、私のように、復讐がいつまで経っても出来ないもどかしさを抱えている人達の機会を誰か与えてはくれないだろうか。
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