目標
(うぉぉぉお……失敗した……)
平原の中、エディスは歩く。
気分は更に沈み、内心では転げ回りたいほどだ。
平原であり人の目など欠片も無いが、それでも誰かに見られるかもしれない場所で転げまわる程心は疲れてはいない。
やろうと思えば魔法で結界を張り公共の場であっても何をしてもバレない状態に出来はするが。
これだけエディスの心が荒れているのは久方ぶりの同じ冒険者との会話のせいだ。
エディスは自分の会話能力は非常に低く、話すだけで相手に不快感を与えてしまうと思っている。
だからこそエディスは誰とも会話しないし出来ない。相手も自分も不快になるだけなのだから最初からしない方が賢いと思ってしまっている。
故に先程の会話で内心が荒れている。話し方は問題なかったか、言葉選びは編では無かったか。場に適した会話方だったか、等など。
(しかしあの人たち大丈夫かな、なんか倒れてたし……同じ冒険者だし死ぬことぐらい覚悟してるだろうけども)
エディスの脳裏に浮かぶのは倒れ伏していたジャックとカレンの仲間達。
顔を直視した訳ではない。倒れているところを見ただけ。だが善性のあるエディスは倒れていた二人を気にかけていた。
(まぁ心配してどうにかなる事じゃないけど。あの人たちもこれまで冒険したり依頼受けたり旅してるんだし問題ないでしょ)
ふと。エディスは自身の思考に興味を持った。
(──旅? 旅か。旅かぁ……)
少しばかり考えるのは急に返信が来なくなったチャット相手との会話。
とある事情で国を巡っていたという彼は旅の話もしていた。
星が降ると予言された大地の街の話。精霊が住まう湖の話。古代遺跡で戦う冒険者達の話──
思い起こされるのは彼の文才によって脳裏に浮かぶ未知の世界。
「旅か」
思わず口に出るほどにエディスの心境は変わっていく。
旅をするというのはどうだろうか、とエディスは考える。
悪くない。寧ろ非常にいい考えに思えた。
彼との会話を頼りにその会話先を探し出して旅をする──なんと心躍る事だろうかと考える。
勿論これが常人の思考でない事などわかっている。だがそれでも考えずにはいられない。
本の向こうの誰かとの会話の痕跡を思い出し、なぞる様に旅をする。
悪くない考えだと、エディスは久方ぶりに自画自賛した。
エディスが立ち去った平原で、ジャックとカレンは仲間たちにポーションをかけていた。
ポーションとは回復薬の総称であり、形状は様々だ。
固形の錠剤であったり粉薬であったり液体状や中には注射用の液体なんてものもある。これらは使用者、あるいは作成者の趣味によって形が変わる。
今ジャックとカレンが仲間にかけたのは液体型のポーションに成る。どんな形状のポーション──正確には
倒れた仲間、グレンとピリアの傷が治っていく。
使用したポーションによって二人の傷は完全に消え去り、重症など欠片も残らない。
「大丈夫か?」
ジャックが問いかければ、呻く様にグレンが答える。
「あぁ……大丈夫だ……すまない……」
「謝らなくていい、相手が悪すぎたんだ」
「しかし、あの人、凄かったわね」
傷が治り命の危機を脱した二人を観たカレンが呟いた。
「あの人、Cランクの人だからな。しかもソロ、弱い訳がない」
「にしたって強すぎる気もするけどね」
立ち上がり、傷が治った二人を観たジャックはぼやく。
「これ、あとでお礼しないとな」
「お礼って、何をするの?」
「……何がいいんだろ」
冒険者において横のつながりと言うのは大事だ。
パーティでも大規模な依頼時などは連携する事もあるし、ダンジョンなどで窮地に陥った際周囲のパーティと連携し勝利を収めるのもよくある事だ。
故に何かあったら礼をするというのは冒険者における礼儀と言える。
「相手がソロだからなぁ……無難に菓子折りか?」
冒険者間での相手へのお礼となると品を選ぶ。
職業に基づいて武具を渡すにしても相性があるし、無難な物となると一般的な代物、菓子などになってしまう。
普通ならば武具を渡す事も無いし菓子を渡すことも無い。
「普通に依頼の手助けとかでいいんじゃない?」
普通ならば冒険者間では以来の助力などで話を済ませることが多い。
だが相手がソロの冒険者であり他者とのかかわりを断っている存在である為に関わるという行為そのものを拒絶されるかもしれないとなると困って来る。
「ま、気長に考えるさ」
文通相手を探しに旅へ出よう @Revak
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。文通相手を探しに旅へ出ようの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます