転生したら最強賢人で王になった俺、いつのまにか明日をも支配していた件について〜逆転劇〜
解体業
第1話
目を覚ますと、俺は巨大な魔法陣の上に立っていた。真紅の絨毯が敷かれた広間の先には、シャンデリアが輝き、壁には金色の装飾が施されている。俺の手には重厚な杖が握らされており、その先端には光を放つ宝石が埋め込まれていた。
「賢人ケント様!」
頭を下げてひれ伏す銀髪の老人と貴族らしき派手な服を着ている奴ら。俺は状況を飲み込めず、驚きと困惑で口を開けてたまま立ち尽くした。銀髪の老人が頭を上げ、何かを俺に差し出した。それは、煌びやかで豪華な王冠だった。
「あなた様こそ、この国を救うために選ばれた知恵の賢者です。どうか我が国を正しい光の道へと導いてください!」
何を言っているのかさっぱりわからない。突然こんな意味不明なことを言うなんてこいつは頭がおかしいんじゃないか。まあ、気分は悪くない。
──確か、デスクに突っ伏して・・・・・・そのまま・・・・・・。
唐突に記憶が激しい頭痛と共に蘇ってきた。あの地獄のような職場で、連日の徹夜。残業代なんて夢物語の中、理不尽な上司に耐えながら仕事に追われ、食事も睡眠もまともに取れず・・・・・・結局、デスクの上でそのまま死んだんだってことか・・・・・・。
いや、夢である可能性もまだあるはずだ・・・・・・。そう自分に言い聞かせ、俺はおそるおそる自分の頬をつねった。
「っ!」
痛みが走った。思った以上に強くつねってしまったらしく、涙が目の中で少し滲んだ。
夢じゃないのか・・・・・・?ということは・・・・・・。
「これがいわゆる転生・・・・・・ってやつか?」
嘘みたいだが、これが現実らしい。
「ええ、私どもがあなた様をご召喚したのですとも!賢人ケント様!」
老人が勢いよく答える。どうやら俺の独り言は思ったよりも大きく、聞こえてしまっていたらしい。
「神託によれば、あなた様は我が国を救う唯一の存在であり、無限の知恵を持つと言われています!」
無限の知恵?俺が?
だが、現状を整理する暇もなく、老人は俺の手を引き、王冠を頭に乗せた。後ろを見ると玉座があった。
「この国の王として、どうか私たちをお導きください!」
いやいや待て。なんでこんな急に話が進むんだ?と思いつつも、派手な服を着た奴らは俺に向かって歓声を上げていた。
あまりに急展開で、拒否するタイミングを完全に逃した。そうして俺はこのよく分からない国の王をやることになった。
最初の数日は、周囲の期待に答えるべきか、これからこの国はどうなるのかを考えて、その不安で頭を悩ませていたが、次第に落ち着いてきた。次のことに気づいてしまったからだ。
何もしなくても、何とかなる。
たとえば洪水の危険があると報告されたとき、俺は「少し様子を見よう」とだけ答えた。特に深い考えがあったわけじゃない。ただ、面倒くさかっただけだ。
だが、翌日になると洪水の兆候はなくなって、被害を一切出さずに終わった。
「さすが王だ!落ち着いて状況を見極めた結果、被害を未然に防いだ!」 と、俺の側近たちが褒め称えてきた。
また、隣国の軍が動いているという報告があったときも、「そのうち収まるだろうから、明日考えよう」と軽く流した。すると、翌日その隣国が突然内乱に陥り、侵略の話は立ち消えになった。
「王の冷静沈着な判断が、敵国に動揺を与えたのです!」
周囲はまたしても俺を称賛する。
俺はただ思った通りのことを言っただけだ。それなのに、何もせずに評価だけが上がっていく。こんなに楽なことはない。かつて生きていたあの世界では、就活を始める時期が遅すぎたらしく、ブラック企業に入社するハメになった。そして、上司には評価されず、ついには命を落とした。しかし、そんなことはこの世界では起きない。あの世界は俺からすると異常に思える。
俺がやることは、玉座に座って威張るか、寝室で寝るか、美味い飯を食うことくらいだ。あとは、宰相の質問にいくつか答えるだけでいい。もちろん、頭なんかこれっぽっちも使わない。それでも誰も文句を言わないどころか、俺を「神のご加護を受けた王」と崇め奉った。
あるとき宰相がこう言ってきた。
「王が動かないのは、我々臣下に自立を促しているのだと理解しております。」
おいおい、勝手に深読みしてくれるのかよ。そう思いつつ、俺は何も言わずただゆっくりと頷いた。
税の徴収を先送りにしたときも、勝手に民間経済が活性化して財政が回復した。これまでの俺の人生では考えられないような成功の連続だ。
「やっぱり、俺の考え方は間違ってなかったんだ」
何もしないで、すべてを明日に回す。それで問題が解決するなら、それに越したことはない。
そんな平穏な毎日を過ごしていると、ある日突然それが起きた。
国中にこれまでにないほどの大雨が降り出し、洪水が各地で起きた。古くなったまま放置されていた堤防が決壊した。そして国土の半分が水没し、多くの農民が家を失った。
さらに、隣国が密かに軍の立て直しをしたらしく、この国への侵略を開始。国民は「なぜ王が何も対策を取らないのか」と噂し合い、やがてその怒りは反乱という形で爆発した。
宰相が俺の寝室に駆け込んできた。
「王よ!大変です!洪水で国土が失われ、隣国の軍が侵攻しています!さらに、農民による反乱が起きてしまっています!」
俺はベッドに横になったまま、軽くあしらうように手を振った。
「それも明日でいいだろう。」
宰相は驚きと怒りが入り混じった表情で叫んだ。
「反乱軍はもう、すぐそこまで迫ってきています!このままでは、あなたの命は明日にはなくなってしまいますよ!」
「心配ない。明日になれば何とかなるだろう。」
それを聞いて宰相は哀しげな顔をして俺に、自分はもう城から出るということを言ってきた。俺が頷くと彼は俺の部屋から去っていった。明日にまわすと俺が何度も言っているのにしつこく言ってくる奴なんていらない。いなくなって良かった。そう思った。
数分後、城の門は破られ、反乱軍の農民たちが農具を持たず押し寄せてきた。彼らの目は哀しみと怒りに満ちていたように思えた。
俺の寝室にも反乱軍の一人が踏み込んできた。泥にまみれた農民が、震える手で錆びた鎌を握り締めながら俺に問う。
「なぜ・・・・・・一体なぜこんなことになるまで放置して、私たちが愛していたこの国を破滅させたんだ!」
俺は眠たげな目を開け、反射的に答えた。
「質問も明日聞こう。今日は寝たい」
そう言うと、農民の目から涙が溢れた。そして彼は、震える声でこう言い放った。
「お前の明日は、もう来ない」
俺の頭上に農民の手に持っている鎌が振り下ろされた。
転生したら最強賢人で王になった俺、いつのまにか明日をも支配していた件について〜逆転劇〜 解体業 @381654729
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