第12話 番外編 カーテンが上がるとき

初夏はつかを聴く会にお集まりいただいてありがとうございます。

 最初に、軽くインタビューをさせてもらいまして、お楽しみはそのあとで。

 

 こんにちは、初夏です。デビューしてから間も無く半年を迎えますが、こうやってたくさんの皆さんが来てくださって、とても嬉しいです。


ー初夏さんといえば、ハスキーボイスでシャウトする姿が魅力的ですが、そのスタイルはずっと?


 えっと、アマチュアの頃は、ギターを弾きながら歌っていました。


ーアコースティックギターも相当上手かったと聞いています。


 今でも、曲作りのときはギターですし、ひとりで練習しているときにはよく弾いているんですよ。


ーライブでは弾かないんですか?


 私、不器用なんです。ギターがあって、歌があって、となると、それ以上のことが考えられなくなっちゃう。曲の本当のかたち、とか、お客さんのこととかが見えなくなってしまうので。


ー曲の本当のかたち。もう少し、話してくれますか?


 アマチュアでやっていた頃、一瞬デュオを組んだ相手がいて。その人は、自分の曲でも、私の曲でも、書いたときには意識にのぼってなかった部分っていうか、自分でも知らずに書いてた部分を掴みだしてくるのが天才的に上手かったんです。


ー刺激的なお相手ですね。


 それがわかったとき、私、打ちのめされちゃって、もう続けられなくなったんです。才能の差、みたいなものを突きつけられた気がして。


ーその方とは今も?


 いえ。私、逃げ出してしまったので。


ーそんなことがあったんですか。


 その人は、最後に本をくれたんです。自分が一番大切にしていて、何度も読んだ本だから、って。有名な劇作家がお書きになった青春小説で、演劇部の女子高生たちが、なんだろう、こう、覚醒していくようなお話なんですね。

 その中で、主人公が「私はいま、何か大事な話を聞いている……と思った。何が大事なのか分からないけど、とても大事なことを」って思うシーンがあるんです。私は、このお話を読みながら、全く同じことを思いました。


ー私はいま、何か大事なものを読んでいる、と?


 そう。この小説は私が今までに読んだことのないタイプのもので、正直、こうやって前向きに葛藤していく高校生の話なんて、苦手だったんです。なんていうかその、ずっと過去の出来事を反芻して、その中へ潜っていくことばかりやってきたので。


ー読み終わったら世界が変わった?


 いえ、そんな急には。でもここには、見たことも触れたこともない大事なものがある、それだけは直感したというか。それで、繰り返し繰り返し、読んだんです。本当に、擦り切れるくらい何度も。

 そうしているうちに、もう一度音楽に向き合ってみよう、と思えるようになって。


ーすごい体験ですね。


 演劇大会のシーンで、こんなセリフがあって。

「宇宙はどんどん広がっていく。だから、人間はいつも一人だ。

つながっていても、いつも一人だ」


ー暗記しているんですか。


 そうなんです。クライマックスの場面。

「みんな一緒でも……みんな一人だ」


ー一生のお友達ですね。


 うん…私、友達いないんですけど。あの人だけは、そうですね、友達に一番近いのかもしれませんね。


ーそれでは。お話はこのくらいにして、歌っていただきましょうか。

初夏さんの新曲、タイトルは「カーテンが上がるとき」です。


* * * * * * *


 彼女こそデビューして活躍するものと思っていたのに、いま、どうしているのだろう。どこかで、私の声を聴いてくれるだろうか、そうしたら、もう一度会えるのだろうか。

 初夏は、歌い始める。


<了>

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ターコイズブルーの罰 穂音いづみ @hononizumi

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