明日世界が終わるなら
@sabure2
第1話
今日は大きな彗星が見えるのだという。僕は山田さんの前に立つ緊張感を、そんなことを考えて紛らわしていた。僕の前に立って退屈そうに右斜め前を眺めているのは山田純さん。高校二年の女の子で僕のクラスメイトだ。僕は彼女にある誘いをかけるために体育館の裏に呼び出していたが、緊張してなかなか話を切り出せずにいた。そしてついに待つのにも飽きたのか山田さんが口を開いた。
「山﨑君、話って何かな。体育館裏なんて初めて呼び出されたよ。ひょっとして今からカツアゲでもされちゃう?」
山田さんの冗談に小粋な冗句で返せるような余裕は今の僕にはなかった。口の中はカラカラで舌が硬口蓋に張り付きそうだが何とか引き剥がして喋り始めた。
「山田さん、今晩、僕と………彗星を見に行ってくれませんか!!!」
「えっ…………」
勢い余って最後の方は叫んでるも同然だったせいか、山田さんが絶句している。何とか言い訳しようとあたふたしてるうちに山田さんが今度は笑い始めた。
「ぷっ、あはははははは!!山﨑君それ言うために呼び出したの?私告白とかされるんじゃないかと思ってちょっとドキドキだったよ!あーお腹痛い」
「ご、ごめんなさいそれはまだ先というか…じゃなくって!」
「ふふふ、いいよ。」
「へ?」
僕が間抜けな声を上げると山田さんはうっすらと微笑んで言った。
「彗星、見に行こっか」
「ほんとですか?!」
「七時に山の上の公園でいい?」
「はい!あの、ほんとにいいんですか?」
彼女は答えずに僕とすれ違うと、振り返って悪戯に笑った。
「私、意外性のある人嫌いじゃないの」
そして午後七時前、公園で僕は山田さんを待っていた。空を見上げると上り始めたばかりのオリオン座が東の空に光っていた。そして急に視界が真っ暗になって目元に暖かいものが当てられる。
「だーれだ!」
「え!や、山田さん!?」
急いで振り返ると彼女は唇を尖らせて抗議してきた。
「正解を言う前に振り返るのはルール違反だよ!」
「ご、ごめん。じゃなくてびっくりしたよ」
「あはは、ごめんね。一人で夜空を見上げてるのがあんまりにも絵になってたからイタズラしちゃった」
僕たちは軽口を叩きながら持ってきたビニールシートを広げて横になった。
「彗星はどこ?」
「西の空ですよ。ほらあそこ」
あそこ、と一際光る箒星を指差すと彼女の顔が輝いた。
「わぁ!綺麗に見えるわね」
「はい。周りが暗いので他の星もよく見えます」
しばらく二人でベテルギウスがどこでカストルとポルックスがどれでと言い合っていたがふと話が途切れた時、視線を感じて山田さんの方を見ると彼女もこちらを見ていた。僕は少しどきっとしたが僕がボロを出す前に彼女が話し始めた。
「山﨑君、彗星の尾って進行方向と関係ないって知ってる?」
「…え?そうなんですか?」
「うん、彗星の尾は必ず太陽と反対方向にできて、彗星の進行方向とは関係がない。つまりあの彗星は西に向かってるように見えるけど刻一刻と地球に向かって落ちてきてるのかもしれない。」
普通ならありえないと一笑に伏す話だろうが、山田さんの妙に真剣な顔に、僕は笑う気にならなかった。
「彗星が激突するのは明日。それから実は私は宇宙人で、彗星が激突して滅ぶ運命にある地球から、救う価値のある有能な人材を選んでる…って言ったら君は明日までどうする?」
あまりに突飛なことに声が出なかった。彼女の言うことを信じるか信じないか、でも一つだけ答えられることがあったからついポロリと言ってしまった。
「山田さんに告白します……あ!!」
「え?!ちょ、山﨑君それもう告白してるって!」
いつも飄々としている山田さんも流石に焦って二人でしばらくあわあわとした後、急におかしくなって二人で笑い合った。
『あはははははっ!』
「もー、山﨑君それはずるいよ!反則!」
「す、すみません。悔いを残さないようにしないとって思ったらつい」
「あはは、でもいいよ」
「え?」
言葉の意味がよくわからなくて彼女の顔を見ると意地悪そうな可愛い顔をしていた。
「付き合ってもいいよってこと!」
「ええ?!ど、どうしてですか??」
「え?嬉しくない?」
「そりゃ嬉しいですけど!自慢じゃないですけど僕冴えないですよ!?」
すると彼女はとっておきの秘密を打ち明けるように、僕の耳元でこう囁いた。
「私、意外性のある人は嫌いじゃないの」
明日世界が終わるなら @sabure2
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