夏の訪れと幼馴染と佐々木さん
雪野うさぎ
第1話 カフェテラスにて
「佐々木さんに告白しようと思う」
机の上にあった紅茶のコップから氷が解ける音がした。
「ふーん、したらいいんじゃない?」
俺の正面に座る女の子はこともなげに答えた。
「したらいいんじゃない!じゃなくてもっとこう応援したり止めたりあるだろ」
そう答えると彼女は鬱陶しそうな顔を一瞬したのち顔をほころばせた。
「本当に!脈ありだと思うから頑張って!大丈夫だよ!」
カラカラと紅茶をかき混ぜ肩肘を突きながら言ったが説得力がまるでない、他人事のようだ、いや他人事ではあるのだが。
「まぁそれでいいだろう…と言うわけでこより、佐々木さんにこの手紙を渡しておいてくれないか」
わきに置いてあったカバンから一通の手紙を机の上に取り出した。それを受け取った腐れ縁の幼馴染のこよりはより一層鬱陶しそうな顔をして紅茶の残りを飲み干した。
「めんどくさー、まぁ渡すだけならいいよ、頑張ってきな。」
こちらをにやりと見た後、こよりとカフェを後にした。
春の暖かさは鳴りを潜め、日差しが強くなってきた午後、校舎裏の木の下で待っているとその声は聞こえてきた。
「板垣くん…だっけ?遅くなってごめんなさい、要って何の話ですか?」
わが学校のプリンセスであり、ザ・高嶺の花こと佐々木さんはその誰しもを魅了する笑顔で現れた。一瞬にして顔が熱くなるがこれは日差しのせいだ、気合を入れるために一つ深呼吸を入れる。
「突然呼び出してごめん、いきなりだけど、俺と付き合ってください!!!」
敬礼をするかのように背筋を正して右手を前に差し出した。数秒の沈黙が流れた後に佐々木さんは答えた。
「板垣君ってC組の篠崎こよりちゃんと付き合ってるんじゃないっけ?浮気は感心しないなー」
「………え?」
予測していた返事から斜め上の回答が来て一瞬時が止まったように感じた、こちらを見る佐々木さんは慈愛に満ちた笑顔でこちらを見ている。
「俺がこよりと付き合ってる…?どこでそんな話が?」
「だっていつも一緒に居て仲良さそうにしてるじゃないですか、うちのクラスでも仲がよくて羨ましいっていろんな人が言ってたよ。」
俺は膝から崩れ落ちた、確かに小さなころから一緒にいるせいで割といつも二人で行動していて客観的に見ればそう見えるのは当たり前だった。
「こよりちゃん大事にしてくださいね、今回のことはごめんなさい、忘れてあげます。」
佐々木さんは笑顔でそう言い校舎裏から帰っていった。
「どう…してだ…」
振られたショックよりもこよりと付き合ってることにされていることにビックリしていた、だがその時改めて自分が外から見るとどう見えているか、ここに来た時の佐々木さんの慈愛に満ちた視線が何だったのか気づいた。
「で、どうだったのよ」
いつものカフェで紅茶を飲みながらこよりは言った、いつもより大量の氷を入れている、彼女は昔から飲料は冷たくないと許せないたちなのだ。
「どうしたもへちまも無い…振られたよ…しかもなぜかこよりと付き合ってると勘違いされてた…」
「そりゃあんた事あるごとに私のところにきてあれこれ言いに来るんだからはたから見たらそう見えてもおかしくないでしょ、客観的に見て妥当ってとこかしら」
「おかしい…俺は今頃佐々木さんとデートの予定だったのに…」
ため息をつきながらいつも飲んでいる紅茶を飲もうとするとこよりは言った。
「ねぇ、もうこの際私と付き合ったらいいんじゃない?」
彼女の目は窓の外にある散った桜の木を見ているようだが、俺の反応を一つも取りこぼさないかのようなオーラを感じる。
紅茶を噴出した。
「うわ!きたな!もー何なのよー!」
盛大にむせた、こより笑いながら正面を向き濡れた机を布巾で拭いた。
「いやお前いきなり言われたらそりゃびっくりするだろ、本気か?」
こよりの声に、なぜか胸が少しドキリとしていた。むせながらそう答えて正面を見ると机を吹いているこよりと視線が交わった、見慣れた彼女の眼の奥には俺が見たことが無い感情がある気がした。
「嘘に決まってるじゃない、振られてかわいそうだからフォローいれただけよ」
彼女はふと笑って、でも何処か不安そうに答えた。短い付き合いではない俺はそれを見逃しはしなかったが不安がどこから来るものかは分からなかった。
「そういうことか、びっくりした…こよりは可愛いんだからもっといい相手見つかるだろ、そんなことより明日どっか行こうぜ」
俺は軽く流して、笑顔を作った。こよりに気を使わせたくなかったから。でも何か大事なことに気づけていない気がしていた。
「はいはい振られたばかりの男の相手は面倒くさいわねぇ」
そう答える彼女の瞳には一人の男が映っていた、彼女の本心に気付くのはまだ少し先の話。
夏の訪れと幼馴染と佐々木さん 雪野うさぎ @natunokoori1123
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