第6話 やっと見つけた幸せ

「嫌じゃないなら、良かったよ」


 聞こえるか聞こえないかぐらいの小さな声で、アーザがもらす。

 彼も不安だったのだろうか。

 私が彼とは違う人種だから。


「嫌いになることなどありません。むしろもっと、アーザ様のこともこの国のことも知りたいと思っております。……そうですね、人間と獣人の国との架け橋となれるような」

「架け橋か。そういえば、君をここに嫁がせたいと躍起になっていたあの宰相も同じことを言っていたな」

「あー、そうですね。自分でもあの顔が思い浮かびましたよ」

「あははっはは。ルナ、君はすぐ顔に出るタイプなのだな」


 私の顔を見たアーザが、お腹を抱えながら笑い出す。

 ヤダ、私。もしかしてそんなに顔に出ていたの?


 悪い傾向だわ。いくらココはあの国とは違うとはいえ、この国の王妃となるのに。


「すみません。つい自国を出たことで、気が緩み過ぎてしまったようです」

「いや、いいさ。そのぐらい分かりやすい方が可愛げがある」

「うー」

「それにしてもずいぶんとあの宰相は君に嫌われたものだな」

「それは……性格に難があるからです」


「すべて私のために動いてくれたってことは、アーザ様を見た瞬間、何となく分かりました。ですが、なんていうかやり方が回りくどい上に、ちゃんと送り出してもくれなかったし」

「見送りはなしか」

「……はい」


 それも仕方のないことも分かってる。

 だって断罪された身だもの。

 公に見送りなんて出来ないって。


 でもこんな風に私のためにやってくれているのなら、もう少し……ちゃんとお別れがしたかった。

 私は最後まで、ランドに酷いコトしか言えなかったっていうのに。


「あの国も、今はとても大変らしい」

「へ? それはどういうことですか?」

「第一王子であったアイン殿が王位継承者から降ろされ、第二王子があとを継ぐらしい」

「アイン様が……降ろされた?」

「何でも今までの悪行が国王陛下の耳に入ったことと、君の父上である公爵と現宰相が第二王子の後ろについたらしい」


 ランドは初めからここまで計画していたのかしら。

 だから私が断罪されても、何も言わなかった。

 むしろ私が追い出されたことを好機として、第二王子をおした。


「なんだか……やっぱりランドの掌の上にいるようで腹が立ちますね」


「そうだな。ルナ、妃になった暁には無理難題を宰相に押し付けるといい」

「そうですね、そうします」


 そこまで言って、私はアーザを見た。

 すっかりもう、妃になるつもりで会話をしてしまっていたし。


 でもアーザの前ならば、素の自分でいられる。

 ココでなら、自分らしく自分の好きなことを表現できる。


 ランドには腹は立つけど、やっと私らしく生きられる場所を見つけられたのね。


「ふふふ」

「何がおかしい?」

「いえ? すっかり妃になる気になっている自分に、です」

「ははは、そうか。よろしく頼む、ルナ」

「はい、アーザ様」


 アーザの差し出した手を、私はしっかり握りしめた。


「あ、人の時は手は柔らかいのですね。でも爪の形はややドラゴンっぽい。ちなみにこのお姿の時って、鱗はどこにもない感じですか? あの、背中とかお腹とか、どこでもいいので触りたい……」

「変態だぁぁぁぁぁぁぁ‼」

「ち、ちがーーーうのです。純粋な好奇心です!」


 やや離れた位置で、ルストが変な顔をしていたが、もう気にしないでおこう。

 今が一番幸せだから。

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ハメられて追放された悪役令嬢らしいですが、爬虫類好きの私にはドラゴンだってサイコーです! 美杉。節約令嬢、書籍化進行中 @yy_misugi

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