第8話【主体思想三代国家滅亡】

~米中首脳会談~

「中国主席、アメリカ合衆国としては、北朝鮮には滅亡してもらうほかないと考えている。米韓両軍に加え日本・豪州・欧州各国などからも賛同を募り米韓両軍を軸に国連軍としての多国籍軍としたい。軍事的支援だけでなく軍事費の支援も募りたい。貴国に希望するのは、第二次朝鮮戦争に中立を守ること。党委員長の亡命を認めさせないこと。この二点だ。」


「我が国のメリットはどこにあるのか?」


「統一韓国にサードを配備しないことを約束しよう。それと、旧北朝鮮領内に多国籍軍常設基地を設けたいので貴国も参加されては如何か?」


「ふむ、まぁ貴国の言わんとしていること、その狙いもよくわかる。その場しのぎともとれる話だがアメリカの策にのって差し上げよう。但し、中立宣言をする以上一切の軍事的援助はしない。国連安保理決議で拒否権を行使しないことだけは約束しよう。」




密談は落ち着いた雰囲気で淡々と進んだ。そして、中国主席は、帰国した。


「米国大統領は、米ソ冷戦のような、戦わない軍拡を望んでいるようだ。中・米・ロまるで三国志だな。この三国の鼎立が守らるのなら、我が国は来たる将来、最強の軍事力を手にするだろう。今はあちらに花を持たせてやればいい。」帰国の最中に主席は側近にそう呟いた。それから、年が明けて、日本では正月を迎えていた。


『あけましておめでとうございます』という言葉はこの年では姿を消えた。正月番組は無くなり、連日のように朝鮮半島情勢を報道する番組で溢れた。国民の大半は分析ばかりで実情を伝えることのないこれらの報道に飽き飽きしていた。フィクション作家からの流布報道も鳴りを潜めた。屈服したわけではない。情報源が無くなったのだ。これにはさすがに作家先生方も悩んだ。インターネットの世界は、政府の規制により、一部の内容の検索ができない場合や、削除されていたこともあった。再び『暗黙の言論統制法』が今度は国民の知る権利に及んだのである。そのような中、政府、与党による『国防有事特例法』法案が国会に提出される。米国大統領の方針を踏まえ、公に自衛隊の集団的自衛権を認め、その範囲を大幅に拡大解釈させるのが、この法案の狙いである。これもまた数の力で押し切った。


国民主権どこ吹く風である。総理は独裁者になりたいわけではなかった。しかし、この難局を乗り切るには、井伊直弼の如き覚悟で、国難に立ち向かうつもりであった。しかし、当然のことながら幕末と現代では状況も政治の制度も何もかも殆んど違うのである。それらを承知で『暗黙の言論統制法』を制定し、『国防有事特例法』を通した。その判断をすることに関して総理に悔いはなかった。


「私のやったことを裁くのは私ではない。他ならぬ国民だ。私は己の政治信念に基づき、これからの自衛隊のありようを示したのだ。やり方が強引過ぎた。これもまた国民の審判によって裁かれるだろう。しかし、今は、この道しかない。」


総理は己をそう鼓舞した。1月も半ばに差し掛かるころ、米韓両軍はミサイル発射拠点の攻撃に力を注いでいた。軍事衛星で確認できる拠点はほぼ無力化したが、殲滅戦の末、多大な戦死者をだした。ここにきて、ようやく平壌が陥落したが、党委員長を含め、生存者は平壌から撤退していた。この後、党委員長と一部の高級幹部の行方は不明となり、米韓両軍の疲弊もあって、戦力の立て直しが図られることとなった。時を同じくして、ロシアが第二次朝鮮戦争に関して中立を宣言した。


「我々は、この戦争に関して中立であることを宣言する。」ロシアの中立宣言の後、国連安全保障理事会が開かれた。




「米韓両軍による多国籍軍を国連軍として各国に認めてもらいたい。」その発言に対し、拒否権を行使する常任理事国はなかった。拒否権は行使しなかったが中国は参戦・中立に関して不鮮明な態度をとった。


(中国主席は、中立宣言には、時期尚早と判断したか)」結果として、米韓両軍による国連軍が北朝鮮を制圧することを目的として作戦は再開した。この時点で既に3月に差し掛かろうとしていた。米韓両軍は実際に北朝鮮軍に苦戦した。


それでも強行して攻め続けることをしなかったのは、『国連軍』という、日本風に言えば『錦の御旗』が欲しかったのである。このことにより、国際社会対北朝鮮という構図が出来上がった。(親北朝鮮国除く)ここで米国大統領は、北朝鮮国内の明日の食料も手に入れられるかわからない国民にアメリカが直接に食糧援助をした。北朝鮮国内は富裕層の高級幹部と貧困層の一般人とに分かれていた。経済封鎖により、食糧難となった北朝鮮軍は、一般兵士にまで食糧がいきわたらず、飢餓状態であった。当然の成り行きとして、脱走兵が現れだした。国連軍は捕虜としてジュネーブ条約に規定されたように北朝鮮兵士を取り扱った。




どんなに強力な武装をしていても、兵站をできず、食糧難になったら空腹には勝てないのである。国連軍の進軍に立ちはだかったのは、対人地雷であった。地雷撤去を行いつつ、戦闘と各地での捕虜の保護にあたるのだ。それは余りに多忙で、国連軍の兵士にも厭戦ムードが漂ってきた。


国連軍は順次後方部隊と交代しながら前線を維持し、士気の低下を防いでいた。そんな矢先のことである。中華人民共和国が中立を宣言したのである。




「我々は朝鮮半島情勢を踏まえ、国連軍及び北朝鮮軍双方に対して軍事的中立を宣言するものである。経済制裁は国連決議であるが中立宣言の対象外である。あくまでも軍事的中立である。何人たりとも朝鮮半島の国境を越えての入国を許さない。」




ロシアに続き頼みの中国にも見捨てられた形になってしまったのである。高級幹部達はここにきて慌てふためいた。


「党委員長不在の今、我々はどうすればよいか?」


「徹底抗戦しようにも、武器弾薬は底をつき一般兵士のいない今、我々にはなす術がない。」


「潔く、自決しよう。」


それから、数分後、


「主体思想の名のもとに!」


高級幹部達は、集団自決した。最高指導者不在の上、指揮官たちが各地で自決に及ぶ中で一般兵士たちが無理をして戦闘を続ける理由は無くなった。生き残った兵士たちは武器を放棄して投降した。高級幹部達は戦後処刑されるくらいなら自分で死ぬことを選んだ。北朝鮮の核科学技術者達の行方は不明だった。中立宣言をした中ロ両国のうち入国規制にまで言及したのは中国。ロシアはそこまで言及してはいない。或いは彼等はロシアへ逃れたのか?確かめるべき証拠もなかった。党委員長は一部の幹部と亡命を打診していたが、中・ロはこれを突っぱねた。党委員長はとうとう進退窮まった。




「ここまでよくついてきてくれた。私はここで自決する。お前たちも生き延びても処刑されるのが関の山だろう。ともに死のう。主体思想の名のもとに!」


「主体«チュチェ»思想の名のもとに!」


爆発音とともに、北朝鮮三代にわたって続いた世襲国家は名実ともに消滅した。降伏文書には、北朝鮮政府高官文官が調印した。こうして、第二次朝鮮戦争は終わりを告げた。朝鮮半島は統一され、正式に大韓民国となった。すべてがめでたし、めでたしとはいかないが、38度線は消えたのである。その偉業はたたえられた。

(つづく)


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分割版【匙は投げられた《第二次朝鮮動乱》】 どら焼きパンケーキ中佐 @kotobukinatsuodorayaki

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