第7話【諸外国の思惑・日本国内法改正(ささやかなマスメディアの抵抗)】

米国大統領はロ大統領と首脳会談に及んだ。

「ロ大統領、首脳会談承諾感謝する。」


「米大統領こちらこそ感謝する。」


少々堅苦しい雰囲気から始まった会談は、北朝鮮に対する経済制裁などお馴染みの議題について話し合った。そして、モスクワの某所で二人は、報道陣シャットアウトの密談に及んだ。


「我が国がクリミア半島問題について承認等は行わないが黙認という形で収めたい。シリアの問題もお互いの妥協点を考えたい。その代り北朝鮮党委員長の亡命を拒否し、この戦争に関して中立宣言をして欲しい。」


「クリミア半島黙認はありがたい話だ。ロシアとしては、韓国による統一の後、朝鮮半島で利用できる軍港が欲しい。」


「そこでだ、統一韓国に、在韓ロ軍を設けて在韓米軍とともに、中国に対して常に警戒をしてほしいのだ。」


「気持ちはわかる。しかし、中国まで中立宣言を引き出すのは難しいのではないか?」


「やってみる。ダメならほかの方策を練るさ。」


「同じような言い回しを中国でもするのだろう?わかるよ。我が国は、国益を損なわなければ別に構わない。健闘を祈るよ。」


「ありがとう。それから、これからの時代、核兵器は役に立たなくなる。早めに捨てたほうが正義になれる。それを伝えたかったのだ。では、また宜しく。」




米国大統領は忙しい。戦争の最中、今度は中国に向かおうとした。しかし、中国当局から安全を確保出来なかった旨の報告を受けたため、仕方なくアメリカへの帰路についた。中国主席は今のタイミングで交渉のテーブルにはつかないというメッセージを込めているかのようだった。一方、日本では、北朝鮮工作員とみられる人間たちがテロ等準備罪で逮捕された。党委員長の兄を殺害したといわれるVXガスなどを使用して、首都機能を麻痺させようとしていた容疑で逮捕された。この事件に国民は憤慨とともに恐怖も覚えた。ミサイルだけではないと。毒ガスサリン事件以来、日本人に刻まれたガス兵器への恐怖である。


国会にてスパイ防止法案が与党より提案された。野党は反対の姿勢を崩さなかったが、与党は先の選挙の大勝により数の力で押し切った。この法律の制定によって、長年続いたスパイたちの楽園日本はなくなった。連日のように国会前ではデモの嵐であったが、


「言わせておくのだ。ガス抜きがなければ、国民は不平不満をぶつける場所がなくなる。大事なのは、SNSの取り締まりだ。『暗黙の言論統制法』を駆使して徹底的に検挙しろ。」この頃から、どこに行くにもスマホばかり見ていた国民が、SNSを急速に控えるようになった。昨日までそばにいた友人知人達が突然逮捕・勾留されていくのである。


そして、憲法に定める言論の自由によって暗黙の言論統制法は違法であることを求めて訴訟へと発展した。最高裁までもつれたこの訴訟の判決は、国側の勝訴であった。裁判長は「SNSが犯罪の温床として存在することを鑑みて、テロ等の準備に使用される可能性を考慮したとしても違法とは言えない。」と判決を下した。一方で、「今回の有事に関しての暫定的な判決であり、事態の収束後、更なる法整備を急ぐ必要がある。」と補足した。少なくとも国民はこの戦争の間は相互フォロー監視社会に支配されることが決定したのである。


国民は時事ものフィクション小説へと逃げ込んだ。江戸幕府・元禄時代の『仮名手本忠臣蔵』の如く時代を変え今の時代の人物名をもじって週刊誌に掲載したのだ。


これが大ヒットした。政府もフィクション小説を取り締まることは出来なかった。


メディアは少なくともオフィシャルに出来ないことにフィクション作家を経て広く国民に流布させることに成功したのである。新聞社も必至である、政府広報の説明文を片隅に追いやり連日のように短編日替わり小説の掲載に踏み切った。ペンは剣より強くはなかったが折れはしなかったのである。


第二次大戦後の日本の言論の自由の逞しさが、第二次大戦中ではなし得なかったことを実現させた。政府に頭を下げて顔は横を向いているのである。そして、十二月に突入した。アメリカ合衆国では、中国に首脳会談を打診し続けていた。しかし、安全が確保できないの一点張りであった。ところが一転して、主席の方からホワイトハウスへ向かうと打診があり、急きょ米国で米中首脳会談が行われることとなった。アメリカ国内に厭戦ムードが高まってきた正にその時にである。


「主席め、こちらの痛いところを救うタイミングで訪米して恩を売る気だな。しかし、こちらも乗らない手はない。より良い条件を引き出したほうが勝ちだ。」


そして、十二月二十四日、クリスマス・イヴに中国主席が訪米した。


「メリークリスマス。ようこそ主席。」


「ハッピーホリデー。厚い歓迎感謝する」


アメリカ合衆国と中華人民共和国のトップを警護するのにアメリカは、それはそれでてんてこ舞いだった。そんな現場の苦労をよそに、米中首脳会談が非公式非公開で行われた。

(つづく)

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