第6話【米国大統領来日・内政干渉気味の発言】
それから時は過ぎ、米国大統領は訪日した。
「本日、米国大統領が首脳会談のため来日されました。一部の日程は公表されていませんが、広島・長崎への慰霊訪問をする方向で調整中との報道もはいっています。」
「そうか、大統領は広島・長崎の慰霊も行ってくれるのか。パフォーマンスを重んじるあの人らしいな。密談のほうは記録に一切残すな。料亭の方たちには緘口令をしけ。誰かに話せば機密漏示罪だと。録音・録画対策も怠るな。そして、警備の強化も忘れるな。我が国の命運を左右するこの会談を何としても成功させなければならない。緊張感をもって取り組んでくれ。」総理は固く命じた。
そして、宮中晩餐会等の一連の行事の後、広島・長崎を慰霊訪問した。
「これまで、ヒバクシャは、日本のヒロシマ・ナガサキの方達だった。しかし、我が国にもヒバクシャが出てしまった。我が国は第二の被爆国となった。もうこれ以上の核の愚を繰り返してはならない。繰り返させてはならない。我が国を含め、全ての核保有国の核兵器廃絶を願ってやまない。」
そう語った大統領のスピーチは称賛された。
そして、米国大統領と総理はとある料亭で密談に及んだ。
「総理、尖閣諸島問題を一度棚上げしてくれないか?」
「何故です?我が国の固有の領土ですよ?」
「尖閣諸島問題を棚上げするふりだけだよ。それによって中国にこの戦争における中立宣言をしてもらうのさ。」
「成程。しかし、中国は尖閣の領有権を主張しているうえに、固有の領土と主張しています。尖閣諸島は日本領です。日本が飲めない話です。」
米国大統領は総理を試した。本当に棚上げしてくれれば一番都合がいいからだ。中国の尖閣諸島実効支配を止める手段として考えていたが、総理はのらなかった。
「冗談だよ。話のきっかけさ。本気では無い。そこで私がきりだす、統一された朝鮮半島にはサードを配備しない、すでに配備されているものは、撤去・廃棄等にするとな。」
「それは、名案ですな。戦後の海洋進出を狙う中国にとって旧北朝鮮領にサードが配備されたら、喉に骨が刺されるようなものですからな。その案にはのってくるでしょう。」
「総理、君達日本にも考えてもらいたいことがある。米日地位協定のことだ。」
「と言いますと?」
「在日米軍の撤退も視野に入れた対等地位協定だ。」
「我が国の自衛隊だけで国防をしろとおっしゃるのですか?」
「考えてもみたまえ、総理。朝鮮半島にサードは置かないが、軍港や基地用の飛行場は自由に造れる。尖閣に睨みを利かすなら釜山辺りの港があれば対応できる。米日安全保障条約は維持される。米軍基地がなくなるだけさ。勿論補給の際はよらせてもらうよ。」
「…出来ますか?我が国に。」
「私が言うのもなんだが、日本が移民を受け入れる規模を拡大すれば、少子化も解消されるし、若い自衛隊員も増える。観光ではなく在住、在住よりも帰化だよ。総人口を増やさなければこの国は戦わずして滅ぶぞ。」
「大統領、貴方の仰るとおりです。内政干渉気味の発言にお答えしますと、このままの出生率で推移すれば自衛隊そのものが高齢化していきます。既にその波は来ています。自衛官が特別職国家公務員である以上、フランスのような外国人部隊は創設できません。外国人の帰化制度の条件緩和や、その子息の防衛大学への受験資格の見直しなども検討すべきところです。ところで大統領、ロシアにはどう働きかけるおつもりで?」
「秘密協定でクリミア半島併合を黙認する。あえて言わないが他の譲歩・妥協も視野に入れている」
「大統領、よろしいので?」
「ああ。それと引き換えに北朝鮮党委員長の亡命を認めさせない。中国も同様にだ。核を放った厄介者を庇い立てするほど主席はお人よしではない」
「北朝鮮三代に及ぶ世襲国家の息の根を止めるおつもりで?」
「結果的にそうなるな。向こうの尊重する正当な血族を始末しなければ残党が立ち上がる可能性もあるからな。その可能性の芽は摘んでおきたい。」
「戦後、この国も変わらなければなりません。日本が自力で国防力を賄えるその日まで地位協定の見直しは延期していただけませんか?」
「総理、空母を持てない国に国防力は期待できないよ。早々に有事特例法で空母の保有を認めさせてしまえばどうだ。日本のヘリ搭載型護衛艦、カタパルトをつけたら空母だろう?例えば戦闘機搭載型護衛艦とかにすればいいじゃないか。日本でも開発中だろうが我が国の戦闘機お安くするよ。」
「大統領、我が国の問題である空母問題についてはご遠慮願いたい。同盟国とはいえ、内政干渉です。」
「総理、言うようになったな。我が国のスパイからの拉致被害者の居場所の情報は役に立ったかね?」
「はい、とても。あれがなければ救出は不可能でした。」
「総理、私個人の意見だが、スパイを持つこと。スパイ防止法を持つこと。これは基本だぞ。そして空母だ。」
「私個人として、そのとおりだと思います。」
「君のことだからその辺、抜かりはないのだろう?」
「戦後の話ですね。ご想像にお任せします。」
「総理、我々は核の防衛力を棄てねばならん。核兵器を保有することが非核兵器保有国に大義名分を与えてしまうからだ。核を棄てた国へ更に尚、核を放ってくる国に対して、より大義名分を得られるのはどちらだ?核を棄てたほうだろう。核を棄てねば負ける。これからの時代はそうあるべきだ。放てば負けなのだ。ロケットマンを前例とするのさ。」
「大統領、貴方の考えが実現すれば、数え切れない犠牲者を生み出す戦争はなくなります。我が国も微力ながら協力します。」
両者の密談は思いのほか長く続き、とても有意義なものとなった。そして、朝鮮半島戦線膠着状態の最中、米国大統領はロシア大統領との首脳会談に臨んだ。密談ありきである。
(つづく)
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