第42話 いざシルヴェリアへ※


 島の縁のボウトの戻り、結局は何もできずに街へと戻ることにする二人。

 まあ、何かをするつもりだったのはユーヒの方だけだが。


 ユーヒは漕ぎ手のルイジェンと相対して座る為、そのルイジェンの肩越しに遠ざかってゆく島影をぼんやりと眺める格好になる。


「それで? もし祠があったら、何だったんだよ?」

「え?」


 ルイジェンが質問してきたから、思わず、驚いてしまった。こういう質問をするってことは、ユーヒの言っていることにいくらか興味を持つようになったということだ。


「――なんだよ? そんなに驚くことか? もういいよ、話したくないなら――」

「あ、いやいやいや、ごめん! 話すよ!」

「――お、俺だってさすがにお前の言ってることの全部が作り話だなんてもう思ってないよ。メルリアさまも、お前の言ってる過去のことは合っているって言ってたしな」

「うん。実はあの島の祠の傍に洞穴があって、その中に泉があるんだ。その泉には昔、アリアーデが一時身を隠していたのさ。せっかくテルトーに寄ったなら、確かめておこうと……え? ルイ! あれ、なに!?」


 ユーヒはルイジェンの肩先から見える島影の方を指さして、目を丸くする。

 ルイジェンもそれに従って振り向いた。


 二人の視線の先に、ぼんやりと淡い光が灯っている。光は湖面の上数センチのあたりに留まって、しばらくの間光を放った後、すぅっと湖面に吸い込まれるように消えた。


「――魔素? かな?」

と、ルイジェン。

「魔素――。ルイ! もしかしたらあの位置の湖底に何かあるかも!?」

と、ユーヒ。


 ルイジェンはユーヒに向き直ると、再びボウトを漕ぎだした。


「ルイ?」

「もし仮に湖底に何かあったとしても、今は何もできないしな。今日のところは、ひきあげようぜ。テルトーは南北と西を結ぶ交差点だ。また来る機会もあるだろうさ」

「――そうだね、そうしよう。たぶん、「今」じゃないんだろう。その時が来たら、またここに来ることになるのかもしれないね」

「まあ、そういうことだな」


 そういう会話を交わし、二人はそのままテルトーの街へと戻った。



 街へ戻った二人は、少し遅めの出発をすることに。

 メルリアからの特命依頼を受けとり、街間移動クエストを申請するためにギルド支部へ寄った二人は、その後早めの昼食を取ってからテルトーを出発する。


 テルトーからシルヴェリアへは、徒歩で約6時間ほど。昼前に出たから、夕方には到着するはずだ。


 街道は整備されていて、往来も結構ある。

 ところどころに衛士小屋があり、十数分おきに長槍を持った衛士とすれ違うほどに、街道の警備は固い。


「衛士がおおいね?」

「まあ、この先は王都だからな。ところどころに設置してある衛士小屋と衛士小屋の間を、衛士が交代で巡回してるのさ。おかげで、街道周辺に魔物が現れることはほとんどない。往来する一般人は安心して物を運べるというわけさ」


 たしかに物を積んだ荷馬車や、市民を乗せた駅馬車などもかなりの数見受けられる。その反面、冒険者の数はそれほど多くないようにも見える。


「冒険者の数は少ないだろ? それは、この周辺では大して仕事が無いからなんだ。護衛も、討伐も、街道周辺にはあまりないから、冒険者たちが少ないってわけさ」


 なるほど、たしかに理に適っている。

 魔物が少ないということは、冒険者の活躍の場が少ないということで、つまり、依頼の数も少ない。

 そういうことを言っているのだろう。


 途中、テルトーとシルヴェリアのちょうど中間点に、小さな中継所が設置されていた。

 夕日ユーヒの物語には存在しなかった場所だ。

 二人はそこで、少し休憩を取り、おやつに「りんごパイ」を二つほど頬張ると、再び王都を目指して歩き始める。


 やがて、王都の街影が見えるころ、日が落ち始めた。


 夕方のオレンジ色の光に照らされた王都が遠くに見える。大きな街だ。

 おそらく、ベイリールと同じくらいの規模があるだろうが、ここは今や「世界の中心」とも呼ばれる都だ、見えている以上に大きいぞ、とルイジェンは言う。


 ルイジェンの話によれば、シルヴェリアが世界の中心と呼ばれる理由は、エリシア大神殿があること、国際魔法庁本部があること、そして、


「クインジェム議事堂があるからさ。クインジェム議会というものが現在の国際関係を調整しているのさ。とはいえ、魔族侵攻以降、人類間の争いは無くなったから、主に、『闇』対策と、国際共通法の整備、国境周辺の資源採掘権の調整などが主な議題になっている――」


ということらしい。


 クインジェム議会――。

 ユーヒは初めて聞く団体だが、『夕日ユーヒの物語』以降に人類が『闇』の魔素に対応するために導き出した一つの解答なのだろう。


 日が暮れると、王都に明かりが灯り始めた。

 その街灯りが、周囲を明るく照らし出して、街道上はそれほど暗くない。それに、街がそろそろ目前に来る頃には、街道上に街灯も設置されているため、おそらく、周辺の治安はかなり良いだろう。


 二人は、日が暮れて少しした頃、とうとう王都シルヴェリアへ到着した。

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素人作家、「自作世界」で覚醒する。~スキルのある世界なのにスキルを覚えないんですが、どうなっているのでしょう?その代わり基礎パラメータが人の数倍の速度で上昇しているようです~(仮) 永礼 経 @kyonagare

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