第41話 テルトーの湖
クルシュ暦1387年1月6日――。
ユーヒとルイジェンはテルトーの街に到着していた。
昨日の夕方、テルトーに到着した二人は、そのまま宿屋に入り、一夜を過ごした。
そして今日、テルトーの街を散策していて気が付いたことはかなり多かった。
テルトーの街はソードウェーブほどの大きさはない。が、それでもやはり、
石畳の広場があったり、石造りの家々が多く立ち並んでいたりしている。が、なにより大きく変わっていると感じたのは、「湖の位置」だ。
が、現在、湖は街の「中央」にある。
つまり、湖をぐるりと囲むように街が連なっているというわけだ。
そして一番大きな変化がその湖だ。
湖の大きさはそこそこあったはずで、中央に島が存在していたのが
(結構変わってるなぁ――。そう言えばルイジェンはこの街の出身だとか言ってたけど、今でも実家とかは存在してるのかな?)
と、ユーヒは隣のルイジェンの様子を覗き見る。
すると、折よくルイジェンが話し出した。
「俺はこの街の生まれなんだけど、ここにはもう何もないんだ――」
「なにも? ってことは、実家とかってこと?」
「ああ、実家はもうない。両親もとっくの昔に天に召されてる。だから、ユーヒ、この街で俺が案内できる場所はそんなにないんだよ」
「――そう、だったんだ。ルイ、中央の島へ行ってみたいんだけど、渡れるのか?」
「島へ? どうしてそんなところに行きたいなんて思うんだ? 渡るには、どこかでボウトを借りないと、だな」
「実は、確かめたいことがあってね――」
ユーヒが確かめたいこと。それは中央の島の「
前にルイジェンにその話をしたが、ルイジェンはその祠には心当たりがないような反応だった。とすれば、この1200年ほどの間に無くなってしまったと考えるのが妥当なところだろうが、やはり、自分自身の目で確かめておきたい。
ちなみにその「祠」の脇にある洞穴から島の「内部」へと進むと、アリアーデ(メルリアの母)が一時期潜伏していた泉へ行きつくという設定だった。
現在の湖の情景を見る限り、もしかしたら湖底に沈んでしまっているのかもしれないと、そう思える。
それも、見てみなければ、納得がいかない。いや、なぜだかわからないけど、僕はそこに行かないといけないような、そんな予感がしている。
これは、ルイジェンに「祠」のことを
「ごめんね、ルイ。でも、どうしても行きたいんだ。どこかでボウトを借りれないかな?」
「わかったよ――。俺はまだ『案内役』だからな。依頼主がそういうのなら、それを案内するのが俺の仕事さ。じゃあいくぞ?」
そうして二人は湖の方へと歩みを進めた。
湖のほとりでしばらく待たされたユーヒに、ルイジェンが駆け寄ってきて、ボウトを貸してくれる人が見つかったと言ってくる。二人して、そこまで行き、ボウトを借り、湖へと漕ぎ出した。
湖面は静かで、ほとんど波がない。漕いでいるのはルイジェンの方で、男と女がなんだか逆なような気がするが、ルイジェンのボウトの操作技術の高さを見ると、自分が漕ぐと言い出さなくてよかったと胸を撫で下ろした。
数分ほどで、島の縁に到着。
しかし、そのあまりの小ささに、ユーヒはさすがに驚いてしまった。
島は、岩山のてっぺんのような形状をしており、広さは直径約200メートルほどしかない。
島の縁から、丘上に起伏を描き、反対の岸へと至るまで、難なく歩ける程度の距離だ。木々は生えていなく、苔が生えている程度で、気を付けなければ足を滑らせてしまうだろう。
その島のてっぺんに二人で立つと、周囲をぐるりと囲む湖と街が一望できるというわけだ。
「どうだ? 気が済んだか? 何もないだろ?」
「あ、ああ。本当に何もないんだね――」
ルイジェンが呆れたように言うと、ユーヒも少し残念さを滲ませた言葉で返す。
「ねえ、ルイ。この湖に潜れる魔法とかってあるのかな?」
「は?」
ルイジェンがユーヒの言葉に驚いて返す。
「あ、いや、もしかしたら湖底に沈んじゃってるんじゃないかって、そう思ったんだ――。まあ、そんな都合のいい魔法なんてないだろうけど――」
「あるよ」
「え!? あるの!?」
ユーヒが今度は驚く番だ。自分が質問しておいてその反応を取ってしまうあたり、ユーヒ自身があまりに期待していなかったことが露呈してしまう。
「まあ、その為には魔術士を雇わないとだけどな――。俺には扱えない魔法なんだ。まあ、単純に潜れと言われれば出来ないことは無いけど、さすがにこの季節に湖に潜るなんて、少し考えられないな――」
今は冬の真っ只中だ。
さすがに凍えてしまうだろうことは想像に難くない。
「――そうか、魔術士がいれば、可能なんだね?」
「まあな。風系魔法でしばらくの間息を持たせる魔法があるんだ。それを使えば、数分ぐらいは水中で活動できる」
なるほど、そんな魔法も存在してるのかと、ユーヒは魔法の進化についても知りたいと思うようになった。
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