第1話 すぐにデレデレになる、ツンツンしたクール美人の先輩が入部して来た。
1日の授業が終わると、瑛太はすぐに文芸同好会の部室に向かった。彼はクラスでもぼっちなため教室に用事はない。
(いや~放課後にひとりだけの文芸同好会でのんびり過ごせるのは最高だ。まぁ、いずれは最低でも3人部員を集めなきゃならないけど……なんにせよ、周りからバカにされながら部活を続けていたのを思うとここは天国だ)
窓から流れ込んでくる心地よい風を頬に感じながら、瑛太はのんびりと本を読む。今まで部活で理不尽な思いをし続けてきた彼にとって実に心地よい空間なことだろう。
「いやぁ、面白かった……なんか飲み物でも買ってくるか」
一冊の本を読み終え、喉も乾いてきた瑛太はそんな独り言を呟きながら立ち上がる。
ちょうどそのとき、部室の扉がノックされて1人の女性が入ってくる。
青っぽく染められたショートヘア。凛とした瞳の美人顔。
モデルのようにスラっとした体にジャケットを羽織っている。下にはスラっと長く、それでいてムッチリとしたエッチな太もものラインがハッキリとわかるスキニージーンズをはいている。
「神谷先生……? どうしたんですか?」
彼女はこの同好会の顧問である、現代文教師の
それ故に、いきなり部室に彼女が現れたことに瑛太は驚いていた。
「村雲、新入部員を連れて来たぞ」
「えっ、新入部員?」
神谷の言葉と共に、1人の女子生徒が姿を現した。
クールビューティーという言葉がしっくりくる、この高校の制服を来た女子だった。
色白な肌に整った目鼻立ち。鮮やかな黒髪のロングヘアは腰のあたりまでまっすぐに伸びている。
スカートの丈はかなり短く、黒のニーハイソックスからのぞく絶対領域の太ももが眩しい。
不本意そうな表情で一向に口を開かないその女子生徒を見かねたのか、神谷が彼女の紹介をしてきた。
「彼女は3年の
「な、なるほど……」
この高校では、1ヶ月以上部活に入っていない状態を保つのは校則違反になる。それは受験を控えた3年生といえど同じだ。
(まぁ、基本的に3年生は部活には所属していてもこの期間は引退扱いで、ほとんど活動には参加しないのが定石なんだけど……この先輩は1ヶ月前にわざわざ部活を辞めたってことだよね。なにか事情があるんだろうか)
なんにせよ、神谷はなんらかの部活に所属しなければいけない状況の彼女を、瑛太が隠れ蓑として作ったこの文芸同好会に入れようという考えなのだろう。
「同好会は3ヶ月間に3人の部員を集めなければ部活としては認められない。村雲にとっても部員が増えるのは好条件だと思うが……」
「まぁ、そうですね……」
神谷の言う通りだった。今のところ、瑛太はこの同好会のメンバーを集められる目処が立っていない。もしこのまま人が集まらずに3ヶ月が経過してしまったら、また別の部活を当たらなくてはならない。
この時期にいきなり新入部員として新しく部活に入るのはハードルが高い。とはいえ間違えても卓球部に戻るなんてことはしたくない瑛太。もう背に腹は代えられなかった。
「えと、2年の村雲 瑛太です……よろしくお願いします、一ノ瀬先輩」
「……わたし、誰ともなれ合うつもりないから」
そう言うと冬美は瑛太の挨拶をスルーして部室に入り、椅子に座って本を読み始めてしまった。
「ま、まー……一ノ瀬も悪いやつじゃないんだ。その、ちょっと素直になるのが苦手なだけでなっ。そういうわけだから仲良くしてやってくれ!」
そういうと神谷はシュバっっとその場から早歩きでいなくなってしまった。
「ちょっ、神谷先生っ!」
(はぁ……なんでこんなことに……)
瑛太はため息をついて窓際に目を向ける。すると冬美は一つの椅子に長い脚を組んで座り、澄ました顔で文庫本を読んでいた。
窓から吹き込む風に彼女の美しい黒髪がひらひらと揺れた。その綺麗な容姿に、瑛太はつい見とれてしまいそうになる。
(まぁ、確かに綺麗だけど……。そんな態度ならこっちだって全然仲良くするつもりないし……? 俺だって、もう誰ともなれ合うつもりなんてないんだよ)
そんなことを考えながら、瑛太は飲み物を買うために部室を出た。
すぐに、このツンツンした美人な先輩がデレッデレに甘えてくるようになることだど予想もせずに――
運動部でハブられていた俺が部活を辞めて隠れ蓑に文芸同好会を作ったら、次々と美女たちが入部して来ちゃったんだが! 踊る標識 @odoru_hyousiki
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