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現実がゾンビパニックゲームの世界になった。高校内で唯一このゲームをやりこんでいた陰キャぼっちは楽々無双!美少女たちを次々と助けてモテまくっている件。【お試し版】

 陣野《じんの》 怜司《れいじ》は陰キャぼっちな高校2年生だ。

 休み時間、今日も彼が1人自分の席でスマホゲームをやっていると、悪意を持った複数人のクラスメイトが近づいて来た。

「うわっ、こいつ今日もまた1人でキモイゲームやってんぜ」

 そう声を発したのはクラスでも一番目立っている郷田《ごうだ》 広大《こうだい》だ。

 それを無視してゲームを続けていると、怜司の手からゲームをプレイしていたスマホがスッと消える。

「てか、こんなマイナーなゲームやってんのこの高校であんただけだっつの。キンッモ」

 端末を奪い、そんな言葉を投げかけてくるのは郷田 広大の彼女だとかいう岸川《きしかわ》 愛羅《あいら》。

 顔はいいし、胸も尻も太ももも豊満でエロい。クラスではトップクラスで男子から人気があった。

 しかし、怜司に対してはいつもこんなふうにバカにしてくるので、彼は愛羅のことが嫌いだった。

 ――バシッ。

 怜司は立ち上がり、愛羅からスマホを奪い返すと何も言わずに教室を出て行った。

「ちょっと! ぼっちで可哀想だからせっかくこのわたしが構ってやったってのに……なんなのその態度!」

「てか、もう授業はじまるってのにどこ行くんだアイツ? バカじゃねぇの?」

「「「ひゃははは!」」」

 背後から広大や愛羅、そして彼らの取り巻きのものと思われる野次を一切聞こえていないかのように無視して、怜司は教室を出て行った。

 ◇

(ふぅ……これでやっと落ち着いてゲームができる)

 教室を抜け出した怜司は保健室へとやってきていた。

 普段、怜司は授業を真面目に受けており、仮病で休むようなことはなかった。しかし、今日だけはどうしてもあの空気の教室に戻りたくはなかったのだ。

 美人でエッチだと男子生徒から非常に人気の高い養護教諭は、怜司の仮病を疑うことなく彼をベッドで休ませてくれてから、しばらく用事があるとかで保健室を出て行った。

 怜司の隣のベッドにはカーテンがかけられている。

(他にも誰か寝てるのか……? イヤフォンでもつけて静かにやろう)

 怜司はベッドに座ると、スマートフォンを取り出してイヤフォンを装着するとゲームを起動した。先程教室でも彼がプレイしていた、広大や愛羅がバカにしてきたゲームである。

 タイトルはゾンビ・パニック・シミュレーター。いわゆるシミュレーション系のゲームである。

 決められたストーリーや主要なキャラクターは存在せず、自由度が非常に高い。ゾンビが出現した町で武器を手にしてゾンビと戦ったり、NPCキャラの親密度を上げたり、拠点を作ったり……といった行動が主になる。

 実際マイナーなゲームではあり、愛羅に言われたようにこの学校内でこのゲームをやっているのは怜司だけだというのは事実かもしれなかった。

 それでも彼はこのゲームが好きで、レベルもNPCとの親密度も資金もカンストしていた。

 今も慣れた手つきで端末内のキャラクターを操作している怜司。

「陣野くん、なーにやってるの?」

 そんな彼に、ふと声がかける。

「わっ」

 画面に集中していた怜司が驚いて顔を上げると、1人の女子生徒が隣のベッドに腰かけていた。先程までかかっていたカーテンは開かれている。

 肩元で切りそろえられた黒髪のショートヘア。着崩した制服に短めのスカート。陸上部なため日々鍛えているスラっとした長い脚、それでいて豊満なムッチリ太もも。

 彼女はその健康的な脚を可愛らしくブラブラしながら、驚いた表情の怜司に微笑みかける。

 名前は七海《ななみ》 千尋《ちひろ》。去年――怜司が1年生のときに同じクラスだった。

 クラスで孤立しているぼっちの怜司にも一切偏見を持たず話しかけてくれて、彼が密かに気になっている女子生徒だった。

「めずらしいね、陣野くんが保健室にいるなんて」

「うん……ちょっと仮病使っちゃった」

 気になっている女子と保健室で2人きり……なんていうシチュエーションに心臓が高鳴る。しかし怜司はそれを必死に押さえ、千尋に不審がられないように平然を装って答えた。

 それはそれとして、彼には気になっていることがあった。

 怜司が保健室にいるのは確かにめずらしいが、それは千尋も同じだからだ。一年間同じクラスにいて彼女が体調を崩すようなことは一度もなかったし、運動神経がよく怪我をしているところもあまり見たことがない。

「七海さんこそめずらしいね。体調悪いの?」

「あははっ、実はわたしも陣野くんと同じ。仮病使っちゃった」

 千尋が仮病を使ったと言うのは正直意外だった。まだ怪我をしたとかの方が信じられたかもしれない。去年、一年間同じクラスにいて彼女が保健室でサボるというのは想像できなかったからだ。

(七海さん、クラスが変わってから何かあったのかな……)

 怜司がそんなことを考えていると、なんと千尋は彼のベッドに近づいて来た。

「隣、いい?」

「うっ、うん……!」

「ありがとっ、失礼しま~す。それで何やってるの? ゲーム?」

 そう言って、千尋は怜司の隣に座ってくる。

(ちょっ、近い……)

 千尋は顔を近づけてスマホの画面をのぞき込んでくる。サラサラな髪が揺れ、ときおり頬に触れてくる。そのたびにシャンプーの甘く心地よい香りが鼻腔をくすぐった。

「面白そう、わたしもやってみよっかな」

 そんなことを言って千尋は自分のスマホを取り出した。

「よければURL送るよ」

「うん、ありがとっ」

 今までバカにされることはあっても、このゲームをやっているのを見られて面白そうなんて言われることはなかった。ましてや、自分自身も一緒にプレイしてみようという人など。

 しかもそれが気になっている美人な女子生徒で、こんな近くに座られて……。

 怜司は必死で胸の高鳴りを抑えながら、ゾンビ・パニック・シミュレーターのURLを千尋に送った。

 ◇

 ――世界崩壊まで、残り1日。



 今日も憂鬱でしかない高校生活を怜司は淡々と過ごし、放課後がやって来る。

 ただ、いつも光のない虚無な瞳をした怜司が今日は少しだけ気力を宿していた。それはひとえに、保健室での七海 千尋との出来事があったからだろう。

 あの後、授業終了のチャイムが鳴り響くまで怜司は千尋とふたりでゲームをして過ごした。肩に手を触れれば、今でも隣り合って座っていた千尋の体が触れていた感覚を思い出すことができる。

(さて、今日はどうしようかな……)

 いつも、怜司は放課後すぐに家に帰る気にはならなかった。彼にとって家は教室と同様に非常に居心地の悪い空間だからだ。

 両親はともに、息子を人形のように操って支配するような人間だ。彼が家に帰ってから寝るまであれをしろこれをしろと、すべてのスケジュールを親が綿密に決めていて、いうことを聞かないとすぐに母親はヒステリックを起こすし、父親は暴力を振るう。

 もちろん娯楽も禁止されているため家には本やゲームは存在しない。だから、休み時間にスマホゲームをする時間は怜司にとって現実逃避のようなものなのである。

 ゾンビパニックをテーマとしたゲームをプレイしているのも、彼が心の奥底で無意識的に抱いている願望をどこか満たせるからなのかもしれない。

 ――こんな世界、ゾンビゲームのようにパンデミックでも起こって滅茶苦茶になってしまえばいいのに……という。

(今日は両親の帰りも遅いし、最近行けてなかった図書館でも行くか)

 怜司は両親に反抗するという行為は諦めていた。もはやしても無駄だと分かっている。ならば、いかにして支配から逃れられる時間を有効に使うかということの方が大事だ。

 両親の帰りが遅い日にはよく学校の図書館に行くことにしている。ここでなら気にせず好きな本を読むこともできる。

――ガラガラガラ。

 怜司が扉を開けて図書館に入ると、1人の美人な女性が近づいて来る。

「あら、陣野くん久しぶり~!」

「お久しぶりです」

 女性の名前は宮瀬《みやせ》 絵莉奈《えりな》。この図書館の司書さんである。

 緩くウェーブのかかった茶髪のセミロングヘア。今日はニットワンピースにスキニージーンズという格好で比較的露出は控えめだが、溢れ出る大人の女性の魅力。

 ニットワンピースを押し上げる豊満な胸は飛び込みたくなる衝動を与えるし、ズボン越しでもプリっプリなお尻の形がハッキリとわかる。しかもスキニーのジーンズなのでモデルのように長く、それでいてムッチムチな太ももの輪郭がはっきりとわかる。

「お姉さん、陣野くんのために本いっぱい入荷しといたんだよ~?」

 そう言って絵莉奈はたくさんの本を抱えてカウンターに持って来る。本を置いた反動で、彼女の豊満な胸がブルンブルンと揺れた。

 本の内容は怜司が読みたかったミステリー小説やライトノベル、さらには漫画までもがある。

「おぉ~、こんなに、本当にありがとうございます!」

 絵莉奈は怜司の家庭の事情を知っており、いつもこのように彼が読みたい本をたくさん入れてくれる。

「ふふっ、もっとお姉さんにたっくさん甘えちゃっていいんだぞ?」

 そう言うと絵莉奈は怜司をカウンター越しに抱きかかえ、頭をなで始めた。顔面に、彼女の豊満な胸が押し付けられる。

「ちょっ……」

 幸い図書館ないには怜司と絵莉奈以外には誰もいない為、この状況を誰かに見られる恐れはない。

 しかし、年頃の彼にとって美人なお姉さんから抱きしめられ、胸を顔面に押し付けられている状況を耐えられなかった。

「お、俺っ……本読んで来ますっ」

 怜司は絵莉奈の体から離れると本を持ち上げ、照れを隠すようにいつも使っている窓際の席へと移動した。

(やっ、やばい……。めっちゃ柔らかかったし、なんかすごくいい香りが……)

 しばらくは絵莉奈に抱きしめられた感触を忘れられずぼーっとしていたが、しばらくしてから怜司は彼女が入れてくれた本を読み始めた。

 やがて彼は一切の本を読み終え、息をつく。

「ふぅ、面白かった……」

 たった今読み終えた物語の余韻に浸りながらぼんやりと窓の外を見つめていたとき。とある女子生徒の姿が目に映った。

(霧野 沙也加か……)

 腰のあたりまでまっすぐに伸びるストレートロングの金髪。スタイルがよく、来ている学校の制服も彼女が纏うと撮影の衣装のようだ。

 霧野 沙也加は人気モデルで、今年新入生としてこの高校に入学してきた。つまり、怜司にとってはひとつしたの後輩ということになる。

(同じ学校になったからって、話す機会なんてこれから卒業するまでないんだろうな……)

 怜司はもともと沙也加のSNSをフォローしたり、彼女が表紙を飾っている雑誌をチェックしたりしていた。

 この学校に入学してきたということを聞いたときは胸が高鳴ったものだが……彼女と仲良くなるなんてイベントはおろか、挨拶をする機会すらなかった。

(歩いてる姿を見られただけでもラッキーだと思おう)

 そう心の中でつぶやいて、怜司は次の本に手を伸ばした。

 ◇

 ――世界崩壊まで、残り21時間。

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