第18話 3人目の女

 放課後に街に出た。

 魔道具屋がゴザを広げている。

 相場の10分の1の価格。


「いらっしゃい」

「何でこんなに安いんだ?」

「うちは仕入れが特殊でして」


 念話発動。


『カモが来たぜ。故障している魔道具を売りつけてやろう』


 まあ、そんなことだと思ったよ。


「それを買ったら駄目! 詐欺だから!」


 女の子が乱入してきた。


「魔道具を試しても良いですぜ。その代わり買って貰わないと困る」


 男は魔道具を手渡し、女の子は魔道具を試し始めた。


『ふふっ、そいつはちゃんと動作する魔道具。すり替えたのに気がつかないとはとんだ間抜けだ』


「そんな。故障した魔道具をこの男が仕入れるのを確かに見たのに」


 詐欺師を生かしておくのは嫌だな。


「懐に仕舞った魔道具を見せてもらおう。ほらあるだろ」

「何の事だ」

「とぼけるのか? 真偽官の前でそう言えるかな。お前が詐欺師だったら真偽官の代金はお前が持つんだからな」

「くっ」


 男はゴザも魔道具も置いて逃げ出した。


「儲けたな。残された物は貰っても構わないだろう」


「えっ!」


 詐欺を指摘した女の子が魔道具を手に目を丸くした。


「俺の取り分は全部故障した魔道具か。有効活用できないかな」

「師匠、今度は魔道具職人の師匠になるんですか?」

「根性で直せないかな」


「ぷははっ、根性で壊れた魔道具を直すなんて人を初めてみた。もし直せるのなら、弟子でも恋人でもなってあげるわ」

「俺はラウド。君は?」

「クラリオーネ」


 魔道具が歌を歌うのは分かっている。

 問題はノイズが入った場所が故障箇所だってことだ。

 魔道具に関して俺は素人だ。

 詳しそうなクラリオーネに聞くのが良いだろう。


「魔道具はどうやって作るんだ?」

「そんなことも知らないのに直そうとしてたの。いいわ教えてあげる。魔石と魔導インク、これが心臓部。がわはがわでしかないわ」

「魔導インクはどう使うんだ?」

「魔導インクで魔法陣を描くと作れるのよ。ただし魔導インクは描くと消えてしまうから、元がどんな魔法陣か作った人しか知らないわ。作った人でも寸分たがわず、故障箇所の部分を書き直したりできない。見えないんだから当たり前よね」

「魔導インクは持っている」

「ええ、これよ」


 クラリオーネは腰のインク壺を指差した。


『魔導インクよ! 魔法陣を形どれ、歌に従って! ララ♪ラーラーラ♪ラーラ♪ララ♪ラー♪ララ♪ラーラーラー♪ラーラ♪』


 クラリオーネのインク壺から、インクが一筋宙に舞って、魔法陣を形どった。

 そして、俺が手に持っている魔道具の内部に入る。

 魔導インクは魔力を含んでいるらしい。

 魔法現象の一種と言っても良いかも知れない。

 だから操れる。


「直ったかな」


 俺が魔道具を起動すると魔道具は火を灯した。


「うそっ。間違いよ。間違いに違いないわ。そうよすり替えたのよ。あの男がやってたのと同じ手口」

「どんな魔道具も直せるし、複製も出来ると思うな」

「なら、やって見せなさい」


 クラリオーネに手を掴まれた。

 そして、クラリオーネが走り出す。


「ちょっと!」


 レベッタとカンナは苦笑い。

 どうやら俺はやらかしたらしい。

 5番目の英雄だとばれないためには、クラリオーネも俺達のパーティに入れるしかない。


 着いたのは、工房。


「さあ、この魔道具の複製を作って」


 魔道具を起動すると、地図が表示された。

 便利な魔道具だな。

 1個欲しい。

 歌は『ラーラー♪ララー♪ララーラーラ♪』

 歌さえ分かれば複製は容易い。


「このがわを使って良いのかな?」

「ええ」


『魔導インクよ! 魔法陣を形どれ、歌に従って! ラーラー♪ララー♪ララーラーラ♪』


「出来たぞ」

「嘘よ! 嘘だと言って! 試さないと!」


 クラリオーネは二つの魔道具を何回も交互に試す。

 クラリオーネの顔が驚き、呆れ、笑いと目まぐるしく変わる。


「どうだ」

「古代魔道具を複製されたら、疑いようがないわ。あなたが私の恋人なのね」

「駄目!」

「ええ、独占は許さない」


「まず、ぶっちゃけると、弟子から始めよう」

「弟子にしてくれるの?」

「俺の秘密は厳守だ。それが守れるならな」

「守る。絶対に守る」


「よしっ! 打ち明けると俺が5番目の英雄だ」

「へぇ」

「信じてないのか?」

「ううん、魔道具の複製が作れるのなら、5番目の英雄なんて事実はどうでも良いわ」


「でもって、5番目の英雄だとばれると不味い。なので表向きは俺はヒモだ。だからクラリオーネも俺の女ということになる」

「表向きも裏向きも何でも良いわ。とりあえず地図の魔道具の魔法陣を見せて。書き写すから。早く! さっさとやる!」


 俺って師匠なんだよな。

 なんか立場が逆なような。


 学園に帰り、クラリオーネを3番目の従者として登録した。


「この、グズ! さっさと部屋に案内しなさい!」


『今度の女は気が強そうだな』

『でも今度も美人だ』

『叱られるのも癖になるかもな』

『リリー教官に叱られたい』


「ふっ、分かっているさ。無理やりが好きなんだろ。だからつんけんするんだ」

「くっ、自由になんてさせないんだからぁ」

「俺の声に抗えるのならな」

「くっ、好きにしなさい。でもどんな形に変えられたとしても、屈しないわ」


『つんつんしてて、ベッドでは甘えん坊なのか』

『実に良い。この女も良い』

『優秀なんだろうな。ラウドが女にしたってことは』

『どんなスキルを持っているのかな』

『ヒモの餌食がまたひとり』


 うん、まだヒモだと認識されているな。

 俺が魔道具を作りまくってもクラリオーネが作ったことにすれば良い。

 古代魔道具とやらも自由自在だからな。

 きっと儲かるぞ。


 天才魔道具職人のクラリオーネの上前はねる俺。

 実に良い構図だ。

――――――――――――――――――――――――

 近況ノートにも書きましたが、家族が入院して、家事を全部やらないといけなくなりました。

 なので執筆の時間が取れません。

 ストックはこれで終りなので、休載となります。

 ですが、いつか続きを書けるように頑張ります。

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