第17話 入学式

 第5騎士学園の入学式。

 退屈だから、あくびが出てしまった。

 日本でも異世界でもなんでこういう式の挨拶は眠くなるんだろうな。

 不思議だ。


「では、諸君、学園生活を楽しみたまえ」


 やっと終わったか。

 ぞろぞろと教室に移動する。


 サカズムとラーガンは同じクラスだな。

 サカズムはさっそく派閥を作ったみたいだ。

 取り巻きが周りを固めている。


「お前、サカズムさんに逆らったらしいな」


 取り巻きのひとりが来てそう言った。


「クラスメートに上下関係があるなんてのがおかしい」

「俺が、腕前を見てやる。逃げたりしないよな」

「ああ」


「先生、ラウド君に模擬試合を挑まれました」

「ふむ、血気盛んだな。よろしい許可しよう。だがその前に注意事項の冊子を配る。よく読んでおくように」


 模擬試合の項目を見る。

 何か賭けるのは禁止らしい。

 ルールは寸止めの3本勝負。

 負けた方の再戦は一ヶ月後とある。

 模擬試合の結果は成績には反映しない。

 ふむ、練習ってことだな。

 審判は先生が務める。


「両者良いか」


 俺達は頷いた。


「では始め!」

「カンナ、超付与魔法だ」

「はい」


「卑怯だぞ」

「縛りがあるなら事前に先生に申し出ることと、冊子に書いてある」

「くっ。こっちも付与魔法だ」


 俺は対戦相手が付与魔法に掛かる前に、剣を振り寸止めした。

 風圧で相手が吹き飛んで転がり何回もバウンド。



「反則だ!」


 サカズムの取り巻きが騒ぐ。


「1本だ。打撃音がしなかったから、寸止めしたと思われる」


「超付与魔法スキルなんて聞いたことがないぞ」

「実はそのうえの極付与魔法ってのもあって、さらにその上の神付与魔法ってのもある」

「ふざけんな。あるわけないだろう。きっと魔道具を使ったに違いない」


「先生、魔道具は禁止ですか?」

「いいや、事前に申し出がないからな。反則ではない」


 転がってた取り巻きが、立ち上がった。


「隙あり」


 風圧でまたもや吹っ飛ばされる取り巻き。

 壁に叩きつけられ気絶したようだ。


「戦闘不能により、ラウドの勝ち」


「次は俺だ」


 取り巻きのひとりが模擬試合を申し込んできた。


「掛かって来い」

「今度は付与魔法系は禁止だ」

「良いぜ」


「両者良いか」


 俺達は頷いた。


「では始め!」

「カンナ、傀儡魔法だ。操縦はレベッタ」

「はい」


「何だって」


 レベッタが動くと俺はそれを真似して動く。

 風圧で吹っ飛ばされる対戦相手。

 今度は体重が軽い奴だったので、一撃で壁に叩きつけられた。


「付与魔法系を使ったに違いない!」


 取り巻きが騒ぐ。


「使ってない。真偽魔法に掛かっても良いぞ。だが、費用はお前達が持て。もし付与魔法系を使っていたら俺が金を払うここまで言うんだからやるか?」


 真偽官に仕事を頼むのは大金が要る。


「くっ、もう良い」


 サカズムが苦虫を噛み潰したような顔で言った。


『くそっ、ラウドが強くなったカラクリが分からないうちはどうにもならない』


 サカズムの心の声を聞く。

 サカズムはそう考えたか。

 カラクリなんかないんだけどな。

 まあ、レベルカンストなんて誰も信じないだろうけど。



「サカズムさん、真偽官を呼びましょう。金なら俺達が出します」


 取り巻きも必死だな。

 サカズムの実家は大貴族なので、まあ分かるけど。


「よし、やるぞ。ラウドの化けの皮を剥いでやる」


 学園が雇っている真偽官が呼ばれた。


「先の模擬試合で付与魔法系を使いましたか」

「使わない」

「真実ですね。では私はこれで」


「くっ、覚えてろよ」


 サカズム達が去って行った。


『とりあえず、イカサマの種は付与魔法系ではないな。一体なんだ。傀儡魔法なんて聞いたことがないぞ。たぶんそれも嘘だ』


 サカズムもまるきり馬鹿じゃないんだな。

 レベルカンストとか言ったらどんな顔をするかな。

 5番目の英雄だと判るとうっとうしいから言わないけど。


「カンナ、僕の従者になってくれ。ラウドの倍の金を払う」


 カンナがもて始めた。

 みんなカンナを引き抜こうと必死だ。


「嫌です。ラウドと私の体の相性は抜群なんです。あなた達じゃきっと私を満足させられない」


 体の相性というか魔法の相性だな。


『ヒモ野郎が、こんなことを言わせるまで調教したのか』

『羨ましい』

『きっとアレが凄いんだろうな』

『キャー、エッチですぅ。ふしだらですぅ』

『戦争に行っても女には困らないんだろうな』

『テクニックを習いたい。でもアレのレクチャーしてほしいなんてプライドが邪魔して言えない』

『ひょっとしてラウドは王の器なのか。ないな。どこから見てもただのヒモだ』

『超付与魔法スキルほしい』


「それなら、一晩やらないか。満足させる自信がある。舐めろというなどこでも舐める」


 カンナの顔が真っ赤になった。


「俺の女に手を出すな!」

「くっ、ヒモの癖に」

「そうだ。俺は女達がいないと何もできない。だが、女を奪わせたりはしない。俺の女だからな」

「こんな男のどこが良いんだ!」


『良いなぁ。働かずに済むなんて』

『どんなプレーしたら、カンナ嬢を満足させられるのかな?』

『ヒモになりたい』

『あれも一種の才能なんだろうな。きっとヒモの天才なんだろう』


「さあ、カンナ、俺以外の男に色目を使ったお仕置きをしてやる。後で部屋に来い。たっぷり可愛がってやる」


『くっ、エッチなお仕置きなんだろうな』

『辛抱堪らん』

『くそっ、なんであんな奴がもてる』


 みんな騙されたな。

 良いぞ。

 ヒモとして認識されろ。

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