序章ー6

 アルティスは前線での兵士たちの様子を目の当たりにしながら、静かに部隊長に語りかけた。


「これで部隊を下げることに同意してくれるか?俺は自分の力を見せたいわけじゃない。今のうちに部隊を休ませて、俺が消耗したときに交代できるようにしたいんだ」


 彼の真剣な言葉に、部隊長は表情を引き締め、姿勢を正して深々と頭を下げた。


「わかりました!王子のご厚意、ありがたく頂戴いたします!……全部隊、後方に下がって休憩を取れ!」


 部隊長は部下に指示を飛ばし、再びアルティスを振り返った。


「王子も、どうか無茶はされませんように。我々は近くで休息を取っていますので、何かあればすぐに駆けつけます」


 部隊長は礼をし、部下たちを連れて後方へと下がっていった。


「さて、アーティ。目の前に残っている敵の処理をするぞ。属性は神聖、攻撃魔術の一覧を表示してくれ」


 アルティスの言葉に応じて、後方に控えていたアーティがふわりと横に移動し、彼の横でホログラムを投影した。


 彼女の動きに合わせて残像のように光の粒が浮かび流れ、神秘的な雰囲気を漂わせている。


『了解しました。……マスター、まずは標的を選択してください』


 目の前に投影されたホログラムには、前方の戦場の風景が映し出されていた。


 その中には、先ほどの一撃で損傷しながらも動いている【虚無の騎士】の姿もある。


 アルティスは指でホログラム上の騎士たちを一体ずつ選択し、全ての目標に照準を合わせていった。


『次に、神聖攻撃魔術の一覧を表示します』


 ホログラムには神聖属性の魔法一覧が表示された。


『下位魔術〈ホーリー・スパーク〉〈ディヴァイン・ライト〉  中位魔術〈セイクリッド・ブラスト〉〈レイ・オブ・ピュリティ〉  上位魔術〈ホーリー・ノヴァ〉〈エクソダス・レイ〉  最上位魔術〈ディヴァイン・カタストロフィー〉〈セラフィック・エタニエル〉が現在使用可能です。中位魔術〈レイ・オブ・ピュリティ〉で十分に処理できると判断します』


 アーティが魔術の詳細を脳内に流し込み、アルティスも即座に理解した。


「よし、それでいこう」


 アーティの指示に従って、右腕の幾何学模様が白く発光し、背後には大きな魔法陣が浮かび上がった。


 魔法陣からは選定した数だけ白い球体が生まれ、静かに宙に待機している。


『準備が整いました。いつでも発動可能です』


「アーティ、外さないでくれよ……撃て!」


 アルティスの合図と同時に、神聖の光がビーム状に発射され、狙いを定めた虚無の騎士たちを正確に撃ち抜いた。


 その瞬間、敵は一瞬にして神聖な光に包まれ、全て消滅していった。


『全目標排除完了』


 アルティスは辺りを確認し、静かに息をつく。


「とりあえず、ここは片付いたか……」


 しかしその瞬間、まるでそれを嘲笑うかのように空中に無数の裂け目が現れた。


『敵を検知。警戒してください』


 裂け目から次々と【虚無の霧】、【虚無の影】、【虚無の触手】、そして新たな【虚無の騎士】たちが湧き出てくる。


 まるで果てのない悪夢のように増え続ける敵を前に、アルティスは眉をひそめた。


「……まじか。アーティ、全て対処できるか?」


『判断しかねます。敵はさらに増え続けています。撤退を提案いたします』


 アーティの冷静な提案にも、アルティスはすぐに首を振る。


「逃げ場なんてない。ここより後ろには一歩も通すわけにはいかない。アーティ、全て倒す必要はないが、絶対にここを突破させるな」


『了解しました。拠点防衛に移行します。≪不滅の守護≫の使用を提案します』


 アルティスは一瞬迷うが、すぐに左手の親指に着けた指輪に触れた。


「よし、≪不滅の守護≫を起動する」


 指輪が青く輝き、戦場に静かな光が広がる。


『≪不滅の守護≫、起動完了』


 防御魔法の展開が完了し、彼を守る青白い光の壁が前方に立ちはだかった。


「さあ、逃げ場のない防衛線を始めようじゃないか」


 アルティスはそう言って、青白い光の壁から一歩踏み出し、増え続ける敵に立ち向かう準備を整えた。


 彼は、アーティと共に無限に湧き出る敵を迎え撃つ覚悟を決めていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

亡国の王子。見知らぬ土地で無双する。 code0628 @Yamada123

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ