九つの顔(前世)を持つ男〜冬山深雪は前世が見える 3〜
葉月クロル
第1話
「俺は機械工学科の淡島。よろしくね」
「おう、よろ」
夕方の校内で、冬山の隣にいる爽やか系の男子からよろしくされたが、リア充タイプとは友達になりたくない。
こういうやつが俺の名前の『鳩羽カモメ』をネタにするんだよ。合コンとかで何度もやられた。腹立つわー。
俺はとっとと立ち去ろうとして、背中を見せながら言った。
「なに、デートなの? 邪魔しちゃ悪いから帰るわー」
「いやっ、俺達は、別にそういうんじゃ……」
淡島がわかりやすく慌ててみせたのに、冬山は「違うよ」とサクッと否定した。
「アーくんは単なる幼馴染みだから、問題外」
さすがは冬山深雪、寒い名前をしているだけあって切り捨て方もクールだ。見ていて寒気がする。
人の頭の上にその人の前世が見える能力は、心を凍らせていなければ受け入れられないのかもしれない。
かわいそうな冬山。
心まで凍らせた雪女のような女。
顔は可愛いが絶対に無理な女。
アーくんはマゾなのかな。
「冬山にとっての問題外以外の男って、存在するのか?」
「どうだろう? 前世がヤマタノオロチとか、インパクトが強い系の男子がいたらビビッと来るかもしれないわね」
「ハードルたけーよ」
「九尾の狐とかもいいな。きっとハートにモフッと来る」
「前世で尻尾が九つもあるなら、毛深い男じゃねーの?」
「……毛がフサフサ……毛がフサフサだよ……毛が」
「そのネタはやめてくれよ!」
俺は額を押さえた。
「トラウマいじりはくせになるのよ。っていうか、鳩羽がそこに誘導してるよね」
「してねーわ」
淡島こと、幼馴染みのアーくん(前世も同一人物で、今九人いるらしい)(こいつの人生はどうなってるんだ)が「まさか……ふたりは付き合ってるの?」と呟いた。
「この通り、俺と冬山はけっこう喋るけど全然付き合ってないし、この互いに傷つけ合う状態が付き合っているように見えるなら視力検査をした方がいいぞ」
「傷つけてごめんね」
「誠意のない謝罪をありがとう。見えるっていえば、アーくんの後ろにたくさんのアーくんがいるって聞いた?」
「アーくん呼びかよ……聞いた。でも、自分じゃわからないんだよね」
俺は、わからないのは救いだなと思った。九人も前世ができてるってことは、九回死んでるってことだよな。マジ怖いんですけど。
「そうだ、冬山には九人見えるんだよね?」
「見えるよ」
「そうしたら、九尾の狐みたいなもんじゃん。付き合っちゃえば?」
「はあ?」
冬山は嫌そうな顔をし、アーくんは嬉しそうな顔をした。
「九顔のアーくんってインパクト強いじゃんか。ほらほら、なんかアピールしてみなよ。チューチュートレインするとかさ」
「え? チューチュートレイン?」
「俺には見えないけど、冬山には見えるじゃん。ほら、アーくん、やってみ」
「えっ、じゃあ、こうかな」
アーくんは足を肩幅くらいに広げて立つと身をかがめて、ぐるぐると頭と右腕を回した。
「どう? 冬山にはチューチュートレイン見えてる?」
「深雪ちゃん、どうかな」
アーくんは頑張ってぐるぐるした。
冬山はアーくんの上をじっと見つめていたが「うわあ……こんなに気持ちが悪いチューチュートレイン、初めてみたわ。帰る」と立ち去ってしまった。
「……おかしいな。絶対にウケると思ったのに。ノリが悪い女だよねー、アーくん」
「鳩羽、はめやがったな! お前、やっぱりみゆきちゃんのことが……恨むからな!」
涙目になって、アーくんが走り去った。
「アーくん、けっこう面白いやつだな。今度会ったら友達になろう。仲良くなったら俺にもチューチュートレインが見えるようになるかもしれないし」
「ならないと思う」
帰ったと見せかけて、ぐるっと回ってきた冬山が後ろから現れた。
「俺の素敵な未来を否定するのやめてよ」
「全然素敵じゃないよ。生首が九つもぐるんぐるん回るんだよ、全然いいとこないよ、気持ち悪いだけだよ、アーくんにキモい奴って言わなかったわたしを褒めてよ!」
「みゆきちゃん、えらいえらい」
「そう思うなら、アイスでも奢りな。傷ついた気持ちを慰めるにはアイスが一番だと思うんだ」
なるほど、雪女っぽい心の慰め方だ。
さすがは全てが冷たい冬山深雪だね!
九つの顔(前世)を持つ男〜冬山深雪は前世が見える 3〜 葉月クロル @hazuki-c
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