第50話 未来への一皿
「つながりカレー」がオープンしてから数か月。唯のお店は、地域の人々にとってなくてはならない場所になっていた。子ども食堂から始まった小さなつながりは、スパイスの香りに乗って広がり、唯の店には毎日笑顔があふれていた。
ある日、唯はいつものようにカレーを仕込みながら、おばあちゃんと話していた。
「おばあちゃん、最近、本当にたくさんの人が来てくれるんです。あの頃は、まさか自分のお店を持てるなんて思ってなかったな…」
おばあちゃんは穏やかな笑みを浮かべて「唯ちゃん、あなたの努力と心が、人をつなげてきたのよ。だから、こんなに素敵なお店になったの」と言ってくれた。
唯はその言葉に、胸がじんわりと温かくなるのを感じた。
その日の午後、いつものようにお店には子どもたちが来ていた。みなみがカウンターの向こうで笑顔を浮かべながらお客さんに接客し、唯は厨房で「つながりカレー」を丁寧に作り続けていた。
そこへ、一人の青年が店に入ってきた。どこか見覚えのある顔に唯は驚き、手を止めて彼を見つめた。
「…お兄ちゃん?」唯の小さな声が店内に響いた。
青年――唯の兄は、少し照れくさそうに頭をかきながら言った。「久しぶりだな、唯。母さんからお前のお店のことを聞いて、来てみたんだ」
唯は胸がいっぱいになりながら、懐かしい気持ちと少しの驚きで震える声を抑えた。「どうして…?」
「ずっと心配してたよ。お前が家を離れてから、どうしてるのかずっと気になってた。でも…お前、すごいな。こんなお店を持つなんて」
唯は涙をこらえながら言った。「お兄ちゃん、カレー食べていって。私が作ったカレー…食べてほしい」
「もちろんだよ。お前のカレー、食べさせてくれ」と兄は笑い、席に座った。
唯は震える手を落ち着かせながら、兄のために一皿の「つながりカレー」を丁寧に盛り付けた。サツマイモの甘み、レンコンのシャキシャキ感、スパイスの深い香り――唯の物語がすべて詰まったその一皿を運び、「お待たせしました」と静かに置いた。
兄はスプーンを手に取り、一口カレーを口に運んだ。
「…おいしいな」兄は目を細め、笑みを浮かべた。「これ、唯の味だな。優しくて、なんだか懐かしい。お前がどれだけ頑張ってきたか、これだけで分かるよ」
唯は涙がこぼれそうになるのをこらえながら、小さく微笑んだ。
「このカレーは、みんなのおかげでできたんだ。おばあちゃんやみなみちゃん、子ども食堂のみんな、スパイスの旅で出会った人たち…。たくさんの人がつないでくれた味なんだよ」
「だから、つながりカレーか…」兄は優しく呟き、スプーンを進めた。
閉店後、唯はおばあちゃんの隣に座り、静かに語りかけた。
「お兄ちゃんが来てくれて、本当に嬉しかったです。ずっと離れていたけど、このカレーでまたつながれた気がします」
おばあちゃんは微笑み、「唯ちゃん、カレーがつないだのは、あなたの強い心よ。だからこそ、たくさんの人がここに集まるの」と優しく言った。
唯はその言葉を胸に刻み、静かに未来を見つめた。
「このお店を、もっともっとたくさんの人の居場所にしていきたいです。そして、これからもずっと、私のカレーでみんなを笑顔にしていきたい」
その夜、唯は窓の外の星空を見上げながら思った。
「私のカレーは、私の物語。そして、これから出会う人たちの物語にもなっていく」
唯の「つながりカレー」は、これからも多くの人をつなぎ、笑顔を生み出す――それは、彼女の未来を照らす光となり、どこまでも続いていく物語なのだった。
唯ちゃんと、おばあちゃんのカレーライス 星咲 紗和(ほしざき さわ) @bosanezaki92
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